第27話 おとり捜査

ビッグホームで買い物をして帰った健司は、夕食までの間は少し仕事を

すると言って自室に籠った。


—— もちろん仕事は、しないんだけどね ——


ネットで子犬の販売情報を探し始める。

そう、鮫島という男は、おそらく無登録で子犬を売っているのであろう。

資格を持ってない人が犬猫などを販売するのは、もちろん違法だ。


—— 子犬たちの写真を撮って、パソコンで作業をしていたという

   マリリンの情報から考えれば、ネットで売ろうとしているに

   違いがない —— 


様々な検索ワードで検索を進める。

『子犬売ります』『子犬の格安販売』などなどのキーワードを試すが、

なかなかそれらしいサイトは見つからない。

大手のブリーダーや、ペットショップのサイトばかりがヒットする。


—— そうだ。鮫島の家には、今はトイプードルとポメラニアンの

   子犬がいるとマリリン言っていた  —— 


『トイプードルの子犬売ります』『ポメラニアンの子犬売ります』など

犬種も指定してのキーワード検索をかける。


これも、大手のブリーダーや、ペットショップのサイトばかりが目立つ。


—— どうする? そうか、画像で探したほうが早いかもしれない。

   トイプードルは茶色の毛。ポメラニアンのほうは白地に濃い

   グレーが混ざっているとも聞いた —— 


茶色のトイプードルは沢山出て来るだろう。ポメラニアンのほうが

見つかりやすいかもしれないと思い、『ポメラニアンの子犬』と打って

画像表示にした。


いかにも、プロの写真家のような写真や、大きなブリーディング業者の

サイトのような写真が多く表示される。


—— いや、鮫島の個人宅で撮影したんだ。もっと素人撮影っぽい

   写真だと思う—— 


白地に濃いグレーのポメラニアンの子犬を探していく、

それらしい写真のサイトを片っ端から開いた。


これか?


『かわいいポメラニアンの子犬を譲ります』と書いてある個人の

HPがヒットした。3頭分の写真がある。


サイトの運営者の名前は記述されていないが、同じサイトの中に

『かわいいトイプードルの子犬を譲ります』というページもあり、

茶色の毛のトイプードルの写真も掲載されている。


トイプードルのほうも、3頭分の写真があったが、1頭の所に

『里親が見つかりました』と書いてある。


『譲ります』とか『里親が見つかった』という記述については、

販売資格の無い個人が有償で犬を譲渡することは法律違反になるため、

足がつかない様に、『無償』を装って記述してあるのだと気が付いた。


茶色のトイプードルの子犬が3頭いたが1頭が売れて、残り2頭。

白地に濃いグレーのはいったポメラニアンの子犬が3頭。

マリリンの情報と、毛色も頭数もピッタリ一致する。


—— おそらく、これだ —— 


サイトのお問い合わせ先のメールアドレスにメールをする。

『トイプードルの子犬を家族に迎えようと思い探しています。

 かわいい顔立ちの子を探したいと思っています』


まずは鮫島とコンタクトして、何らかの情報を引き出す作戦だ。


 ***


夕食後。返信が来ていた。

『男の子と女の子のどちらが希望ですか?』


—— なるほど。まだ金額の話は書いていないな。向こうも用心して

   いて話が煮詰まってから、お金の話をするのかな? —— 


すでに鮫島の家にいる茶色のトイプードルの子犬のことをメールで

やり取りしていても、盗まれた子犬たちがいることの証明には

ならないから、ここからが正念場だ。


以前、犬泥棒のことを詳しく書いてある記事には、白いトイプードルの

マリリンの写真がついていた。それと、ポポちゃんというほうは、

シルバーのトイプードルだった。


ベッラちゃんは茶色のポメラニアン。クッキーちゃんは白のマルチーズだ。

トイプードルの子犬を探していると言って、メールしたのだから、

今はマリリンとポポの情報を引き出していきたい。


盗まれた子犬たちは、いずれもメスで1歳前後。つまりギリギリ妊娠が

可能になったぐらいの歳だ。

だから、次の問い合わせはこういうメールにしよう。


「レッドやアプリコットではなく、ホワイトかシルバーのトイプードルの

 子犬はいますか? あちこちのペットショップへ行ったのですが

 なかなか可愛い子が見つからなくて困っています」


しばらく待つと、返信が来た。

「今はレッドの子犬しかいませんが、ホワイトかシルバーの

 トイプードルの親犬もいますので、里親になっていただけると

 予約していただけるなら、これから交配させることも可能です」


—— 引っかかった!

   ホワイトとシルバーの両方のトイプードルがいると書いて来た。

   でも、これだけでは確実な証拠とは言えない —— 


作戦をよく考える。


次のメール案を練る。

「沢山のペットショップに行って、可愛い顔の子を探しているのですが

 なかなか見つかっていません。

 家族に迎えるのですから、少しぐらい値段が高くても、顔立ちの良い子

 を探したいと思っています。

 参考までに、ホワイトかシルバーの親犬の写真か何かは有りませんか? 

 また、お店が横浜市内なら、実際に親犬に会いに行きたいと思って

 います。ブリーダーさんのご住所はどちらなのでしょうか?」


こう書いて送信ボタンを押した。


『お店』とか『ブリーダーさん』という文言を入れたのは、

こちらが鮫島のことを、販売資格を持ったプロのブリーダーと勘違い

しているように見せるためだ。


また、『値段が高くても』と書いたのは、金払いの良い上客と思わせて、

何としてでも写真を出させる作戦だ。


直ぐに返信が来た。

—— 向こうも、いい客がヒットしたと思って乗り気なんだろぅ ——


メールを開くと、写真が4枚添付されていて、

白とシルバーのトイプードルの写真が、各2枚ついている。

それぞれ正面からと横向きの写真だった。


—— やった。これで尻尾をつかんだ ——


文面にはこう書いてある。

「店舗は有りませんが、どこかで待ち合わせをして、親犬に面会を

 していただくことは可能です。こちらの住居は磯金区の潮風平です。

 近くのホームセンターの駐車場などが待ち合わせには便利かと

 思いますが、いかがでしょうか」


こちらからは

「潮風平に行ける日を検討しますので、明日もしくは明後日に

 再度、連絡をいたします」

という返信をしておいた。


悪徳ブリーダーから入手したトイプードル2匹の写真と、

犬泥棒の記事に載っていた被害犬の写真を並べて見比べてみる。


写真を見比べて、間違いないと確信した。

マリリンちゃんとポポちゃんだ。


健司は、毎朝新聞の女性記者の名刺を探す。


スマホを取り出し、土田理恵という女性記者の携帯電話番号に

電話をかけた。






次のエピソード>「第28話 救出作戦」へ続く

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