天才薬師の出来上がり!(5)

 結論から言おう。

 私が小細工するまでもなく、ロシェスは天才薬師だった。

 まず参考書について。


「一度読んだだけで頭に入ったの?」

「はい。問題ありません」


 初級薬学の本は、早々に私専用となってしまった。

 次に器具の一つ、天秤について。


「え、計量一発目でジャスト……?」

「昔から細かい作業は得意なのです。だから同族よりもドワーフと気が合いました」

「そ、そう……」


 初級とはいえ薬の調合は、お菓子作り並みに分量がシビア。よって、目分量でやってはいけない。

 だがここに、目分量が実測値な者がいた。

 普通は天秤に乗せてから増やしたり減らしたり調整するよね? お願い、私の方が一般レベルだと言って。ちなみに私は重りと釣り合うまで、三回やり直した。

 乳鉢での素材つぶし作業においては、何とか差が付かなかったと思う。

 しかし、最後の聖水との混ぜ合わせにおいて――


「……ロシェスのポーションだけが、『初級HP回復ポーション+1』になってる」


 私は右手にロシェスが作ったポーション瓶、左手に自分が作ったものを持ち、アイテム説明欄を見てがくぜんとした。


 初級HP回復ポーション+1:HP回復(小)+状態異常回復(小)


 何故、私の方は通常の初級HP回復ポーション?

 私が作った方にも聖水は混ぜたのに。何ならその聖水は、私がスキルで生み出したのに。

 両方を机に置いて並べ、一見代わり映えしない二つを交互に眺める。

 解せぬ。


「ナツハ様は鑑定スキルもお持ちなのですね」


 ロシェスの尊敬の眼差しに現金な気分は浮上しつつも、やっぱりへこむ。

 そりゃあ私の聖水を混ぜなければ、ロシェスのものだって通常の初級HP回復ポーションになっていたとは思う。けれど今見たロシェスの手際、彼なら自力で状態異常回復(小)の効果があるポーションもきっと調合できる。それどころか、素材さえあれば上級ランクのポーション類さえも、すぐに作れてしまうのでは。


「もうこれ、私は要らないくらい――」

「いえ、要ります」


 ついこぼれた私のぼやきは、思いのほか力強いロシェスの声に遮られた。

 さらに私の両手をぎゅっと握ってきた彼に、私は息まで止められることになった。

 呼吸を忘れたまま、私の手を包み込むようにした彼の手を見る。

 それから私は目線を上げた。

 ロシェスと目が合って。――合ったと思ったら、それはふいっとらされた。


「し、失礼しました……」


 今度は一転して、ロシェスが弱々しい声で言う。

 私を解放した彼の手は、胸の前でそわそわとしていて。彼の頬は、恋愛漫画ばりに耳まで赤く染まっている。

 ……スクショボタンはどこですか⁉


「……んんっ」


 変な声が出かけた。それを誤魔化したらわざとらしい咳払いが出た。

 でもロシェスは、まだりが収まらなくてそれどころじゃなさそう。セーフ。


「うん、そうよね。聖女の力を使った、私たちにしか作れない薬で助かる人がいるかもしれないし」


 平然を装ってそう言えば、ロシェスから間髪入れずに「はい」という返事がくる。

 ほんのり頬を染めた美形が微笑みとか……またグッとくることをしてくれる。

 改めてメニュー画面をチェックしてみた。

 残念ながら、やっぱりスクショ機能は実装されていなかった。

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