第18話 見つかった欠点と戻って来た彼女

 妹の麻友はスキンシップが多い、みんながいる教室でも、抱き付いたり、今日に至ってはキスまでしてきた。その結果…、僕は力を奪われるように眠くなり…気絶してしまった。


「あっ、優樹さん、目が覚めましたか?」


 起きたら、目の前には綺麗な金髪の麻友が姉の口調で優しく手を握っていてくれていた。


「あれ?麻友ちゃん…、帰って来てくれたの?」


 何故だか分からないが、妹の麻友の姿なのに口調が姉のため、姉の麻友だと感じた僕は、傷付けた事を謝ろうとしたら、


「何も言わなくて、大丈夫です。優樹さんは何も悪くありません。悪いのは、優樹さんの体だったみたいですから…。」


 彼女はそう言うと、保険医の先生が僕と麻友の側にやって来て、


「どうやら、彼の体は誰かに触れられると溜めていた力を相手に与えるクセが見に付いているみたいです。子供の時に体質を変える何か大きな出来事があったから、起こりうるトラウマ…、解離現象の一種かと思われますが、原因を取り除かない限り…体の機能が正しく働かないと考えられます。」


 保険医の先生は僕の体の診察をしていたらしく、体の機能がどうとかを話していた。


「やはり…、そうですか。ありがとうございます。さあ、優樹さん。立てますか?」


 彼女に手を引かれた僕は、疲労もなく立ち上がると、眠っている間にもう、帰宅する時間となっていたので、


「うん、大丈夫だよ、帰ろうっか。紫音さんは?」


 紫音はどうしたかを聞くと「間もなく来られるはず」と彼女は答えた。


「妹…、もう一人の私に大好きな優樹さんを任せていたら、あなたの体が持ちません。それに…、妹は紫音様を叱れない優しい子なので、教育係としても不向きです。」


 彼女はそう話すとちょうどそこへ、


「麻友、準備出来たよ~。帰ろ~。」


 ご機嫌の紫音がやって来て、帰る準備は出来ている事を彼女へ話しながら、ギャルの妹だと思い込んで、撫でてもらいに近付くと、


「ふふ、紫音様~、先程の振る舞いを見ておりましたよ?」


 彼女は紫音の背後に周り込み、羽交い締めして動けなくした。


「えっ…、何の事かな~、麻友ちゃん。私が可愛いからって、抱っことか…そう言う年齢でも無いし、一人で歩けるし~。」


 彼女は薄々、何をされるか、察知し始めているらしく、言葉が早口になり始めた。


「私がいない事を良いことに、随分と今日は好き勝手な振る舞いをなさっておられましたね?妹と小鈴様の口喧嘩も仲裁せず、人のお弁当を許可なく開けて、平らげたり、嫌いな野菜を優樹さんに押し付けて…、先生の忠告も耳に入れない。そんな横暴な生活態度は人としてどうだ?と思われるかを考えた事、ありますか?」


 金髪の麻友なのに、怖い方の麻友がいる事に気付いた紫音は、汗が止まらない感じになり、


「あれ~、麻友ちゃんはどうして、お姉さんの真似をしてるのかな?」


 紫音は足をバタバタされて、逃げようとするが、すでに足が浮いているため、逃げられないようだった。


(あっ、確かに今日の紫音さんは朝からおかしくて、いい加減な感じだった。消極的な感じで、面倒くさい、口が軽い…そんな感じだった。)


 姉の麻友がいない紫音の半日は色々と緩かった。授業中は机で寝てたし、お昼はいつもは秘密と言って、はぐらかす部分があるのに、僕の質問に答えてた。挙げ句の果ては麻友の弁当を許可なく、つまみ食いしてた。


(マナーに厳しい姉の麻友がいたら、確実に取らない行動を取っていたんだ…。)


「妹は私の体の中に占める割合で言うと、オマケ程度の物です。よって、そのオマケ程度の妹一人で私の体を完全に操作するのは不可能なんですよ?当然、妹もアレだけ激しく動けば、疲れて眠ってしまうんです。じゃあ…残って体を動かすのは…、誰だと思いますか?」


 金髪の麻友はキレながら、紫音に質問をすると、


「美人で可愛くて、私の憧れの麻友です。」


 そう、お世辞を言いながら、答えると、


「不正解です。美人で可愛いと紫音様に言われても私は喜びません。最近は優樹さんにお任せする形となっていましたので、今日は私が夜まで、世話をいたします。さあ、帰りましょうか?」


 麻友は紫音を羽交い締めしていたが、尻尾が邪魔で持ちにくいと言って、麻友が一度降ろしてあげると、隙を突いて、紫音が逃げた。


「あらあら、足が遅いのに、それにそっちには…。」


 麻友は無理に追う事をしなかった。何故なら…、


「また、お前か。廊下を走るなと言われた事は無いのか?」


 逃げた先にいた上本先生が彼女を捕まえたのを見た麻友は、


「申し訳ありません、主の失態は私の責任です。本来なら、それ相応の罰を与えないといけませんが、ご迷惑を掛けたお詫びに…。」


 先生へ謝罪したあと、紫音のお尻の上に生えてる尻尾を思いっきり引っ張って、


「ひぁん!」引っこ抜いて、紫音の狐の尻尾が取れてしまった。


(あっ、尻尾が抜けた…。)


「失態を犯した者のケジメです、お納めください。」


 麻友が紫音に付いていた尻尾を上本先生にケジメと言って差し出したが、

 

「いらん。出来損ないの九尾の抜けた尻尾などは研究の価値もない。」


 先生はいらないと断ってしまった。


(ケジメって何?極道のアレ?)


 一方で尻尾を抜かれた紫音を見てみると変な鳴き声をあげたあとは、動かなくなっていた。


(もしもし、紫音さん…、生きてる?)


「困りましたね~、私もいらないので…、優樹さんにあげます。学生のカバンにでも付けてください。至らない主に仕える、苦労をする従者の夫の証ですね。」


 麻友はそう言うと、僕のカバンにアクセサリーのような感じで付けてしまった。


「まあ、これで反省しただろ。紫音、これからは私の授業をちゃんと聞けよ。あと、毎週水曜日は放課後に補習をやる。逃げずに来いよ、分かったな。」


 上本先生も紫音が目の前で罰を与えられて満足したのか、これ以上の咎めを彼女は受ける事なく、立ち去って行った。


「あの、麻友ちゃん、紫音さんの尻尾って…。」


 僕が抜けた尻尾の事を聞くと、


「ああ、十日ほどすれば、元に戻るみたいですよ。紫音様の体に取り憑いているのは、再生の力を持つ九尾の狐らしいですから、問題はありません。」


 麻友はそう話してくれると、紫音の尻尾が生えていた部分にあるスカートのチャックを引き上げているのを眺めていると、


「我が主はとても形の良いお尻ですが、浮気は許しませんよ。出来れば、私だけを見てください。」


 いつもの麻友がクールに自分だけを見て欲しいと行って来た。


「うん、そうするよ。二度と麻友ちゃんを手放したくないし。」


 僕が彼女を見つめながらそう告げると、


「今すぐにあなたの子供が欲しいです。」


 いつもの重い答えが帰って来た。

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