第13話 大人な彼女と怖い魔女

 紫音の行動には必ず意味がある…。彼女と仲良くなってから、僕を連れて歩く時はいろんな世界を見せてくれる。


 未夢がリハビリの時間だと行って、運動に向かったため、病院から出た僕たちは紫音の家庭の話を聞いていた。


「未夢ちゃんが目を覚ました事、お母さんに伝えていないの?」


 僕は意外過ぎる事実を聞いて、紫音へ問い掛けると、


「今の未央お母さんの記憶の中には未夢ちゃんが存在していないの。就職の面接に来た今のお父さんにも出会った最初から夫婦だって言い出して、仕事を終えて帰ろうとしたお父さんに対して、「一緒に居てくれなきゃ死ぬ、別れるなんて言ったら死ぬ」って言って、困らせて、強引に結婚したんだから…。」


 紫音の母親には麻友と同等の重さを持つ女性だった。


 僕は紫音の母親についてはよく分からないが、初対面でお化けに間違われて塩を掛けられたあと、間違いに気付くと服を剥がされそうになった経験があるので、危険な妄想の傾向がある事は知っていた。


「う~ん、私は実の娘じゃないからね。何らかの拍子にすべてを思い出した時が一番怖いかもしれないからこそ、未夢ちゃんと会わせるタイミングには慎重になっているの。お父さんも同じ考えよ。」


 麻友の言っていた通りで、紫音はいつも年齢に見合わないくらいの冷静な判断をしている。


「まあ、幸いなのは、未夢ちゃんもお父さんとお母さんの事を覚えていない事かしら…、きっと、一度仮死状態になり、脳にダメージが負った事と魂の…心の一部が欠けてしまった影響ね。」


 医者でもない彼女は冷静にすべてを見通すように話してくれた。


「なんで、僕にこんな事を話してくれるんですか?」


 僕には、ほとんど無関係な事では無いのかを聞くと、


「決まってるでしょ、君に余計な事を吹き込まないで欲しいからよ。もし、君が、なんの知識も無しに未央お母さんへ未夢の事を伝えたら、どうなると思う?最悪の場合…分かるわよね?


 私は君の人間性を信用してる、でも、同時に君がこう言う経験の場数が不足している子供だって事も理解してるのよ、だからこそ、未夢の存在を知っている人間全員に情報統制を強いている事、理解してね。」


 彼女は僕が余計な事をしないように未夢ちゃんの所へ連れてきて、今の家庭の事をありのままに説明をしてくれた。


「紫音さんって、いったい…何者なの?」


 とても、同い年とは思えない彼女に何者なのかを聞くと、


「私はあなたよりも、段違いの数の生と死の場に立ち会ってるの。白河家の仕事は話したよね?死んだ人の未練や最後の願いを聞いて、あの世へと送り届けるって…、優樹くんは見えない人だから私の話を信じていないと思うけど、死んだ人の最後の願いって言うのはね、残した家族への思いがほとんどなの。他にも殺された無念の気持ち、夢半ばに死んでいった後悔。


 そんな思いを出来るだけ叶えてあげて、あの世で生まれ変わるための人生の終わりに区切りを付けてもらう、私やお父さんたちはそんな仕事をしているの。」


 彼女はそう言って、白河家の社員証を見せてきた。


「君はただの学生、でも、私は学生であり、親の会社に勤める従業員なの。」


 紫音は僕へ自慢げに社員証を見せてきたが、そこにパトロール中の警察官が声を掛けてきて、


「君、そんなコスプレみたいな格好で歩いてると、変質者に狙われちゃうから、気を付けてね?」


 交番勤務でパトロール中の警察官は狐耳と尻尾があって、高校の学生服を着ている紫音をコスプレ扱いして、注意をしていた。


(大人アピールしてたのに、怒られてる…。)


 締まらない所を見られた彼女は必死で僕に大人アピールをしていたが、突然、アピールするのを止めて、僕のしがみついて隠れて来た。


(えっ?いきなり、何?)


「み~つけた~。勉強しよ?紫音ちゃん。」


 聞き覚えある透き通った声がしたので、振り返ると可愛い服を着ている女性がいて、その顔に見覚えがある僕が、


「上本先生?」


 教室に来た時の研究員みたいな白衣姿ではなく、メチャクチャ可愛い服を着こなす上本先生にビックリしていると、


「あら?先生の私服を可愛いって褒めてくれるのね、ありがと。でも、先生はこのまま、佐藤くんと楽しくお話ししたいんだけど…、今は少し忙しいの。」


 何も言って無いのに、心を読まれてしまった。そして、僕の後ろにいる紫音に他の男子生徒の前では見せないような冷たい目で睨み付けて、


「逃げちゃダメじゃない…、先生の補習授業は今日だって、伝えてたよね?どうして、先生から逃げちゃうのかな?ど・う・し・て、佐藤くんと遊んでいるのかな?」


 笑顔で上本先生はキレていた。それを見て、紫音は観念したのか、僕に引っ付くのを止めて、


「うん、用事も終わったから、先生の所…今から行こうと思ってたんだ。じゃあ、行こっか、恵令奈先生。」


 紫音がそう言うと、上本先生は彼女の近くに詰め寄り、狐耳を優しく撫でながら、


「私、すぐ、どこかに行っちゃう可愛いペットの狐ちゃんが心配だから、しばらくは私の家で飼っちゃおうかしら?」


 補習を逃げた紫音を完全にペット扱いしたあと、僕に聞こえる感じで、


「この狐ちゃんは進学校の生徒なのに、素数や因数分解すら、何かを分かっていないおバカなの…。佐藤くんや金髪の麻友ちゃんみたいに、普段から、先生の授業をちゃんと聞いてくれていて、テストも結果を出す良い子なら、もう少し優しくするんだけどね…。」


 持ちにくい大きな狐だと言って、肩に担ぎ上げて、


「じゃあね、佐藤くん。ウチの逃げ出したペットを保護してくれていて、ありがとう。あとは先生の家で躾をするから、バイバイ。」


 そのまま、人拐いのように紫音を連れて行ってしまった。


(コスプレ狐っ子の生徒が変質者の教師に拐われた…。)


 社会科の教師が数学を教えて補習する理由は謎なのだが、ウチの一年全体で平均点を大きく下回ったのは紫音の数学のみで、恐らく…、神里先生の交際相手として相応しくない成績だった事で、理事長の怒りを買ったのは間違いない。


(若くて可愛い家庭教師が可愛い狐の教え子を連れて行っただけだよ、きっと…。うん、麻友ちゃんに報告すれば、問題無い。)


 僕は上本先生の怖い部分を見なかった事にして、護衛を完了したので、麻友の待つ家へ帰る事にした。

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