第31話 先生の娘と補習授業

 問題が完全に取り除かれた僕と麻友の関係は前よりも親密になっていたが、彼女の変態性が増した影響で、


「優樹さんは紫音様よりもバカなのですか?クラスで社会科の補習を受けてるはあなただけですよ…。」


 ダメな彼氏を見下す優等生の女子という立場で毒を吐いてきた。


「無理だよ!上本先生の小テストは最早、小テストじゃないよ、なんなの、世界史の古代オリエントと地中海の話題で100問って…、マニアック過ぎて、その地域の紀元前の話だけで、どうやったら、100問も捻出できるの?」


 紫音、麻友、僕の授業態度が気に食わないと言う理由で、小テストをやると宣言した上本先生。出題範囲は非常に狭いため、小テストと言っていたが、出された問題が100問は聞いておらず…、僕は時間切れで…平均点を大きく下回り、補習を受ける羽目になった。あんな問題は時間内で解けるわけ無いと麻友に説明すると、麻友と紫音の答案用紙を見せてきて、


「私も紫音様も100問、キッチリと全問正解しています…。一問、25秒以内に記入すれば、間に合うはずですよ。それにあの女教師が教科書に書かれた事ばかりを出題するわけ無いのは、さすがの優樹さんでも、理解をして頂きたかったです。残念な夫を持つ妻の身になって考えて下さい…。」


 彼女と紫音が出来ているのに、僕が出来ないのは何故かを聞いてきた。そのあと、深い溜め息を吐いた彼女は僕へのクレームを止めて、「優樹さんの事をご両親と相談する」と告げて、先に帰ってしまった。


(麻友ちゃん、今日はイラ立ってたね…。僕には、あれが本気なのか、何かのプレーなのかの判断が付かないよ…。)


 麻友は学校で今日ぐらいに冷たくしてくると思えば、家で思いっきり甘えて来たりするし、家でも冷たい態度をしていたと思えば、朝起きると急に甘えて来たりする彼女の浮き沈みに、ツンデレ、ヤンデレ、最終的にはデレってしてくるから、嫌われていない事だけは分かるが…、彼氏の立場としては、彼女にここまで振り回されると、落ち着かない。


 補習を受けるためにフリールームへ向かうと、何故か…そこには紫音と小さな子供がいた。その、2~3歳ぐらいの女の子は、ウチのミニサイズの制服を着ていて、紫音の膝の上に座り、母親に甘える子供のように過ごしていた。


「紫音さん…、その小さな子は誰?それから、どうして…ウチのミニチュアサイズの制服を着ているの?」


 色々と突っ込みどころが満載の女の子の事を紫音に聞いてみると…、


「この子?この子は恵麻って言うの。恵令奈さんの義理の娘だよ。恵令奈さんって、子育てする気は無いから、戸籍上に迎え入れた母親なだけで、基本的には私が白河の家で面倒を見ている感じかな~。」


 彼女の説明では、上本先生の養女だが、紫音がお世話をしていると話してくれた。その言葉通り、女の子は紫音になついていて、母親のように甘えていた。そこへ上本先生がやって来て、


「佐藤くん…、授業を聞いてくれていないと思うと先生は悲しいぞ。まあ、君への救済措置のために娘を呼んでおいたから、テストで高得点を取るコツ、存分に教えを乞うが良い。」


 そう言って、普通に補習授業を始めてしまった。


「あの~、娘さんは恵麻ちゃんって言うんですよね?教えを乞うって、何をですか?」


 僕が普通になぜ、どうしてと質問をしていると、紫音が自分の膝の上に乗っていた恵麻を僕の膝の上へ移動させてきた。そして、僕の膝の上で彼女は、


「あんたはバカなの?あの女に無能扱いされてるのが、分からないの?まあ、退屈しのぎに、あんたが間違えた問題の解説をしてあげるから、ちゃんと聞きなさい。」


 幼女の姿の彼女は僕の頭の中にそう言葉を掛けてきて、本当に勉強を教え始めた。その説明や解説は細部に渡っており、僕が少しでも理解出来ないと判断すると、


「あんたの頭の中は整理整頓する技術が身に付いていないし、記憶の引き出しが少ないのは反復練習を怠っているらしいわね。少しだけ、あんたの脳にスペースを作ってあげたから、次からは勉強を終えたあと、単語を反復で覚える練習をしなさい。型が出来れば、高等教育なんて…チョロいものよ。」


 僕の頭の中で勉強法を教えてくれた幼い少女は用を終えると紫音に抱っこを求めて、再び、紫音の元へ行くとそのまま、眠ってしまった。


「あらあら、小さな体で無理をしちゃったから、疲れて眠っちゃったのね。優樹くんはこの子に感謝しないとね。恵麻のお陰で、頭がスッキリしたでしょ?」


 紫音はそう話すと、恵麻が起きないように優しく揺らすように寝かしつけていた。


「終わったようだな。さあ、再テストの時間だ。8割取れたら、家に帰っていいぞ。取れないのなら…、私の家で更なる進化実験をして、もっと頭が良くなる改造を施してやる。今後は人間で生活できるかの、保証しないが…。」


 上本先生はそう言うと僕の机にテスト用紙を配ってきた。


(怖過ぎる脅しだよ、最早、この人は教師と呼べる人間じゃないよ…。)


 先生に脅された僕だったが、恵麻ちゃんが頭の中で分かりやすく教えてくれた事と、頭の中を本当に整理してくれた事で、問題なく解答を進められた事で無事に基準点を越えた僕の補習授業は終了した。


「ウチの子の力を借りて…この程度とは、佐藤の勉学の実力など、底が知れるな…。これからは私の授業を真剣に聞けよ、二人とも。」


 上本先生はそれだけ伝えると、自分の子供を紫音に預けたまま、立ち去って行った。


「もう、帰っていいって言われたね。良かったね、優樹くん。今日は補習に付き合ったんだから、私と恵麻を家まで送ってね。」


 紫音が帰ろうと言って来たので、彼女に抱っこされた恵麻と三人で紫音の家へ向かう事にした。帰り道で、子供を抱える紫音がつらそうな感じだったので、代わりに恵麻を僕が受け取り抱き上げると、心地が悪かったのか、すぐに恵麻が目を覚ました。そして僕の顔を見て、また、頭の中に語りかけて来る感じで話し始めて、


「あなたは、まあまあね。気に入ったわ…。」


 そう語りかけて来たと思えば、


「パパ、パパ、好き…。」


 僕の事をパパ呼ばわりして来て、ものすごく甘えて来た。突然のお気に入り宣言に戸惑っていると、また、僕の頭の中で彼女が、


「あなたは私の父親になりなさい。麻友と別れて、紫音お母さんに乗り替えなさい。これは娘としての命令よ、父親として認めてあげるから、黙って従いなさい。」


 僕は頭の中で3歳にも満たない女の子に父親認定宣言をされたあと、付き合う相手を無理矢理に変えられそうになっていた…。

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不登校明けの美少女には狐耳と尻尾が生えてる。 サトリ @satori-482

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