第3話 断罪の行方
「だいたいレオがお前に虐めをする理由が無い。それにレオはお前に構っているほど暇でも無い。昨日レオに階段から突き落とされただと? いつのことだ」
「え……えっと、そう、放課後。放課後ですわっ。私が帰ろうとしている時に、いきなり後ろからレディリオ様から押されてしまったのです」
アルデリット様からの質問に、ミーナさんが答える。
どうしましょう。
まさか階段から突き落とされたのが昨日だったなんて。
私は昨日、王太子妃教育のため学園を休んでいたことを、アルデリット様や側近様達は知っていますもの。
これでは私に罪を被せるのは難しいですわ。
私はなんでミーナさんと断罪の打ち合わせをしておかなかったのかしら。ミーナさんが断罪してくれることに気づかなかった私の落ち度ですわ。
「はっ。レオは昨日学園には行っていない。どうやってお前を階段から突き落とすというのだ。何が目的だ? 何故レオに
「そ、そんな。違います。私がレディリオ様から虐められていたのは本当なんですっ」
またも縋ろうとするミーナさんの手を、アルデリット様が叩き落とす。
「あ、あのっ、きっと勘違い。そう勘違いだと思いますわ。ミーナさんが階段から突き落とされたのは、違う日だったのでしょう」
思わずミーナさんを庇ってしまいましたわ。
だって、このままでは断罪が成立しませんもの。なんとか不利な現状を打破しなければ。せっかくの断罪をなくされてしまったら困りますわ。
「はぁ? ミーナって誰よ」
私の差し出口にミーナさんが振り返る。今までの愛らしさが嘘のようなキツイ顔つきですわ。
「え? でも、あの、ミーナさん……。ミーナ=ナンターラ男爵令嬢でしょう」
「誰よそれ。私はミーナなんて名前じゃないわ!」
吐き捨てるような返答に、私はただただ
ミーナさんがミーナさんではなかっただなんて。私はアルデリット様の愛する人を間違えていたということ?
いつもアルデリット様と仲睦まじく寄り添っていたのは私の見間違いだったというのですか?
「ああ、レディリオが言っているのは前のヤツのことじゃないか」
「え、前?」
お兄様が困惑している私に声をかけてくれる。でも謎の言葉が出て来て意味が分かりませんわ。
「いや、二人前のヤツでしょう」
「追い払っても追い払っても湧いて出てくるから、名前なんていちいち気にかけていられませんからね」
テオ様とロンド様も、やれやれとため息を吐きながら話に加わってくる。
「ちょっと、私を無視するのは止めなさいよっ! さっきから何なの。悪役令嬢の肩ばっかり持つなんて間違っているわ。私はヒロインなのよ。あんた達は私に攻略されていればいいのよっ」
ミーナさんと勘違いしていた人が地団駄を踏み出した。
悪役令嬢やヒロインという言葉が出てきたから、市井で人気の本を読まれているのね。でも攻略とは何なのかしら?
「まったく、きりが無いな。おい、この自称ヒロインを連れて行け」
アルデリット様はウンザリとした顔をされたまま、片手を上げる。
すぐに控えていた近衛騎士達がヒロインを拘束する。
「きゃあっ。何をするのっ。離しなさいっ! 私は将来王太子妃になるのよっ。無礼者めっ、手を離しなさいっ!!」
ヒロインが大騒ぎをするので、辺りが騒然となってしまっている。
でも何なのかしら。皆の目が
「この自称ヒロインが湧いて出るのは、どうやら市井で人気の小説が原因らしいですよ。どうして本を読んだだけで、自分のことをヒロインだと思い込めるのかは謎ですが、殿下に会いさえすれば一目で恋に落ち、殿下の恋人になれると勘違いして突撃してくるようですね」
「本当に。いくら自分の頭が珍しいピンク色だからといっても、物語と現実を混同するなど、ありえないでしょう」
「珍しいのですかね? 今月は4人目ですよ、多すぎでしょう。いつの間にか殿下の近くに出没するのだから困ったものです。王宮や学園には厳重な警備が敷かれていて不審者の侵入が不可能だとはいえ、自称ヒロイン達は身元のハッキリとした不審者ですからね。警備を考え直さなければいけません」
側近様達が困ったと相槌を打っている。
まさかですけど。私がアルデリット様の愛する人だと信じ込んでいたのは、華奢でピンク頭が同じというだけの複数人だったということですの? 見かけるたびに違う人だったということですの?
アルデリット様とヒロインが一緒にいる時、私はアルデリット様の側に近寄りませんでした。だって間近で仲良さそうに寄り添う二人を見てしまったら、悲しくて泣いてしまいそうでしたから。
まさかヒロインが日替わりだったなんて気づきませんでしたわ!
私の断罪はどうなりますの?
アルデリット様とヒロインが手に手を取って、私のことを断罪してくれると信じておりましたのに。これでは振り出しに戻ってしまいましたわ。
どうやって断罪してもらえばいい?
私は考え込んでしまうのでした。
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