第18話 高みの見物っていいよね!

――イベルタ辺境伯の視点


ああ.....


本当に最悪だ.....


なんてミスを犯したのだ.....


跡継ぎだった息子を殺され、今度は大切な部下や娘まで.....


「みんな、本当に申し訳ない.....」


「.....」


「.....辺境伯様だけのせいじゃないです。私たちも彼らの強さを完全に見誤っていました。それにあの二人も、屋敷から出ることができれば見逃してくれると言っていますし.....」


「.....そうだな。私もこれでも元軍人だ。私が先陣を切ろう。それが今償えるせめてもの罪だ」


「それはだめです!お父様!」


「アルメリア分かってくれ!」


「ですが.....!!」


「もう.....もう、私から何も奪わないでくれ.....」


「.....」


「愛する妻は、子供を産んですぐにはやり病で亡くなり、後継者として期待してきた息子は、殺され.....」


「お、父様.....」


「これが私が最期にしてやれることだ。頼むから受け入れてくれ.....」


「.....わかりました。ですが最期なんて言わないでください!絶対にここからみんなで生きて出ますよ!」


「っ.....ああ、そうだな。そのとおりだ!よし、みんなで生きて出るぞ!」


本当に最悪な時は私だけ残って他の全員を避難させる


この屋敷に残っている使用人たちも無事だといいんだが.....


「それじゃあ、さっそく.....」


「イベルタ様!こちらに見たこともないような敵が迫ってきています!」


「なに!?本当か!?」


「はい!ここにずっととどまっていれば全員やられる可能性が.....」


「よし、それじゃあ、第2兵団とアルメリア、ゼルネス家の使者は屋敷脱出を最優先にしろ。その時、2人の警護も忘れずに」


「「「はっ!」」」


「第1兵団は申し訳ないが私とともに屋敷に残っている者を探しながらの脱出になる。最悪は死ぬだろうが.....それでも良いか?」


「「「はっ!御身はゼルネス辺境伯様に捧げております故に」」」


「わかった.....それじゃ、私の軍から行くぞ!様子を見てアルメリア達も逃げろ!」


「「「「「「はっ!」」」」」」


「わかりましたわ」


「了解しました」


頼むから生き残ってくれよ.....!!


――――――

――――

――


執務室から飛び出た私は、道中の部屋を全て確認しながら、食堂に戻ってきた


だが.....


「はぁはぁ、まさか.....」


最初は30人程度いたが、今は20人もいない


やられた原因は相手が個でAランク冒険者相当ある謎の魔物もそうだったが.....


「くそっ!こんなのありかっ!」


「なんで.....」


「これもあの2人の仕業か.....あの2人は人間の心というものを持っていないのか!」


そう、使用人たちが殺された上に、恐らく死霊魔法か何かを使って本来は持たない力を持って襲い掛かってきた


今朝まで、生きて話していた仲間が突然襲い掛かってくるのだ


躊躇った者からやられていった


.....あの2人は本当に人間の考え方で考えるべきではない


簡単に笑って人を殺せる奴らだ


ここからはもっと慎重に.....


「うぐあぁあぁ!!」


「っ!なんだ!」


「わかりません!扉の外を監視していた奴が急に.....確認してきます!」


「いや、私が行く。臨戦状態にしておけ」


「はっ」


私は、急いで悲鳴を上げた方へ近づいてみると.....


「っ!!おい!大丈夫か?!」


チッ


もう死んでしまったか


だがひどい状態だな.....


手足と顔面はすべて溶かされている


なんだ?


何がこの兵を.....


「っ!まさか.....!」


だとすればこの先はもっと危険だ


本当に死を覚悟しなければならないようだな.....


急いでほかの奴らにも報告しなければ!


「!辺境伯様どうでしたか」


「ダメだった.....申し訳ないがそれよりも皆に伝えなければならないことがある」


「.....なんでしょうか」


「この先は本当に死を覚悟してくれ。先ほどの兵はおそらくスライムによってやられた」


「スライム.....?あの最弱のスライムに?」


「最弱とは言うが普段森にいる大半のスライムは進化前の状態だ。そこからごくまれにユニーク個体が生まれる。その個体によって特徴が異なるが、過去に1度そのユニーク個体と戦ったことがある」


「それが今回の.....」


「ああ。アシッドスライムというやつだ。こいつは、強い酸で骨まで溶かしてくる。そのうえ、透明度が高い」


「それじゃあ.....」


「間違いなくそいつだろう。それに厄介なことに恐らく【分裂】スキルも持っている。出なければ、何の残骸もなく溶かすことなどできない。だから、これからの道先は気を付けてくれ.....」


「「はっ!」」


「それじゃあ、現実から目をそらしたい気分だが、念のため残りの部屋も全て確認しながら玄関へ向かうぞ!」


こちらの士気は多少下がりがちだが、まだまだいけるだろう


こいつらはそこまでやわじゃない


だが、アルメリア達は大丈夫だろうか.....


頼むから無事でいてくれよ.....


――シュートの視点


あははっ!


やばいこれ、めっちゃおもしろい


執務室で最期の別れみたいなしんみりとした空気になったと思ったら、娘の一喝で何とか立ちなおしたり.....


スライムのことはちょっとずれてるけど、よくスライムって気が付いたなあ


まあ、だからと言ってなんだって話ではある


実際、分裂したスライムには強酸と物理耐性と魔法耐性の効果を付与してあるからめんどくささで言ったら、喰種よりスライムのほうだったりする


しかもそのスライムの視覚に映るものはすべてこちらに共有されるから内情観察にもってこい


いやいいね!


高みの見物は!


まだまだお楽しみはこれからだから、どんな風に踊ってくれるかな?

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