第29話 夢なら早く覚めて欲しい…

 もう一人の自分と対峙して、悪さを二度しないように痛め付けたまでは良かったけど、新たな問題が発生している…。それは…、


「愛する夫と、そのご両親のために、一生懸命作りました。食べてみて下さい。」


 麻友が家族のために料理を作ったらしいが…、


(同じような食材でどう調理したら、こんなに美味しそうな物が出来るのだろう…。)


 見映えする家庭料理に驚いていると、味のインパクトはそれを上回っていた。本当の麻友も優等生らしく、スゴく料理は上手だが、このレベルには到達しない。それくらいの差があった。でも、


「やっぱり、麻友ちゃんの料理はいつ食べても、美味しいね~。」


 この味音痴の両親はいつもの麻友と変わらずに美味しいと言ってしまっていた。いや…、それすら、誰と誰の中身が入れ替わりを起こそうが、元の記憶が塗り替えられるのかもしれない。それに気付くのは僕と君だけだ…。部屋に戻ったあと、当たり前のように僕の側にいる麻友の姿を見つめてると、


「旦那さまはこっちの私の方が好きになっちゃったみたいだ。ドロドロの人間関係になっちゃったら…、火遊びじゃ済まないよ?」


 彼女は僕の気持ちをすべて理解して、誘ってくる感じで語り掛けてきた。


「紫音さん…、麻友も聞いているので、僕の大好きな麻友の前で、そう言う事を言うのを止めて貰えませんか?」


 たとえ、麻友の意識が無くても、彼女の体は覚えていて、僕の浮気行動を見せつけようとする紫音に注意した。


「あら、ずいぶんと旦那さまは麻友ちゃんが一筋なのね。じゃあ…ますます燃え上がってもらうためには、恋敵が必要よね。大好きな麻友ちゃんの体を人質に取られた優樹さんが、どこまで…私の誘いに堪えられるか、楽しみ。」


 そう言って、僕をベッドに押し倒した彼女はキスをしてきたあと、そのまま行為に至ろうとして来たが、僕はそれを受け入れていた。


「本当にここまでしないと、ココが立たないなんて…、私が知ったら、どう思うのでしょうか?ねえ、優樹さん?彼女の中身が別の女性っていう設定が好きなの?それとも…、普通の女性では興奮しないお体なのかしら?優樹さんは…。」


 そう言われた僕は彼女の誘惑に堪えられなくなり、何度も麻友の体を抱いていた。そして…朝に、


「やってしまった…。麻友ちゃんの中身が紫音さんなのに、やってしまった…。」


 激しく浮気した事を後悔していた…。そんな僕に彼女は、


「おはようございます、優樹さん。私は紫音様の護衛がありますので、先に家を出ますね。それから、昨日は強引な所が素敵でしたよ?旦那さま…。」


 彼女は起きた僕に軽くハグしたあと、いつもの金髪にギャルメイクを施して部屋を出て行った。


(もう、誰が麻友で麻友ちゃんで紫音さんかも分からなくなって来ちゃったよ…。)


 そんな感情でベッドに座っていたが、ある事に気付いた。浮気した僕がどうなるかよりも、元に戻った時の紫音さんの方が命の危機ではないか…と。麻友は精神的に僕を寝取った主の紫音に憎悪を抱くのでは無いか?いや、むしろ…主さまは殺されるので無いか…と心配になり、慌てて、麻友の後を追うことにした。


 紫音の家に着くと、中から二人がちょうど出て来る所で、


「あら、優樹さんも紫音様が心配で来られたのですか?護衛なら、私一人でも…。」


 彼女は麻友の喋り方をしているので、中身が本物の麻友か紫音かの判別が付かない。そこへ狐耳の紫音がやって来て、


「あら、優樹さん。どうなされましたか?紫音さまの体の私が好きでここまで来てくださったのですか?それは嬉しい事ですが、今の私では、優樹さんとお付きあいは出来ませんので、そちらの麻友もどきとお過ごしください。」


 そう告げて来たので、


「酷いよ!こう見えても、元主だよ?」


 麻友が紫音にそう反論すると、


「いえ、今はあなたが麻友で従者です。さ、人気者の私を護衛しなさい。」


 そう言って、紫音が麻友を引っ張る形で二人は歩いて行った。僕は思ったよりも関係悪化していない…、むしろ、麻友も元々自分がそっちの体だった事を理解している事に驚いていた。困惑する僕が二人の会話を盗み聞きする形で歩いていると、


「まあ、優樹さんはそんなに大きいのですか?神里先生もなかなかのモノでしたよ?」


 二人は手で僕や神里先生の男性器の大きさを表現すると言う、朝からかなりの卑猥なトークで盛り上がっていた。


「神里先生も麻友の誘惑には勝てなかったのね…。ちゃんと中に出してくれた?」


 話を聞く限り、入れ替わった二人はお互いに妊娠するために体を入れ替えた感じの話をしていた。


「でも、ありがとう、麻友。これでお互いに子供が出来るわね。」


 紫音がそうお礼を言うと、


「いえ、時も惜しいですし、手段を選んではいられません。小鈴さまに勝つためです。私の体…、いえ、麻友。これからは優樹さんと仲良くしなさい。」


 そう言って、紫音の体の彼女が告げると、


「はは~、偉大なる我が主、紫音さま~。」


 確実に本人がやりそうの無いテンションで麻友の体の彼女は崇めていた。


(僕は何を見せられてるんだろ…。上本先生が夢の中へ僕を連れて行ってからはずっと、オカシイぞ?)


 これは夢だ!きっと、そうに違いないと感じた僕は、


「夢って、いい加減…覚めてくれませんかね。」


 と、二人の後ろで呟くと、


「あれ~?優樹さんは楽しく無いんですか?でも、そんな事を言っても、紫音さまの体とは浮気をさせません。どうせ、私の体に飽きて、紫音様と浮気をするつもりですよね?そんな事は許しませんよ!」


 そう言って、夢の中なのか、麻友にハイキック突っ込みを受けた僕は数十メートルぶっ飛んだあと…、目が覚めた。しかし、


「おい、佐藤…、私の授業はそんなに聞き答えの無い授業なのか?さすがのあのバカ狐でも起きているのに…。」


 目の前には鬼の形相で上本先生が立っていて、麻友と紫音の席を見ると、紫音はいつも通りに狐耳をピクピク動かして、寝たフリをしている。ギャルの麻友に目を合わせると、


「優、寝言はアカンで、アタシの名前を夢見ながら、授業中に連呼すんのは愛されてる感もあるし、嬉しいけど、さすがに恥ずいわ…。お姉が今ここにおらんで良かったな。夢の中で紫音ちゃんとも、イチャ付いてたっぽいし、紫音ちゃんと優はまとめて説教されんで?」


 夢を見ていた僕に恥ずかしいと言ったら、


「優樹くんのせいで、また、麻友に怒られる~。」


 寝たフリをする紫音がボソっと呟いていた。


「いや、その前に私が怒っているぞ、佐藤。もう一度、聞く。私の授業はそんなにつまらなかったのか?」


 威圧してくる上本先生に、「すみませんでした…」と深く謝罪をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る