第3話  うざすぎる女

 帰宅の準備をしていると、たくさんの男を弄んでいる、ろくでなしが近づいてくる。


「豊君、一緒に帰りましょう」


 豊はうんざりだといわんばかりの態度を取った。


「絶対に却下」


 却下といったにもかかわらず、女は勝手に話を進める。こいつは交際していたとき

から、他人の話に耳を傾けないことが多かった。


「マクドナルドはどう? 吉野家も面白そうじゃないかな?」


「僕の話をきっちりと聞いているの?」


 乃蒼の妄想はとどまるところを知らなかった。


「カフェはどう? ゆっくりとくつろげるよ」


 自分の都合の悪い話を、すべてシャットアウトできる女。こいつの脳みそはどのように作られているのか。


「豊君、手をつなごうよ。腕を組んだりするのも面白そうじゃない」


 交際をしていたとき、手をつなぐのも、腕を組むのもおっくうにしていた。あのときの表情は、脳裏に鮮明に焼き付いている。どんなことがあっても、絶対に忘れることはないと思われる。


 乃蒼は胸を隠しているボタンをはずす。色気作戦で、男を落とす作戦を実行しようとしているらしい。こちらについても、交際していたときはまったく見られなかった。自分の思い通りにならない状況を打開するために、手段を選んではいられないのかもしれない。


 胸に視線を合わせると、いちゃもんをつけられかねない。豊は真反対を向くことで、何かをいわれるのを回避しようとした。


 乃蒼は素早い動きで、豊の目と鼻の先に姿を見せる。


「豊君、好きなだけ見てもいいんだよ♡」


 豊のところに、柊美穂がやってきた。容姿は平均レベルである者の、性格の要素は上回っている。


「豊君、一緒に帰ろう」


「美穂さん、わかった」


 乃蒼は一緒に帰ろうといった女性に、猛烈な抗議をする。


「豊君と帰るのは私だよ。部外者はあっちにいってよ」


「二人の話をじっくりと聞いていた。豊君はOKしていないよね」


 乃蒼は独自の理論を展開する。


「私がOKといえば、OKしたことになるの。あなたはそんなこともわからないの?」


 ありえないような発言に対して、クラスの女子生徒のほとんどはドン引きしていた。乃蒼に聞かせるために、大袈裟にため息をついている者もいた。


 乃蒼は傍若無人にふるまいすぎたため、クラスの女子のほとんどから距離を取られるようになった。距離を縮めるだけで、すぐに逃げてしまうほどである。彼女と親しくしているのは、ごくごく一部の女だけである。


 男たちからは高い人気を保ち続けている。心を弄ばれたとしても、美人と一度でも手をつなぎたいのかもしれない。

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