悪を滅ぼす者 7
(もしかして、スサノオ•プランで作られた新型機……!?)
スサノオ・プラン。第三次世界大戦に備えての、純国産機による軍備増強計画。
中国が滅亡し、ヨーロッパ全土を巻き込んだ宗教戦争が起きてから、既に3年。世界は、いつ世界大戦が勃発してもおかしくない状況の中にあった。
ぶっちゃけよう。当時のことを、聖技は詳しく知らない。中国で怪獣が暴れまわり、怪獣を倒すために中国政府が自国内に核爆弾を連投した、といううわさ話を聞いたことがある程度だ。
当時の中国国内は大混乱で情報が錯綜していたし、怪獣の暴走が止まった頃、ヨーロッパで戦争が始まる直前に、聖技たちは中学に入学して、部活を新しく設立したりして、遠く離れた外国のことなど気に掛ける余裕がなくなったからだ。
かろうじて覚えているのは、どこかの王子様だか王様かが殺されて、それがきっかけでヨーロッパ全域を巻き込む戦争が起きて、生き残っていた中国人もその戦争に巻き込まれて大部分が死んで、マリウス教の一番偉い人が殺されて、ナントカって島か国が物理的に地球上から消滅した、ということくらいだ。
とりあえず、なんか色々あって、第三次世界大戦がいつおっぱじまってもおかしくないので、自国でなんとか軍備を整えよう、というのが、聖技が理解しているスサノオ・プランである。
だから聖技は、真っ先にこう思ったのだ。もしかして、この超大型ドール・マキナは、スサノオ•プランで作られた新型機なのではないか、と。
同時にこうも思う。人が住んでる街の地下で、なんちゅうもんを作ってくれてるんだ、と。
(……そういえば、メカマンが珍しく色々言ってたな。なんだっけ、多摩はドール•マキナ開発のメッカだ、だっけ)
もっと早く思い出すべきだった。あの地下通路は、シェルターや基地に続く道なんかじゃなかった。ドール・マキナの開発施設に繋がっている道だったのだ。
(だったら警備くらい置いといてよぉ~~~!)
しん、と、耳が痛くなるような静寂が空間を満たす。いつまで経っても物音一つ聞こえず、人の話し声も聞こえず、ひょっとして自分は既に射殺されていて、実はもう幽霊か何かになっているんじゃないだろうかなんてことを聖技は思う。さすがにこの状況でもう一度幽体離脱ネタをする気にはなれなかった。やるなら仰向けにならなきゃだし。
いつまでも、こうしている訳には行かないだろう。
覚悟を、決めよう。
心の中で10数えたら、顔を上げてみよう。
いーち、にーぃ、さぁーん、
心臓の音が、酷くうるさい。
よぉーん、ごーぉ、ろーく、
床がコンクリートではなく、建設現場とかで見る足場のようなものになっているのに今さら気付いた。
しぃーち、はぁーち、きゅーぅ、
呼吸が乱れる。運動もしていないのに汗が顔を伝い、床の色をぽつぽつと黒く濡らした。
じゅう。
―――銃
を、突き付けられたりは、していなかった。
人の姿は、全くなかった。
漆黒の、巨大なドール・マキナの姿だけが、変わらずそこにあった。
「はぁぁ~~~~~~…………」
魂が抜けるような深いため息を付きながら、聖技はゆっくりと身を起こした。手すりに手を掛け立ち上がって、自分がとんでもなく高い場所にいることにようやく気付く。
「うわ、あっぶなぁ~……」
床までは壁も障害物もない。どれくらいの高さかは分からないが、もしも地下に落ちた時のようにふらついていたなら、腰までの高さしかない手すりに引っかかって、今度こそ地面に真っ逆さま。赤い鉄の華を咲かせていたに違いあるまい。
「うう~ん、これからどうしよう」
どうもこうもない。こんな場所に出てきてしまって、まさか今更回れ右とはいかないだろう。
気が進まないことこの上ないが、通路を真っすぐ進み始めた。
「すいませーん! 誰かいませんかー! 決して怪しい者じゃなくってー! 落っこちた迷子なんですけどー! 誰かー! いませんかー!!」
高校生にもなって自分が迷子だと大声で叫ぶのは、思っていたよりも恥ずかしかった。
ぐわんぐわんと、音が反響する。反響が消える前に、次の聖技の声が新たな反響を生み出す。
広々とした空間には、足場がT字状に設置されていた。三叉路の左右の端には聖技が出てきたような穴があり、そのどちらかには地上に出るエレベーターか階段があるんじゃないかと聖技は思う。
それはつまり、あのドール・マキナのすぐ近くを、必ず通らなければならない、ということだった。
大声で呼びかけていたが、すぐに交差点へと到達してしまった。これまで顔を左右に振りながら、わざと正面のドール・マキナを注視しないようにしていたが、ここまで来てしまったら、もう何をどうしたとしても見てませんなんて言い訳は出来ないだろう。
改めて、ドール・マキナを見た。灯りに照らされてはいるものの、全身が黒色で、細かいディテールまでは分からない。全体的に四角が多くて、ゴツゴツとした印象を受ける。
二箇所だけ、黒以外の色がある。頭部、天使の輪のような白いリングが付いている。胸部、黄色とも金色とも見える巨大な五角星が付いている。
初めて見るドール・マキナだった。
「いや、デカいなー。……つーかデカ過ぎない? これ街の中じゃ戦えないでしょ」
2004年現在、地上で戦うドール•マキナの主流は10メートル前後だ。
第二次世界大戦から半世紀余りが経過し、大規模な国際間戦争が起きない間に、ドール•マキナが活動するのは、もっぱら人が多い場所に移っていた。
9Yは第二次世界大戦で大量に破壊され、
一方で、聖技が見つけたこの超巨大なドール・マキナは、その定石を大きく逸脱しているように思える。
「あー、でも戦争で使うんならそうとも限らないのかな?
あ、と気付いた。壁に、高さを知らせる目盛りがある。その目盛りによると、
「全長は……30メートル。地上機の相場の3倍、か」
目盛りを確認していると、突然、バシュリという音が聞こえた。首を傾げながら目を向け、その目を大きく見開いた。
胸の五角星の下側、二つの頂点に挟まれた黒地部分が、どう見てもコックピットハッチにしか思えない部分が、開こうとしているのだ。
聖技は再び亀になった。
額に足場の冷たさを感じながら、聖技は納得していた。そりゃそうだよね、と。
考えてみれば当たり前だ。こんな地下に秘密裏にドール・マキナが用意されているのに、誰一人として警備や軍人の姿が見えないなんて、あるはずがないのだ。
そう、最初から、人が搭乗しているのでなければ。
性格が悪い、と聖技は思う。きっとパイロットはイヤミな笑みを浮かべたゴリラみたいな体格で、人をいびり倒すために生まれてきた鬼教官みたいなやつに違いあるまい。安全なコックピットの中で、ニヤニヤと笑いながら、ビクビクと怯える聖技を観察していたのだ。
せめて一矢報いてやろう。そのゴリラ面(※聖技予想)を拝んでやる、と聖技は身体を丸めた体勢のまま顔を上げた。
ハッチが開き切る。
内部シャッターが移動する。
いよいよご対面の瞬間だ。
が、
「……え?」
聖技は、信じられないものを見た。
コックピットは、無人だった。
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