第21話 狐っ子の時間の流れは違う

 付き合っている恋人と二人で学校へ登校する…。そんな事すら、夢のような時間なのに、今日からは…、


「優樹、制服のシャツが出てるわ。ちゃんとしないとダメでしょ?」


 そう言って、母さんは僕のシャツを直してくる。


「もう、麻友ちゃんも、スカートが短いのはダメでしょ?それから、お化粧がちょっと濃いと思うわ。」


 母さんは麻友の身だしなみの注意もしていた。


「優のママって、優等生過ぎだよ、お姉がいるみたいでなんかやだ~。」


 ギャルの麻友は嫌だと言って、僕にしがみついてきたら、


「麻友ちゃん!外でベタベタしちゃダメよ!私だって、我慢しているんだから!」


 母さんの注意の仕方が微妙に違った。その言い方では、自分が我慢しているから、麻友も我慢しろと言っているようだった。


「母さん…、本当に一緒に来るの?」


 念のため、麻友と同じ制服を着ている母さんに学校へ来るのかを再確認すると、


「優樹…、お母さんと一緒に学校へ行くのが恥ずかしいの?反抗期なの?」


 ウチの母親は恥ずかしいとか、反抗期なのかを聞いてきたが、


(そう言う、問題じゃ無くて、学校に行く事自体を問題視しているんですけどね…。)


「優、アカンて、ママだけを仲間外れにしたら、アカン。アタシらは家族なんやから。」


 若返った母親が制服を着て、息子と一緒の学校に来る…こんな原因を作った麻友ですら、問題視している観点が違った。そんな、変な家族三人で登校していると、尻尾が生え変わり、肌艶が良い紫音が上機嫌に歩いてきた。


(ずっと、思っていたんだけど…、学校へ行く時の紫音さんの護衛はしなくても良いのかな?)


 朝の麻友は主の紫音を護衛する気がない。理由は恐らく…この妹にあると思う。この妹は三日に一回は遅刻するという、遅刻常習犯だ。しかも、朝はメイクなどの身嗜みに時間を使いすぎていて、余裕を持って行動しない。姉の誘導が無ければ、いつも、行き当たりばったりの行動しか取っていないからだ。


(忙しい時間帯なのに、ルーズな妹に朝の主導権を渡している、そんな姉の方も問題だけど…、あえて、姉はオシャレが好きな妹に朝の時間を与えて、自由な行動を取らせているのかも…。)


 朝なら、姉は寝ている影響で、直前の事を考えていないから、妹が自分で自ら考えて行動をしないといけない。深く考えないギャルの麻友には紫音の護衛任務などの予定は存在しない。


「紫音ちゃん、おはよう。」


 三人の中では、真面目なウチの母さんが真っ先に紫音へ挨拶をすると、


「え~っと…、誰だったっけ?」


 紫音は初対面の母さんを知らなかった。


(ほら!言ったとおりだよ!誰だか、分かられていないよね!)


「ひっ、酷いよ!紫音ちゃんと一緒のクラスで優樹の母親の千夏ちなつよ!」


 知らないと言われたウチの母さんは自分の名前を紫音に伝えると、


「優樹くんのお母さん…?若!若過ぎるよ!何、なに、内縁の後妻?」


 まともな紫音は僕の母親が若過ぎる事を突っ込んでいた。僕は正常な感覚をしている人間にようやく出会い、話の分かるまともな人間を見つけられた。


「麻友ちゃ~ん。紫音ちゃんがイジメル~。」


 まったく記憶の無い紫音、メンタル弱めの母さんは、いじめて来ると麻友に訴えると、


「紫音ちゃん…、そのボケは笑えへんで、仮にもアタシの義理の母親で優の母親を知らんふりをするボケはアカンで。」


 麻友は傷付いた母さんを迎え入れて優しく撫でたあと、主の紫音へ文句を言っていたので、紫音はさすがに悪いと思ったのか、「ごめんなさい」と二人に謝っていた。


「あの、麻友。母さんと先に学校へ行っててくれないかな?僕は紫音さんに話があるからさ。」


 麻友へ紫音に話があると伝えて、先に行ってて欲しいと伝えると、


「おっ、優も怒っとんのか、紫音ちゃんを叱ってくれるんやな?エエで、たっぷりと説教したれや。アタシらの担任には、エッチな事をしてるから、遅刻してるって伝言しといたるわ。」


 姉のように、強く叱れないギャル妹の麻友は僕が紫音を自分の代わりに叱ってくれると思ったのか、上機嫌に母さんを連れて学校へ向かって行った。麻友たちがいなくなったので、


「紫音さんがまともな感覚を持っていて、良かったです。アレは確実にオカシイですよね?」


 紫音にウチの母親が突然、同級生になった事の異変に気付かない謎の現象の話をすると、


「優樹くん、それは違うよ。感覚がオカシイのは私と優樹くんなの…。」


 紫音からは逆の答えが返ってきた。その事象が何故なのかを彼女に深く聞いてみると、


「私、君の事、出会った時から不思議に感じていたの…。何故、君は私を年齢相応の女子高校生と認識出来ているんだろう…って。」


 彼女は僕の理解出来ない事を話し始めたため、どういう意味か…が分からないから、説明をして欲しいとお願いしてみると、


「う~ん、君は私が何年生きていて、何歳の人なのか…、分かる?」


 紫音は突然、不思議な事を話したので、15歳か16歳でしょ?と一般の高校一年生の年齢だろうと答えると、


「違うよ、それはあくまで、肉体年齢。実際は橘 紫音という人間としては15年、それ以前は別の人間として35年生きてるの。魂の年齢を合わせて今は約50歳って所かな?君は、50歳の狐耳の女が女子高校生って言われてもピンと来ないし、高校生の男子にモテるわけないよね?私の男性不人気の謎や中年男性に嫌われる謎が分かったでしょ?」


 彼女は自分の存在の話をしたが、それでも、よく分からない僕は何故、紫音と僕だけは他と感覚が違って来るのかを尋ねる事にした。


「私は九尾の狐の力で時の時間経過が人よりも段違いに遅いから、あと何十年経ってもこのままの見た目で歳を取らないし、人の時の流れにどんな事象が挟み込まれても、私だけは影響を受けない。でも…分からないのは、君の存在なのよ。君…何者?もしかすると、本来、ここにいるべき人間じゃ無いのかもね。」


 紫音はそう話してくれた。でも、確信を持てない可能性の話だから、忘れてもらっても構わないと僕に告げたあと、


「今の話は、麻友を含めて、誰にも喋っちゃダメだよ?普通の人間に話したら、事実を知った全員が制裁を受けて、何も無い時間の止まった世界へ連れて行かれちゃうし、そうなると、弱体化した今の私では、助けられないからね、人生の先輩からのお願いね?」


 彼女は口に手を当てて、今の話を誰にも話してはダメだと忠告した。


「じゃあ、学校へ行こっか?優樹くん。」


 そのあと、調子が良くてご機嫌なのか、紫音は自分の家の話や家族の事を話してくれたが、僕は考え事をしていたため、彼女の話した内容をよく覚えていない。それくらい、さっきに彼女が語っていた事…そのインパクトが強過ぎて、理解出来ない世界の話だったからだ…。

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