天才薬師の出来上がり!(6)

 出来たての『初級HP回復ポーション+1』を、商業ギルドに商品登録してきました! 一仕事終えて帰ってきたって感じがする。

 ギルドまで歩いて5分圏内というのはいい。その分、家賃は相場より高いけれど。

 でも今回のような新製品登録に行くときの他にも、ギルドの前は馬車の停留所なので現代でいうところの駅近。客足も期待できるというもの。

 構えた店の外観は街に溶け込むデザインだし、店舗部分の内装も街角の薬屋さんという感じで入りやすいと思う。大きめの窓があるので、そこから美形エルフ薬師が見えたら、ふらふらっと入りたくなって来ませんか。声をかけてみたくなって、商品を買ってしまいませんか。

 +1要素である状態異常回復(小)の使いどころは、胃痛、腹痛などの緩和。元々、家庭常備薬をイメージして聖水を作ったからね。HP回復(小)と兼ねることで、軽度の怪我からちょっとした体調不良までこれ一本。大変お得な商品となっております。


「しばらく店に出すのは『初級HP回復ポーション+1』だけにして、症状が重い人にはご相談の上で処方という感じかな」

「そうですね。ナツハ様の力は強すぎて、サンプルがないと加減がわからないでしょうし」

「それ」


 例のずらっと並んだ私のスキルによると、私の治療魔法は『欠損した肉体を再生』レベルも可能らしい。状態異常回復魔法も、毒、麻痺、呪い、封印などなど……およそゲームで使われそうな状態異常を完全もうしていた。

 さすがに街の薬屋さんで、呪いや封印を解く薬が気軽に買えてはいけないと思う。というより需要もないだろう。


「今後のことは明日以降に考えよう」

「はい」


 今日はもう充分に働いた。後は夕食を食べて寝るだけにするべし。

 ダイニングキッチンに置いたテーブルに、外で買ってきた串焼きやタコスっぽいものを並べる。ロシェスが飲めるというので、赤ワインも買ってきた。二人分のグラスに半分ほど注ぐ。

 隣り合う工房スペースと仕切りがないため、いざとなったらここも作業スペースとして使える。そのため大きめのテーブルを買っておいた。

 そうそうこの家、狭いけれど浴室もあるのだ。そこも二重丸な物件だった。


「ほら、ロシェスも座って」

「は、はい……」


 これまでの主人とはともに食事をする機会がなかったのだろう、ロシェスがおずおずといった感じで席に着く。二階の住居スペースが丁度二部屋だったので、手前を彼に使うよう言ったときも酷く驚いた顔をしていた。私からすれば、この美しい人物を雑に扱っていたということの方がびっくりだよ……。


「というわけで、新生活に乾杯!」

「はい。ナツハ様の輝かしい未来に」

「輝くのはロシェスの方だよ。天才薬師として活動するんだから」

「あ……その、ご期待に添えるよう頑張ります」


 私の差し出したワイングラスに、ロシェスが控え目に自分のグラスを当てる。

 私が口を付けるのを待って、彼もワインをコクッと飲んだ。何て絵になるの。多分、ロシェスならお子様ランチを食べていても格好良いと思う。断言できる。


「そうだ。一緒に店に出るわけだし、私のことはナツハと呼び捨ての方がいいかな」

「は? ……ごほっ」


 せていても格好良いね⁉ やっぱりロシェスならお子様ランチ(以下略)


「失礼しました。その、ナツハ様。さすがにそれは……『オーナー』、では駄目でしょうか?」


 妥協案を提示してきたロシェスの頬が若干赤い。しかもさっき咽せたせいか、涙目のお願いになってしまっている。

 これは返答の選択肢が「はい」しかない……っ。


「ああ……うん。ボロが出ちゃうよりはいいかな」

「ありがとうございます。ではそれでお願いします」

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