晩餐会-03-
と、どこかほっとした様子で、
「ところで……花蓮さんは……えっと話せますかね?」
花蓮さんの方に顔を向ける。
俺も花蓮さんの方を見る。
と、花蓮さんは地面に座り込んでいて、あさっての方向を見ていた。
だが、美月さんの声でようやく我に返ったのか、
「え!? み、美月! も、もちろんわたくしは大丈夫ですわ。け、敬三様とはな、何もありませんでしたわよ」
と、立ち上がって花蓮さんが返答してくれたのはいいが……。
だが、その発言はどこか誤解を招く内容という気がしないでもない。
現に美月さんは花蓮さんをじっと見て、ついでに未だに地面にへたり込んでる間宮氏の方も見る。
そして、美月さんは、
「……えっと……まあ色々とすごく気になりますけど、はあ……もういいか……この数日色々変なことばかり起きすぎて、もう感覚が麻痺してきたし……」
と、肩をすくめて、どこか諦めたように両手を上に広げて、
「それに二見さんも昨日と違って変な感じじゃないし……」
と小さな声でつぶやく。
ついで、咳払いをして、
「それで……花蓮さん。昨日のことで母が話をされたいとのことなのですが。母のところまで来て頂いても大丈夫ですか?」
と言う。
「わたくしはもちろん大丈夫ですけれど……」
花蓮さんは俺の方をチラリと見て、
「昨日の件ならば、敬三様も同席頂いた方がよろしいのではありませんか?」
美月さんは、小首をかしげて少し考えて、
「それは……そうですね。こうして目を覚まされたのだし、二見さんがいた方が母も喜ぶかもしれませんね」
俺はそれを聞いて昨日の記憶が蘇り、嫌な予感がしてきた。
いや美月さんのお母さんって麻耶さんのことだよな……。
俺の記憶が正しければ、麻耶さんは俺にサンダーボルトを使って尋問しようとしてきたが……。
アレの続きがはじまるのか。
麻耶さんがサディスティックに微笑んでいる姿が脳裏に浮かぶ。
しかし、それにしては今の俺の状況を見ると、とても拘束されているようには思えない。
まあ……間宮氏がいたということは監視下には置かれているのかもしれないが。
美月さんの様子を見ても、とても俺を尋問させるために麻耶さんの元へと連れて行くという感じではない。
それに……花蓮さんも一緒ならば無茶なことはされないだろう。
何よりも二人の言動から察するに、俺を取り巻く状況は大分変化しているように見える。
俺が意識を……いや記憶を失っている間に何があったのか、まずはそれを確認しないとな。
「あとは……そうだ。母は間宮三尉もご一緒にと——」
と、美月さんが声をかけると、間宮氏は突然ものすごい勢いで立ち上がり、
「す、すまない……わ、わたしはそ、その少し用事が——」
と、言って、やや強引に美月さんの隣を抜けて、そのまま廊下へと飛び出てしまう。
「え、えっと……間宮三尉には後から合流して頂くことにして……とりあえず母のところに行きましょうか」
美月さんは走り去る間宮氏の背中を戸惑いながら見送った後、そう言って、廊下に出る。
俺と花蓮さんも美月さんの後に続き、部屋を出る。
一歩部屋を出て内装を見ると、今いる場所はどこかの洋館といった趣であった。
廊下は長く伸びており、床は濃い茶色をしたフローリングで引き詰められている。
天井は高めで、その等間隔に照明が設けられており、柔らかな光が廊下全体を淡く照らしている。
壁は先ほどの天井の色と同じく白で統一されていて、そのところどころにアンティークっぽい絵画が飾られている。
門外漢の俺でも大分趣向が凝らされているのが人目でわかるほどであり、俺は思わずその豪奢さに感心する。
花蓮さんの屋敷も見事であったが、今いる屋敷も趣はまるで異なるが、かなりのものである。
廊下を歩きながら、ふと外に面している窓を見ると、既に日が落ちていた。
たしか俺の最後の記憶によれば夜だったはずだ。
丸一日も意識を失っていたのか。
と、美月さんが廊下の突き当りの部屋の前で止まり、扉をノックする。
「お母様、美月です。花蓮さんをお連れしました」
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