不良少女 14


「んじゃあ次、どういう作戦を立てるかって話にナンだが、敵の狙いは学園っつー前提でよ、戦車を撤収、敵の意識はそっちに集中、そこを奇襲」


「なんでラップ調なんですか?」


「なんでだYO


「うああ~~~やめて~~~、もうラップにしか聞こえないYO!」


 聖技は椅子から蹴り落とされた。


「バルサン作戦、最後に行われたのは4年前じゃあねぇのか? 『聖女ラセリハ誘拐事件』の時の」


 あ、そのまま続けるんだ、と聖技は思った。頬に床の冷たさを、尻に葵の踵の固さを感じながら。


「……正解だ。外国人犯罪組織の大規模摘発が行われている」


「やっぱりな。……この4年間、国内でポツダム連中はでけぇ事件をやらかしちゃいなかった」


「何の話ですか~?」


 聖技は床から葵を見上げた。ちくしょうスカートが長すぎて中身が全く見えねぇ。


「ポツダム半島の内部が、この4年でどう変化したかが分かんねぇんだよ。だから作戦目標が生け捕りなんだな。となると先の連中が捨て駒は確定。大した情報を持ってねぇから捨て駒にしていい、あるいは捨て駒にされる程度の情報収集能力しか持っていない」


 聖技は首を反対側に回して麒麟の方を見た。ちくしょう角度が悪くてスカートの中身が見えねぇ。


「言うまでもねえが、生け捕りっつーのは普通にやるよか難易度が高ぇ。そこで戦車をあからさまに見せつける訳だ。戦車がいなくならねぇと学園を襲えねぇ。逆に、戦車がいなくなれば学園を襲う。そして戦車が何もせずに帰ったんだから、自分たちはバレてねぇ。そう錯覚して油断したところを、」


 パン! と葵は掌を拳で叩いた、


「―――叩く」


 その時、石川が座る席のコンソールにメッセージが表示された。そちらを一瞬石川は見る。


「一個だけ懸念点があるとすりゃあ、敵がどのタイミングで動くかだな。戦車が下山した程度じゃあ学園までの移動経路は有効射程範囲内インレンジ。となると戦車が戻ってきても間に合わない程度までは時間を置きたい。そのタイミングで即座に動くか、日が落ちるまで待つか、あるいは寝静まるまで待つか、ってところか。敵が動くより先にこっちが動かなきゃぁ意味がねぇ。……今夜は新月、襲撃の発覚も遅れるし、寝静まるまで待つのが一番固ぇとは思うんだがよ。敵のリーダーが月の満ち欠けまで見てるか分かんねぇしなぁ」


「あぁ、それなら分かるよ。『寝静まるまで待つ』が正解だ」


「はぁ? なんで分かんだよ」


 石川は、先ほど受信したメッセージの内容を端的に伝えた。


「あいつら、いま酒盛りしてるから」


「は? ……緊張感なさすぎだろ」


「そうでもないさ。いいかい星川さん。普通の人間はね、星川さんのストイックさ、その10分の1も持っちゃあいないんだ。食料を切り詰め、見つからないように気を張り、更には外に出るのも控えている。しかも大人数で、だ。少なく見積もっても40人以上はいる。つまり相当にストレスが溜まっていて、そしてよ~うやく終わりが見えたんだ。最後にガス抜きするのは当然だよ」


「あ、それボクでも知ってます。最後の晩餐ってやつですよね!」


「全然ちげぇよタコ」


 葵は聖技の尻を蹴った。


「さっさと終わらせて楽になりたいって意見も出てくるだろうに、そこで酒盛りでガス抜きだ。不満を逸らしつつ、自然と作戦開始時間を遅らせることもできる。少なくとも無能じゃなさそうで安心したよ。あ、ちなみに星川さんの回答は大正解だよ。100点満点あげちゃう。ついでに石川ポイントも5点あげよう」


「いらねぇよタコ」


「あ、質問なんですけどー」


「なんだい?」


「その、今から戦車でソコを砲撃すれば全部解決するんじゃ?」


「……下野さん。今回の作戦は、敵を生け捕りにするのが目的だよね」


「はぁ、そうですね」


「戦車の主砲が9Yに直撃したら~~~?」


 『マキャヴェリー』と呼ばれる機体は、基本的に優れた脱出装置エジェクターが搭載されており、その生存率は8割とも9割とも言われている。


 ただし、それは9Yなら9Yによる、ダースならダースによる攻撃で撃墜された場合の確率だ。


 そして、戦車の主砲は9Yやダースの通常兵器など遥かに超えた過剰威力オーバーキルの攻撃である。


 つまり、戦車の主砲が9Yに直撃したら~~~?


「即死~~~!」


「分かってるじゃない。だからそのプランは却下」


「あ、じゃあ戦車じゃなくってドール・マキナで襲うのは?」


「魅力的な提案だけれど、いくつか問題がある。軍による攻撃は輸送途中で見つかる可能性が高くて奇襲が成立しない。アガルタからなら奇襲は成立するけれど、真っ昼間からそんなことをすれば僕たちアストラの存在が露呈する。忘れてるかもだから念のために言っておくけれどね、アストラは秘密組織だからね」


「むぅ、なるほど。むずかしい。あ、も1個質問。なんでこれ、ボクたちがやるんです? 普通なら軍の仕事ですよね。ていうかうちって、えーと、なんだっけ。言葉が思い出せない。み、み、……ミーハー企業?」


「民間企業な」


「そう、それです! ミカン企業なのに、なんで?」


「下野さん、さっきの星川さんの解説、覚えてる?」


「はい! 覚えてません!」


「うん、予想通りの回答をありがとう。学園への襲撃作戦、その成功率を上げるのに有効な手段が一つある。何か分かるかな~?」


「分かりませ~ん!」


「もう一度~、東京都同時多発襲撃事件を起こしま~す。軍はそちらに備える必要があるので、僕たちにお鉢が回ってきました~」


 実際には、他にもいくつかの理由はある。例えばレムナント財閥の新型機が実戦投入出来るだけの性能を持っているのかを確認したいとか、ルインキャンサーの起動に成功したのが本当なのかどうかとか、


「……あとは、まぁ、森が近いからねぇ。奥多摩の森って獅子王家の私有地だからさぁ、万が一森林火災にでもなってしまって、その責任を追及されたくは無いんだろうね」


「クソ保身じゃねーか」


「保身で結構。こちらとしても余計な軋轢を作ってる余裕はないし」


「んで、具体的にどうすんだ? 言っとくがオレが分かんのは戦略までで、戦術は立てらんねぇぞ。テメーらが何出来るのかすら知らねえんだからよ」


「うん。その辺りはこれから僕が解説するよ。……その前に、下野さん?」


「はい?」


「いい加減、床から起きようか?」


 はい。


   ●


 狭い廊下を聖技は走る。目的地は出撃前の待機部屋でもあるリラクゼーションルームだ。


 自動ドアが開き部屋に飛び込むと、2人いる女子の片方、今着ているパイロットスーツを用意したプラムへ抗議の声を上げた。


「プラムちゃん! これはどういうこと!?」


「あらセイギ、似合ってる、とは言い難いわね。どこからどう見ても馬鹿みたいな格好だし」


 聖技は―――黒いひし形のニップレスと前張りだけを貼った全裸だった。


「ていうかアンタその格好で走ってきたの? コートも一緒に入れてたんだけど」


「そんなことはどうだっていいんだよぉ! ねぇプラムちゃん、だからこれはどういうことなの!?」


「プラムに文句言わないでよ。これはね、アメリカ軍が開発したバイタルチェックスーツなの。大量の超極細電極が内蔵されていて」


「違うんだよぉ! そんなことはどうでもいいの!!」


 聖技は拳を強く握り締め、絶望したように胸中を叫んだ。


「こんなエッチな格好なのに! ボクみたいなちんちくりんに着せてどうするんだよぉ!?」


「……………………は?」


 聖技はプラムをびしりと指差し、


「これは! プラムちゃんみたいな!! ボインボインのバインバインが着るべきでしょおおおお!!!」


 真面目に相手をしようとして損をした。プラムの表情から感情が抜け落ちた。


「プラムちゃんじゃなくてもボマーズさんたちとか、そうだ」


 すると聖技は部屋にいたもう1人に標的を変更した。両手をワキワキと動かし始める。


「リセちゃんでもいいんだよ~? その綺麗なおべべに隠された綺麗なお肌を~、ボクの前に晒してみない~~~?」


「リセに迷惑かけるのやめなさい!!」


 プラムはファイルバインダーを聖技の頭頂部に振り下ろした。聖技は痛みに悶えながらしゃがみ込む。股間を隠す布面積は、辛うじて尻の穴が見えないきわどさだ。


 光の反射でかろうじて見える。聖技は怪奇ニップレス前張り全裸女などではない。シースルー素材のパイロットスーツを着ているのだと。


「まったく、プラムがどれだけ苦労したかも知らないで」


 本来は、ひし形のニップレスや前張りなんてものすらない、完全にスケスケな仕様だったのだ。内出血などの皮膚表面部に発生する変化を、目視で即座に確認できるようにするためだ。


 にしてもこれは流石にあんまりだろうと思ったプラムが、胸と股間部分だけでも隠せるようにと改造を施したのである。


 ちなみにサイズは乳輪と股間部分が隠れる本当にギリギリ。あまり大きくし過ぎると、本来の性能が低下してしまうからだ。事前に様々な身体検査を行った甲斐があった。プラムは聖技の乳輪の大きさも知っているしケツの穴のシワの数も知っている。15歳になっても一本も生えていないナチュラルパイパンガールであることすらも知っている。陰毛を隠す必要がないのは幸いだった。おかげで本当にギリギリまで削ることが出来た。


「そもそもプラムやボマーズが着れるわけないじゃない。どう考えてもサイズ合わないでしょ」


 すると聖技はプラムの身体をジロジロと凝視する。


「あぁ、うん。そりゃそうだね」


 うんうん、と腕を組んで頷いて、


「そりゃ絶対はみ出るもんね、乳輪!!」


 もう一発叩かれた。

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