晩餐会-02-
間宮氏はそう叫ぶと、ますます顔をこわばらせている。
まずいことに、間宮氏の様子から察するに確実に俺の現在の行為を誤解しているように見える。
「ご、誤解です。こ、これは——」
俺は花蓮さんから体を離して立ち上がり、なんとか間宮氏に説明しようとするが……。
「く、来るな! た、たとえ力づくで、強制しようとも、わ、わたしはお前の女なんかには……」
と、間宮氏は両手で自分の体を抱きすくめるようにして、後ずさる。
そして、顔を紅潮させて、俺から顔を背ける。
とても誤解を解くような状況ではない。
俺は、助け舟を出して貰おうと花蓮さんの方を見る。
が……花蓮さんは何か恥かしいことでも思い出したかのように両手で顔を隠している。
そして、
「け、敬三様……そ、その……昨日のことですが……あ、あの時はわたしも突然のことで動揺してしまい、失礼なことをしてしまいましたが……で、ですが! しっかりと順序を踏んでくださるならば……わ、わたしも……覚悟は……」
と、その真っ赤な顔でチラチラと恥ずかしように目をそらしながらもこちらに視線を送ってくる。
俺は花蓮さんが言っていることについて、まったく心あたりがなかった。
そのため、なんと言ってよいのか返答に困っていると、再び扉が開く。
間宮氏は、やや大げさなくらいに俺から後退していたためにかなり扉に密着していた。
そして、その扉が不意に開けられたため、間宮氏の体は大きくバランスを崩し、前から倒れてしまう。
「あ、危ない!」
と、俺は反射的に体が動き、間宮氏の体を受け止めようとする。
が、間宮氏はその俺の行為に体をビクリと震わせて、俺からさらに体を避けようとした。
そのため、体がお互いにもつれてしまい妙な感じで二人とも床に倒れこんでしまった。
気づいたときには俺は間宮氏に馬乗りになってしまっていた。
「うう……わ、わたしとしたことが……な!? お、お前!?」
ちょうど間宮氏の顔が俺の真正面に位置していたこともあり、思わずお互いに間宮氏と目が合う。
「ああ!! お、お前は……ま、またこうやってわたしを辱めようと! 大丈夫……大丈夫よ……こ、今度こそ……わたしは……」
間宮氏は目を思いっきりそらすと、そう何やら自分に言い聞かせるようにつぶやいている。
正直なところ俺は今の間宮氏の様子を見て、大分不審に思っていた。
というのもさっきから言動がかなり変だからだ。
俺がそう戸惑っていると、
「二見さん……目を覚まされたのですね! えっと……でも……この状況は」
と、扉の方から声がする。
顔を向けると、扉の前には戸惑いの表情を浮かべている女性が立っていた。
この女性も見覚えが……美月さんか。
俺が最初に会ったとき……というか配信のときの服装と大分印象が違うため、一瞬誰だかわからなかった。
美月さんはややフレアがかったデザインのロングスカートを身に纏っている。
ウエスト部分は細めのベルトで締められ、彼女のスタイルの良いシルエットがより一層引き立っている。
上半身は、白のブラウスといった出で立ちで、襟元が繊細なレースで飾られ、袖口にも同じようなレースが施されている。
おそらく邪魔にならないためにまとめられていたと思われる髪も今は下ろされている。
今の美月さんの外見はさながらどこぞのお嬢様といったような清楚かつ上品な姿であった。
まあ……考えてみれば美月さんも花蓮さんと並び立つ名家の令嬢なのだから当然か。
実際、今の美月さんの姿を見てもまるで違和感がない。
こちらの姿の方が、彼女の本来の性分に合っているのかもしれない。
と、俺がしばし美月さんの華麗な姿に見とれた後、間宮氏の方に顔を向ける。
と……彼は何かと闘っているかのように必死な形相を浮かべている。
理由は不明だが、いま彼を刺激すると何かまずいことになりそうだ……。
何か生理的な現象と闘っているのような……そんな印象を受ける。
もしかしたら……突発的な下痢にでも見舞われて、お腹でも痛いのかもしれない。
俺は申し訳ないが間宮氏を放置して、そのまま彼には触れずに、なるべく刺激しないようにそおっと立ち上がり、美月さんに挨拶をする。
「美月さん。久しぶり……という訳でもないか」
「え? そう……ですね」
美月さんはなぜか怪訝そうな表情を浮かべて俺を伺うように見る。
若干の間のあとで、
「……今の二見さんは、普通そうですね」
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