第23話 高飛車お嬢様の好意の気持ちは分かり難い

 神里 小鈴…彼女はクラスで二番目に優秀な理事長の孫。学力、運動能力は麻友に次ぐ二位。良家のお嬢様でハイスペックだが、養女の麻友にすべて負けているため、家では肩身が狭い思いをしていると話していた。


 もちろん、麻友を敵視しているが、大好きな優しい叔父を奪おうとする紫音への敵視の方が勝っているため、真面目な優等生の姉の麻友とは、そこまでの正面衝突をしていないらしい。でも、今回は…


「私への侮辱行為は神里家への侮辱行為に当たるの。よって、一般庶民のあんたは私の実家へ赴き、謝罪しないと行けなくなったの。分かった?」


 お嬢様の小鈴に友達になっても良いと言われた僕は、「別にいいです」と断った事を母さんに知られてしまい、友達を作ろうとしない小鈴が心配なウチの母親は大激怒していた。


「優樹さんが小鈴様を侮辱したから、謝罪へ伺うのですね?まあ、優樹さんのお母様が付いていらっしゃるのなら、私が付き添わなくても大丈夫でしょうし、神里のお義母さまのご家族との顔合わせも兼ねてとなら…、本宅へ行ってもよろしいのでは無いでしょうか?」


 意外とアッサリ受け入れた麻友は紫音の護衛があるから、一緒には付いて行けないと僕に話した。そして、小鈴に、


「小鈴様、この度は、優樹さんが侮辱的な言葉を浴びせてしまい、申し訳ありませんでした。私自身は後日、小鈴様のご両親へ謝罪に参りますので、同行が出来ない点に関しての非礼をお許しください…。」


 麻友は僕と小鈴に何があったかを聞かず、素直に謝罪していた。


「良いのよ、麻友。義理と言えど、私たちは親戚よ。親類者への教育も含めて、優樹には上流階級の教えを叩き込んであげておくから、あなたは狐の護衛の任務を全うなさい。」


 小鈴はそれっぽい事を言って、麻友を遠ざけるように話していた。


(良家のお嬢様と麻友ちゃんの牽制し合う感じ…、女の世界も大変そう。)


 麻友が去ったあと、二人で帰る事になった僕へ彼女は、


「あの子って、本当に何を考えているか、分からない女。あんたもストレートに文句を言ってくる妹の方が可愛いげがあると思わない?」


 彼女は麻友の発言や行動には読めない部分があって、信用できないと話していた。彼女が麻友と仲良くしない理由は、行動に裏があるからだと話してくれた。


「紫音さんをとても慕ってる様だし、僕にも優しいし、良い子だと思う。僕はどちらかと言うと…、上本先生の方が怪しいと思う。」


 素直に危ない人間と聞かれると上本先生の方が怪しいと話した。


「あんたは女を知らないのね…。あんなにあからさまヤバい教師ですって、アピールしている奴の方が案外、信用してもいい人間なの、分かる?あの二人って、メチャクチャ仲の悪いフリをしているけど、本業では協力関係みたいよ。あの恵令奈って女は一度死んだ所を狐女に救われたって、ウワサがあるくらいだもん。」


 彼女は僕に紫音と上本先生の関係を話して来た。


「ん?本業って、やっぱり…教師じゃないって事?それに、そんな秘密をどうして、僕に喋ってくれるの?」


 今までは秘密にしていた事を話し出した理由を尋ねると、


「それは…、麻友からあんたを奪って、未来の旦那になってもらうためよ。麻友みたいな女があんたに執着する理由も分かったし、お婆ちゃんが麻友の不甲斐なさに呆れて、先にあんたの子供を身籠った方が、あんたと結婚出来るってルールにしてくれたし、今日もお母さんに会ってもらうから招待したのよ。」


 彼女はそう話して来た。


(謝罪じゃないの?結婚って…何?)


「あの~、神里さんは僕の事が嫌いなんじゃ…。」


 モヤシとか、名前で呼んでくれた事の無い彼女に僕が嫌いじゃないのかを聞くと、


「平民のあんたなんかに興味ないわよ!だけど、お婆ちゃんがあんたとの子供を作れって言うから、仕方が無いのよ!」


 聞いてみると、彼女は怒ってしまったが、嫌がっている感じでも無い。そして、体を密着させて来て、


「昼は情けない男でも良いけど、夜はしっかりとリードしてね。それから、小鈴って、呼び捨てにする権利をあげるから…。」


 恐らく、男性に甘えた事の無い彼女は不器用な感じで甘えてくる。力が少し強くて、痛かったが、それを黙っていると、校門付近にある高級車から運転手が出てきて、ドアを開けると、


「行くわよ。隣で大人しく座ってなさい。」


 彼女に引っ張られる形で、車に乗せられた僕は学校をあとにする事となった…。


 僕が想像していたよりかは、彼女の家は大きくなかったが、市内で個人の土地をここまで広く持っている人が他にいるわけでもなく、間違いなく家を見る限り、大金持ちの雰囲気を出していた。


(紫音さんの家も広いかと思ったけど、あそこは職場兼住居だから、理事長の家は段違いだよね…。)


 車から降りた僕は彼女に連れられるがまま、家に入ると普通の主婦っぽい人が掃除機をかけていた。小鈴はその女性に向かって、


「お母さん、ただいま。友達を連れて来たから、お菓子と飲み物を用意してくれない?」


 普通に母親へ帰宅の報告をして、部屋に行こうとしたので、


「小鈴、お母さんはメイドじゃないわよ。自分でそれくらい用意なさい。これを見て、お母さんが掃除に忙しいのが分からないの…って、あら?初めて見る顔ね、どなた?」


 どこにでもいる普通の主婦の母親に誰かを尋ねられて、「佐藤です」と答えると、


「あら、あら、麻友ちゃんの彼氏ね。会えて嬉しいわ。私は小鈴の母親の鈴花って言うの。見ての通り、普通の専業主婦のおばさんよ。よろしくね。」


 彼女は高飛車の娘の小鈴にはまったく似ていないタイプの女性で物腰が柔らかくて、優しい感じの女性だった。


(紫音さんのお義父さん光さんのお姉さんって事だよね?そう言われてみると…、優しい物腰は似ているかも…。)


「はい、よろしくお願いします。光さんや神里先生のお姉さんですよね。なんか…、優しい感じが似てて、ステキな人ですね。」


 僕は思わず似ている彼女にそう言うと、


「あなたも優しい子ね、小鈴なんかと仲良くしてくれるなんて…、この子ね、根は良い子なんだけど、私の母親、この子の祖母に厳しく育てられたせいで、弟の光みたいな頑固者になっちゃって…、そのうち、家を飛び出さないかが、心配なのよ。」


 打ち解けたと思ったら、早速、娘への悩みを話して来た。それを聞いた小鈴は、「お母さん!コイツの前で恥を掻かさないで!」と怒って、僕を置き去りにして、部屋へ走って行ってしまった。


(あっ、行っちゃった…。でも…)


 僕は麻友のお陰で、初対面の同級生の母親へも普通に喋れるようになっていた。この鈴花と言う女性が非常に親しみ易くて、話しやすい人なのもあるが、麻友、紫音、小鈴などのアクの強いキャラに鍛えられた僕のコミュ力が上がっている事を実感していると、小鈴の家のチャイムが鳴り、僕以外の来客者が来たようだった。

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