第28話 優等生女子から見た感想は辛辣過ぎる…

 麻友から見た僕は冴えない…。そんな感情を持ちながら、麻友の体で腕を組み、もう一人の自分を見ていると、隣にいた紫音が、


「優樹くんの魂が入った麻友って、かなりキツい女だよね…。」


 もう一人の自分に対しての軽蔑した態度に驚いていたので、


「本来、優秀な麻友から見た、佐藤の価値などはその程度だ。何もかもが自分よりも劣っていて、普通の女子なら…好きになる確率は0%だ。」


 麻友と同じく優秀な人間の上本先生の意見は辛辣だった…。


「しかし、姉の麻友は何よりも平凡を求める変態だからな。佐藤の特徴無い見た目、冴えない頭脳、影の薄さ…すべてを気に入っている。」


 彼女はそう言って、たとえ、同じ立場に立っても、麻友から見た優樹の見え方は人それぞれだと話してくれたが、


「なるほど、麻友は女に積極的な態度を取る性格の僕は嫌いって事なのか…。好きな男を一気に嫌いなるって、きっと、こう言う不快感のある感情なんですね。」


 僕は頭の良い麻友の体で納得していた。そして、もう一人の僕の腹を踏みつけて、


「君はどうして、僕の体に存在しているんだい?答えないと…、骨を砕いて、病院送りにしちゃうよ?」


 自分の体を平然と拷問し始めるとすぐに、


「無駄だぜ、俺様は本来の優樹だからな。麻友、お前が大好きな優樹様は俺なんだよ!どうしようもないバカ息子に困り果てた俺の父親と母親が、変な奴に魂の複製を頼んで出来たのが、真面目しか取り柄の無い、お前なんだよ!」


 アッサリと僕が何者かに作られた人格だと言い始めてくれたので、


「なら、簡単です。君が僕みたいになれるよう、調教すれば良いって事だけです。」


 僕はそう言うと、彼を二度と麻友に逆らえないように腕力で物を言わせる方法で可愛がってあげた。無理矢理、麻友以外には興味を持たない男にさせてみた。


(麻友ちゃんがわりと暴力的なのは、力が有り余ってるからなんだね…。本人になってよく分かったよ…。)


 グッタリしているもう一人の僕を見て、問題ない事を確認したあと、そろそろ元に戻してと先生へ尋ねると、


「ん?夢では無いぞ。君はもう、麻友だからな。そこの優樹の体にいる忠犬として躾をした麻友ちゃんの魂に頼んで戻して貰えば良いぞ。」


 先生がそんな事を言って来たので、


「もう一人の僕って、麻友ちゃんだったの!それに気付いてて、どうして、僕の振る舞いを止めなかったんですか!」


 僕は麻友として行った自分の行いを傍観していた上本先生に詰め寄ると、


「自分でダメな野犬の調教をしたのだろ?戻せと言ったら、何でも言うことを聞いてくれるはずだ。試してみろ。」


 そう言って、面白い物を見れたから帰ると話して先生は僕の家を出ていった。僕はもう一人の傍観者の紫音を問い詰めると…、


「え~、だって~、麻友って、どこか私を下に見てたし…、私、尻尾を引き抜かれた恨みは忘れないよ?」


 紫音は紫音で、尻尾を抜いた麻友への復讐を考えていたらしく、僕になった姉の麻友が麻友になった僕へ調教される所を見て、密かに楽しんでいたらしい…。


(女の友情って何?怖いよ、女の人…、特に紫音さん。)


 紫音の復讐と上本先生の実験観察に利用された僕たちは互いの人格に影響を与えないように急いで、僕の体にいる麻友へ元に戻す事を指示すると、麻友の力を使って、魂を元に戻す事は成功した…でも、


「優樹さんのお陰で、私はあなたの犬になる喜びを感じると言う、新たな幸せに目覚めました…。私はあなたの犬ですから、犬の耳と尻尾がある方が心地良いです…。」


 自分の体に戻った麻友は僕らのせいで、色々と壊れていた…。そんな彼女は獣耳と尻尾がある紫音を見て、その耳と尻尾が欲しいと言い出したため、紫音は危険を感じて逃げたが…、身体能力の差ですぐに捕まり、


「紫音様…、聞きましたよ?従者の私を変態女にさせて、喜んでいたそうですね?これは、ダメな主にもお仕置きが必要です。」


 紫音を捕まえた麻友は自分の魂を紫音に溶け込ませて、体を入れ替えたが、


「はぁ~、麻友、それじゃあ、私が二人に増えただけだよ…。」


 麻友の体になった紫音が彼女の能力の欠点を指摘した。彼女は相手の体に自分を溶け込まして入れ替える事が出来るが、当の本人はその人物の人格になってしまう最大の欠点があり、僕の母さんの時は母さんとして立ち振舞いをしていたし、僕の体にいる時は性格の悪い僕になりきっていた。そして…、紫音になった麻友は、


「恵令奈さんも帰ったし、私も帰るね。」


 普通に自分を紫音だと認識して白河の家に帰ろうとしたので、僕が止めると、


「優樹くん、麻友の前で私と仲良くしている所を見られると…、浮気はダメだよ?」


 止める僕をいなして、本当にそのまま帰ってしまった…。でも、最悪、明日に戻れば良いと思った僕は仕方がないと諦めて、丁度良い機会だから、麻友の姿の紫音さんに聞きたい事があった。


「紫音さんと僕はどうして、他人の体にいても、自分が何者だと認識できて、自我を保てるんですか?」


 麻友の体にいた時の僕は自分が優樹だと認識していたし、今、麻友の体にいる紫音も自分が紫音と認識できる点に着目して、彼女に問い掛けると、


「私は九尾の狐に取り憑かれている諸事情があるけど、君の魂を複製したのは人間じゃなくて、神様的な存在が君の素行の悪さを直すように、神頼みしに来た両親の願いを叶えた。


 だから、本来のろくでなしの君よりも真面目な君の方がメインで体を操作できるんだろうと思うよ。神様に作られた君は他人の意識も時間の干渉も受けない。」


 彼女はそう答えてくれた。色々と納得できる部分が多かったので、お礼を言って、自分の部屋で寛ぐと、麻友の体の紫音は僕のベットでゴロゴロし出した。


「私は麻友の体のままで良いけどね。親公認で優樹くんと子作りが出来るし、恋人とお風呂も寝る時も一緒に入れるなんて…、最高の体だもん。」


 彼女はそう僕に告げてきたが、


「あっ、優樹くんの若くなったお母さんって、料理が下手になったんでしょ?なら、麻友の代わりに夕御飯を作らないと…」


 と言って、部屋を出て行ってしまった。


(紫音さんって…、何故か、他人の体慣れをしてるよね?)


 麻友の体でも問題ないと告げた彼女は、言葉使い以外は麻友らしい行動をしており、改めて二人の仲の良さ、理解をしている感じが伝わってきた。でも、それだと…、


「もし、今の麻友ちゃんと関係を持つと浮気になるよね?」


 僕が麻友で、麻友が僕だと都合は悪いとは思うが、恋人同士として辛うじて関係は成立する。でも、麻友が紫音だともっと都合が悪い。今の麻友の姿をした紫音との距離の取り方に僕は悩み始めていた…。

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