28話 女の子の買い物って長いよね
「ハルちゃん! 配信ではもっとおしゃれしないと!」
「いえ、でも顔出ししませんし」
「それでも私とコラボするんだったらお手々とか足とかちらちら見えるの! だからかわいいの着るの!!」
「はぁ……」
そんな感じで、ベッドででろーんってしてた僕はいつの間にやらモールの中。
女の子の買い物欲ってすごいね。
僕なんか本屋くらいしか楽しくないよ。
あ、でもアウトドア用品とか文房具とかホームセンターは楽しい。
まぁいいけどね、なんかこういうの新鮮だし。
いい感じに隠蔽効かせてるから、男だったときくらいしか見られないし。
そうじゃなかったら?
……金髪ロングで蒼い目でスカートな幼女だよ?
そりゃあ見られるよ?
まぁ今日は大分マシな格好になってるけどね。
「これもどうかなー?」
「ハルにはこっちの方が……」
けども……この子たち、なぜかあの配信の後から妙に引いてる感じがある。
なんて言うか……ご機嫌うかがってるって言うか?
腫れものってまでは行かないけども、これまでのぐいぐいさ加減がちょっとおとなしめ。
そんな感じ。
だからワンテンポって言うかワンクッション置いて僕を着せ替えてくる。
結局着せ替えられるにしても、過程で何十回も着替えるのと何回かとは別物。
だから待つ間は適当なところでだらんとしてたら良いっぽい。
これなら母さんの買い物の荷物持ちよりは楽かな?
……あ、次実家に帰ったら僕、もしかして母さんの着せ替え人形……
「ハルさん、この後は」
「本屋さん」
「……でのお買い物の後は」
「帰るよ?」
「……もう少し見て回ったりとかは……」
「いえ、めんどくさいですし」
るるさんとえみさんはサングラスとかメガネに帽子とかって言う「ザ・お忍び」な格好で、さらに僕とは話すとき以外離れてる。
多分通りがかりの勘の良い視聴者さんに2人がバレたとき用のなんだろうね。
今日の僕も、シャツにズボン、九島さんとお揃いのポニテって言う格好になってるし。
ぱっと見で「男の子かも?」って思わせられるようにしてるんだって。
効果がどのくらいかは分からないけども、髪の毛そのままでスカートよりはずっと楽。
……まぁ隠蔽スキル起動しとけば僕って認識されないんだけど……まぁいいや、せっかくやってくれてるんだし。
実はスパイもとい公安さんの手先だった九島さんは、私服もマジメ系でいつも通りのポニテ。
この子と一緒だと気が楽。
ぽつぽつって感じでしか、しかも世間話くらいしかしないからさ。
「あ、ハルさん。 深……るるさんたちが服を選んだって」
「じゃ、ちょっと行ってきます」
そんな彼女は僕の警護と2人との連絡役とですっかり秘書さん。
この子もさりげなく属性多いよね。
◇
「……ハルちゃんっていつも電子書籍で読んでなかった? 本……」
「だって家から連れて来られましたし」
「ハル、頼む……一応は同意の上ということになっているんだ」
「あ、ここ外ですからね、分かりました」
あー、「連れて来られた」とか警備員さんとかに聞かれたらまずそうだもんね……特にヘンタイさんなえみさんは。
そんな僕は手ぶら。
周りでぶらぶらしてる……ように見える演技してる、私服の護衛の人たちのこと「ハルちゃんの荷物持ちにでも何でも使って良いよ」って言われたから遠慮なく買ったのを持たせてるから楽。
20冊くらいかな?
男の力でもずっと持ってると疲れてくるやつ。
「この体じゃ帰る頃にはへとへとになっちゃいますから助かります」
「え、ええ、みなさんこのくらいは平気だと……」
本屋に突撃してひたすら新刊集めてた僕は、女の子3人からはちょっと引かれてる感じ。
……君たち、服屋何軒も行って3時間くらい使ってたよね……?
「けど、そっか。 ハルちゃんって元々は……だったから、こういうところが大変なんだ。 そうだよね、本とか重いよね」
「私たちは産まれたときから女だからなぁ。 ダンジョンに潜るため鍛え始めてからはむしろ楽になったくらいだが……」
「それであんなに筋力……いえ、何でもないです……」
あ、家のドアがもげてたのってえみさんの馬鹿力らしいね。
ヘンタイ筋肉さんとかもう対処法ない気がする。
「!!」
「帰ってからですよ」
「分かった!」
「えみちゃん……」
一時期「えみちゃんが人としての道を間違っちゃう前にハルちゃんとお別れさせる……?」って、えみさんのこと大好きなるるさんから深刻そうに相談された。
うん……心配だよね……面倒見の良いお姉さん的な人が、ある日を境に幼女見て豹変したんだから。
僕、忘れてないよ?
九島さんに簀巻きにされてもぞもぞうねうねして奇声上げてたの……。
あ、でも足でつんつんすると反応するのは楽しかった。
またつんつんしたい。
で、僕も男だからちょっとは性的嗜好に対する理解はあるってことで「もしえみさんが襲ってきたら全力でぶっ飛ばしていい」っていう約束だけもらっておいた。
……正直女の子に襲われるって時点で僕的にはご褒美なんだけどね。
けどもそれはそれ、えみさんの人生を捻じ曲げたくはないし。
すでに捻じ曲げた可能性については……うん、僕以外の幼女にやらかすよりは良かったんじゃない……?
僕ならもし剥かれたりしてもトラウマどころかご褒美だし。
「……でもハルさん、そこまで女性ものに抵抗、ないんですね」
「うん? まぁ肉体的には女の子……って言うか女の子以前って言うかですし」
たくさんの紙袋に入った僕の新しい服もまた護衛の人たちが持ってくれている。
その中には当然にぱんつとかキャミソールってのとか、ワンピ……じゃないワンピースとかスカートとかふりふりなのとかアクセ……アクセサリーね、アクセサリー……とかが入っている。
それも、女の子視点で「かわいい」のが。
僕はどうでも良いけども。
「単純に服装に興味が無いからってだけな気がしますね。 僕としてはシャツだけでも」
「それは駄目です」
「それはダメー!」
「是非! ………………ダメだ……」
素直なのだけが取り柄なえみさんはものすごく落ち込んでいた。
……えみさんだけのタイミングでシャツ1枚って言う私服にしてみよっかな。
えみさんもロリコンさんで幸せ、僕も楽な格好で幸せ。
万が一僕が襲われてもそれはそれで……あ、えみさんの人生のことがあるからダメかな。
◇
「コラボって言うくらいだから、お揃いの服だよね! 髪型とかも!」
「……え、でもダンジョンの中で配信するんですよね? 通りすがりの人に会ったとき、服見られたら僕ってバレるんじゃ?」
「あ」
ダンジョンの中ってのは、基本的には他の人とかグループとすれ違うことはない。
だってなにしろ1階層ごとに広いんだもん、しかも迷路仕様で大部屋もあんまりない。
入るタイミングもばらばら、みんな攻略ペースは違うって具合で……強いて言えばセーフエリアとか階段で休憩とかしてるときくらいかな?
あと、今どきはみんな配信しながらだったりするからお互いに映るとトラブルになるってことで、近くになるとお互いのリストバンドで位置情報が分かって「顔映っちゃってもいい?」って自動送信。
僕みたいに「絶対にNO」って送ると、いい具合に姿が見えないすれ違いができるからとっても便利な世の中。
……まぁ同接目当てとか迷惑行為したい人は突撃してくるけども、僕はレンジャースキルで隠れるからバレたことはない。
けども、るるさんたちは人気すぎる。
配信中って普通は「どこのダンジョンの何階層攻略してます」って言いながらだから、何組かはそばで見てるって感じらしい。
まぁ多くなってきたら抽選で適度に追っ払うらしいけども……つまりは顔を隠したほうが良いっぽい僕とは相性が最悪なんだ。
「……コラボぉ……」
「僕は別にいいんですけどね、でもバレますよ? こんな幼女が僕だって」
「済まない、私もそのことが抜けていてコラボの許可を」
「僕は気にしてないですよ、えみさん。 けどどうするんですか」
僕とお揃いで着たかったらしいふりふりなのを抱いて絶望している、るるさん。
……そもそも君、前衛職だからスカートで戦ってたらぱんつ見えちゃわない……?
それ以前に戦いにくそう。
「その点については……ちほ」
「はい。 当日はこちらの人員を使いまして人目を物理的に遮断する方針です」
「……そんなのして良いの?」
「ええ、これもハルさんとるるさんに対する特例だと上司が」
ダンジョン内の特定の場所を封鎖しての配信とか……ダメじゃないけどもマナー的にアウトでチクられたら炎上することもある諸刃の剣。
マナーってめんどくさいよね。
僕そういうの苦手。
だからぼっちこそが至高。
「後はそうですね、今回に限り、潜るダンジョンと階層を伏せる方が良いとの判断です」
「……みんなにはごめんだけどしょうがないよね……」
「トラブルを避けるためだからな」
そもそもコラボとかしなきゃ良かったんだろうけどね。
でも物心ついたときから配信とか切り抜きとか見て育った世代だ、きっと配信って言うのが嬉しいものになってるんだろう。
……そういう意味じゃ、ひと世代前の僕になると同じ感覚は味わえない。
まぁ僕は昔っから変わってるって言われてたから、例え同い年でも変わらなかったかもだけど。
「でも今回のって僕たちの呪いっぽいのの調査でもあるんですよね」
「うん……私たちが一緒にいたらどうなるのかって」
「……ダンジョン、1層から最下層まで崩落しません?」
「しないよ!? ……多分」
◆◆◆
28話をお読みくださりありがとうございました。
この作品はだいたい毎日、3000字くらいで投稿します。
ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。
「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」
「なんでもいいからTSロリが見たい」
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※しばらくコメントや感想に返信が追いつきませんけれども、ありがたく読ませていただいています。
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