不良少女 13
聖技はもろにうろたえた。
「たたた大変じゃないですか!? ひひひ避難! 今すぐ避難させないと! あれ学園ってどこに核シェルターありましたっけ? ていうか生徒全員入れるんです?」
「いいから落ち着けや。そうならねーように警備されてんだからよ」
「あ、そっか! 学園の周りに戦車がありますもんね!」
その瞬間、聖技の脳は奇跡的に、ホームルームで教師からされた注意事項を思い出した。
「って撤収今日じゃん!! ぎゃっ!?」
葵に椅子から蹴り落とされた。
「だぁから落ち着けっての。
「それで星川さん。敵の狙いが上の学園だと主張するのなら、もちろんそうだと断言できる根拠はあるんだよね?」
「あぁ、もちろんよ。まず奥多摩についてだが―――ド田舎だ」
「あー、確かに。東京とは思えませんよね」
聖技は故郷のことを思い出した。奥多摩は電車の車窓からしかその姿を見たことは無いが、同じくド田舎の故郷の電車からの光景にそっくりなのである。見えるのは山と田んぼと畑ばかりだ。
「ていうか本当に東京なんです? 実は奥多摩って別の県だったりしません?」
「下野さん、恐ろしいことを言わないでくれ。内紛になる」
なんで? という顔に出ていた聖技の疑問に、石川が引き続き答えてくれた。
「レムナント財閥が国家独立するって話に取られちゃうんだよ。割と冗談抜きで」
「あぁ~、中国は今、財閥の管理下にあるからな。日本に首都を置いての飛び地ってことにしてなー。あとは中国全土を領地宣言すりゃあレムナント帝国の完成だわな。で、だ。話の続きなんだがよ、クソ田舎の奥多摩にはよ、学園以外に占拠する価値のある場所がねぇんだよ。つかよ、倉庫街を押さえられてる時点でよ、他にそんな場所なり物なりあんならよ、とっくにパクられてて終わりだろーがよ」
「あ、それもそっか」
「じゃあ逆によ、奥多摩の外に目的があるっつーパターンだが、これもねぇ。同時多発襲撃事件のせいでな」
その言葉を聞いた瞬間、聖技はとんでもない変顔になった。もしもうっかり目にしてしまったら噴飯間違いなしの変顔だった。
東京都同時多発襲撃事件。その言葉は、時事に疎い聖技ですら知っている。
だってそれは、
聖技にとって、東京で出来た最初の友人。
葵にとって、唯一生き残った最後の家族。
だから、何の気負いも無く突然その言葉が葵の口から発せられたことに、聖技は激しく動揺した。首が動くのだけは、ギリギリのところで止めることができた。代わりに動くのは眼球だ。どうにか葵の様子を見ようとして、けれども葵は前傾姿勢を取っている。その表情を、聖技の角度からは見ることが出来ない。
一方で、聖技たちの正面にいる石川も、葵の表情を注視していた。そのおかげで聖技の変顔には終ぞ気付くことは無かった。麒麟は目を開けたまま寝ている。
聖技と石川、2人からの注目を意に介さず、葵は言葉を続けた。
「都内の警察の戦力が減った穴埋めに、軍からダースが派遣されてる。今の東京全域の警備体制は半年前の比じゃねえ。下手に外に向かったところで、今度は質と量の両方で圧殺される。……敵の狙いが学園って視点で見りゃあ、あの事件には3つの役割があるな」
「3つ?」
「1つ目、学園に送る戦力の分散、たぶんこの狙いは失敗してる。2つ目、奥多摩の倉庫街に戦力を集めるための陽動。で、3つ目が初動の鈍化だ」
「すいません、どういうことです?」
聖技は素直にお手上げした。葵はそちらを見ることなく説明する。再び指を1本立てた。今度は上ではなく1の意味で。
「1つ目についてだが、常備戦力が減れば補充する必要がある。となるとその分よ、しわ寄せがどこかに行くんだよ。それで学園周りの戦車がどっか行ってくれりゃ御の字ってところだったんだろうよ。実際、奥多摩じゃあ事件が起きてねぇ。軍からの補充を嫌ったんだろうな。こいつは2つ目にもつながる」
葵は2本目の指を立てる。
「さっき言った奥多摩を始めとして、いくつか事件が起きてねぇ場所がある。サイレン鳴ってる最中に非難もせずにトラックがバンバン走ってりゃ目立つからな。輸送経路っつーわけだ」
「では3つ目、初動の鈍化は?」
石川が尋ねる。言わなくても分かんだろこんにゃろうと葵は思う。聖技が首を傾げているのを視界の端で捕らえて、説明しないと分からねぇだろうなこんちくしょうめと葵は思う。麒麟は寝ていた。
葵は3本目の指を立て、左手で新たに2本指を立てた。
「この事件が起きていなかったと仮定した場合、2つの作戦が考えられる。1つ目、全戦力で学園を襲う。2つ目、学園を襲う部隊と東京各地を襲う部隊に分ける。で、一つ目なんだが、そんな大戦力が学園目掛けて大侵攻なんてすりゃあ、当然軍は即応する」
「ええっと、つまり?」
「大戦力には大戦力だ。
聖技はもう完全についていけなくなった。
むずかしいことはよくわからないので、あたまのいいひとにぜんぶまかせようとおもいました まる
「どうせなら学園襲撃と広域襲撃のタイミングを合わせた方が効果的だと思うけれど、そうしなかった理由に想像はつく?」
「あぁ。まず学園を襲うのと街を襲うのでは、どう考えても学園を襲った方が旨味が多い。学園側は成功すりゃあ
で、だ。と葵は続ける。
「そうなることは予想付くんだからよ、だったら最初から本命を伝えなきゃあいい。街を襲った連中はたぶん、学園を襲うことを知らされてねぇ。捨て駒だ。先行決行させたのは、気取られる可能性があるから。奥多摩に戦力を集めてる。何かするんじゃあねえかってよ。敵からも味方からもな。あとはまぁ、飯の問題?」
「ご飯の?」
聖技、再起動。
「先の事件からもう2週間も経ってる。その間、廃倉庫街にいる連中は、ずっと戦車がいなくなるのを待ってる訳よ。手持ちの食いもん減らしながらよ。いつまで続くのか分かんねぇんだ。飯食う奴は出来るだけ減らしてぇだろ? まぁこの辺りは天秤だな。事件のせいで警備が長くなる可能性もあんだからよ」
「お腹いっぱい食べれないのは辛いですよねぇ……」
聖技の腹の音が鳴った。
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