天才薬師の出来上がり!(2)

「ロシェス、肌がチクチクするとか動きにくいとかはない?」

「問題ありません」


 一緒に部屋へ戻り、私は着替えたロシェスの周りをグルッと一回りした。

 膝下まで覆うあんず色のフード付きローブ。黒の長袖タートルネックに、同じく黒のテーパードパンツ。足元は焦茶色のショートブーツ。

 白い首筋に黒のタートルネックなコントラストといい、ローブの袖からチラ見えするカットソーの袖といい、何だろうこの肌が見えない方が余計にセクシーという現象は。

 まさに完璧なイケメン。私は何という罪深いものを生み出してしまったのか。

 こんな造形美、まったく仕事をさせなくても店に立たせて置くだけでおが集まりそう。さいせんばこがあれば見つけ次第チャリンと行っちゃいそう。

 はぁ……素晴らしい。いつまでも眺めていられる。

 ……あくまで着替えたロシェスへの感想であって、視姦ではない。……ということにしておきたい。

 んんっと咳払いし、私は改めてロシェスの真っ正面へと立った。


「その格好から察しがついているかもだけど、ロシェスには今日から薬師になってもらいます」

かしこまりました」


 私の宣言に、ロシェスが即座に頷く。


「立ち位置は、店を共同経営するビジネスパートナーね」

「……申し訳ありません。その、ビジネスパートナー……とは?」


 今度の彼は、頷きかけてから理解できなかったことを謝罪してきた。

 まあ確かに奴隷になりました、次はビジネスパートナーになれと言われましたじゃあ、話がやくしすぎか。

 その前の今日から薬師になれという時点で、無茶振りだった。なのにそっちは即時に受けてしまうとか。こちらの方が「申し訳ありません」と彼に言いたい。

 うん。いい機会だから、ここで一から話しておこう。

 一からとなると最初に来る話題は――


「――ロシェスは聖女って知ってる?」

「はい。アロンゾ皇国が不定期に召喚している異世界の人間ですね。直近では二百年ほど前に召喚が行われたとか。生憎、私は一九二なので当時の様子はわからないのですが」


 ロシェスが古い記憶を引っ張り出すかのように、やや眉間にしわを寄せながら話す。

 店で出会って宿に着くまでは無表情だなあと思ったけれど、そうでもないみたい。先程服を渡したときも微妙に驚いたような顔をしていたし、いつか笑った顔も見られたら嬉しい。

 しかし、前回の召喚が二百年くらい前か。これはどう考えても前任者は亡くなっていそう。まあだからこそ私と森ガールさんを召喚したのだろうし。というかロシェスって一九二歳だったんだね⁉ 長命なエルフ感溢れる年齢だ……。


「その召喚の直近は今日に更新されたわ。で、私が聖女らしい」

「え?」


 ロシェスが目を丸くして、私を見てくる。よしよし、段々と表情の変化幅が大きくなってきたぞ。いい傾向だ。


「アロンゾ皇国は召喚した聖女を、一生涯国から出さないと聞いていますが?」


 ロシェスから聞いた彼の国の情報に、私の口から思わず「うわっ」と声が出た。やっぱり死ぬまで働かせる気だったな、あの国は。

 聖女として迎えられたら、もしかしたら優遇されたかのかもしれない。けれどそうじゃない方へのあの態度……召喚に携わるくらいの国の中枢があれでは、優遇されても尽くしたい国とは思えない。やはり国外逃亡で大正解。


「実は二人召喚されてしまって。あっちが間違えたか、あるいはどちらも聖女だったかで私の方を森に捨てたのよ。で、その森を抜けて私は隣国であるこの街まで来て。ここで新しい生活を始めようかなとしているところ」

「森に捨てた? どちらも聖女だったにしろ、数百年に一度しか喚べないような存在をそのように扱うとは。アロンゾ皇国は正気とは思えません。間違えたというならなおさらに、愚の骨頂ですね」

「私としては、それで助かったけどね。というわけで、私はここリジラの街で薬屋を開きたいと思ってる。聖女の力を大いに利用して」


 私はピッと人差し指を立て、ロシェスに『新しい生活』の方向性を示した。


「見返したい相手もいるしね」


 誰とは明確にせずに、そう付け加える。

 こう言えばきっとロシェスは、私を捨てたアロンゾ皇国のことだと考えるだろう。

 ふふふ。これで『無自覚にエルフの里を見返すロシェス』の要素がストーリーに加わるわ。

 私は神妙な顔で「そうですね」と返したロシェスに、心の中でにんまりと笑った。

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