英雄、目覚める-15-

なるほど、やはり彼我の能力差がこれほどあれば、精神操作魔法も一応使えるのか。


 俺は美月の体を抱きかかえる。

 

丸みを帯びた柔らかい女の肉体の感覚が俺の体に伝わる。

 

この女は戦士としての実力はまるで未熟だが、雌としては十分に成熟しているな。


いずれこの女も——。


「み、美月……ふ、二見ぃぃ! きさまぁぁ!」

 

 麻耶が体を戦慄かせる。


 そのまま俺に踊りかかってきそうな勢いだ。

 

 だが、瀕死の重症を負っている麻耶は当然立ち上がることはできない。

 

 ただ、両手をわずかに動かすことしかできない。


「安心しろ。ただ眠らせただけだ。娘がいると邪魔だったのでな。さて時間はあまりない。単刀直入に言う。お前の命を助けてやる。その代わり俺の下僕になれ」


「……ふ、ふざ……うう!!」


「その調子だともって後数分の命だな。俺ならお前の命を助けてやることができるぞ」


「わたしは……お、お前なんかに……」

 

 この女、死にぞこないのくせになかなかに強情だな。

 

 真なる同意がなければ従属魔法は発動しないというのに。

 

 こんなことならば先ほどの兵士の女で試せばよかったかもしれないな。

 

 しかし、あの女は死にかけてはいなかった。

 

 他人の命のために、奴隷になる——従属する——ことに同意する人間などいないだろう。

 

「そんな未熟な身でデスナイトの攻撃をまともにうけてこれまで命を繋いでいたことはほめてやるがな。もういい加減限界のようだ。娘をおいてこのまま命を落としてもいいのか。お前にもなすべきことがあるのだろう?」

 

 ち……政治屋のようなセリフを吐かさせやがって。

 

 これでも意思が変わらないのであれば、この女は捨て置いて別の機会に試すか。


「美月……わたしは……くぅ……まだこのままでは死ねない。あの人のためにも……」


 おっと……反応がきたな。

 

 どうやら意外と俺にも話術の才能はあったのか。

 

 それならもう少し人心——配下——を掌握できたはずなのだかな。

 

 まあいい。

 

 奴隷ならば、その必要もないのだしな。


「条件は——お前の意思は満たされた。いいだろう、お前の命救ってやる」

 

 俺は、女に両手をかざして、回復魔法を発動させる。

 

 だが……何やら違和感がある。


 再構築がうまくいかない。


 暗示が再び……力が衰えているのか。

 

 まずい……俺の方もいい加減時間がなくなってきたようだ。

 

 せっかく生かしておいたデスナイトももうわずかにしか動いていない。


 先ほどの戦車の攻撃程度でも瀕死のデスナイトを仕留めるには十分だったようだ。

 

 クソ……こんなことなら、デスナイトにも『クロニクルガード』をかけておくべきだったか。

 

 俺は心の中でそう毒づきながら、回復魔法に意識を専念させる。

 

 幸いにも回復魔法の発動自体はできた。

 

 が……妙なことになった。

 

 まあ……これはこれで面白い趣向ではあるし、回復という目的は果たしているから問題はないか。

 

 俺は、回復魔法の光が霧散した後、上から麻耶の肉体をじっくりと見る。

 

 傷は全て治っている。

 

 が、麻耶の服が全て消失している。

 

 つまるところ麻耶はいま全裸ということになる。


「契約はなったぞ」

 

 俺はそう言うが、麻耶は呆然としており、事態をあまり理解できていない様子だ。


「な……こ、これは……痛みが……動ける……本当に治っているの……」


「そういうことだ。お前の愚かな娘の命も救ってやり、お前自身も救ってやったんだ。本来ならばこの場で土下座して感謝してもらいたいものだ」


「ふ、ふざけないで!」

 

 麻耶はそう言って、勢いよく立ち上がり、俺に掴みかかってこようとする。

 

 俺はその手を掴んで、麻耶のヘソのあたりを見る。


 麻耶の下腹部には奇妙な紋様が浮かび上がっていた。

 

 文献で見た紋様と同じだ。


 これが……奴隷紋か。

 

 どうやらこれが浮かび上がっているということは、成功したようだな。


 それにしてもこの女……あらためて見てみると年のわりにはなかなか……だ。


 さすがに年を重ねているから、若い女に比べればやや丸みを帯びているが、まあこれくらい肉付きがある方が色々と楽しめるだろう。

 

 と、俺が、麻耶の肉体をじっくりと見ていると、ようやく麻耶も自分が全裸であることに気づいたらしい。


「な……いや!」

 

 麻耶は、意外にもその年齢に似つかわしくない少女のような声を出す。

 

 俺は麻耶の手を離してやる。


 麻耶は、俺から離れて、その両手で必死に自身の肉体を隠そうとする。

 

 だが、当然その細い両の手では限界がある。


 麻耶のその豊満な胸も含めて、ほとんどが露わになっている。

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