第12話 彼女が出来ると付き合いも増える

 仲良しの親友で、変な主従関係の紫音と麻友、現在の二人の悩みは一緒で、交際中のパートナーにどうすれば、襲ってもらえるかを毎日話し合っていた。


「紫音様、私には魅力が無いのでしょうか?どうすれば、優樹さんは子供を作ろうと言ってくれるのでしょうか?」


 彼氏の僕に聞こえるように麻友が主の紫音に相談すると、


「相手の気持ちも大事よ麻友…、私は蓮さんに強要せず、外堀を埋めて行って、相手の逃げ道をしっかりと塞いでから、その選択肢しか無いように優しく誘導をしてあげるの。今は自分の気持ちをぶつける期間では無いの。焦っちゃダメよ、まずは優樹くんのご両親の心を掴むの。そこで麻友がいないと自分たちの孫は一生見れなくなるかもしれないって、心理的な不安を煽るの。」


 麻友よりも大人な紫音さんは麻友の彼氏の僕が聞いているのに、作戦を聞こえるように話していた。


(あの、一応ですけど…、全部、聞いてます。)


「そんな小細工は必要無い。私が作ったコレを使えばね。」


 何故かは分からないが、二人の話し合いに上本先生が加わってきて、怪しげな液体が入っている小瓶を見せていた。


「恵令奈さんは親譲りの魅了能力で、好きな男に抱かれ放題でしょ?私たちはそれが出来ないから…普通の恋愛をして、普通の交際をしているの。」


 紫音は上本先生を下の名前でさん付けで呼んでいて、いつの間にか仲良くなっているようだった。


(あの…、紫音さんも麻友ちゃんも上本先生を敵視してませんでしたっけ?)

 

 古くからの旧友のように話す三人を見た僕は女同士の関係性がイマイチ理解できないでいると、


「そもそも、紫音が外堀を埋めるとか、無駄な時間を使って、恋に溺れ、赤点などを取るから、私の研究の時間が減ったんだぞ。教師の私としては、さっさと子供を身籠って、勉学に集中して貰いたいものだ。さっさとコレを使って子供を作れよ、分かったな二人とも。」


 ヤバい女教師、上本先生は変な小瓶を置いたあと、麻友たちの話を盗み聞きしていた僕に近寄ってきて、


「女同士の会話をあまり盗み聞くものではないぞ…青年。それとも、ここで魅了されて、私のモノになるか?」


 と耳元で囁いて、去って行った。


(上本先生は危険な女教師なのはよく分かったよ…。)


 子供を身籠って勉学に集中しろとは、教師の言うセリフでは無いため、ギャルの麻友が言っていた通りで、彼女が一番の危険人物だと、再認識した。


「ねえ、麻友。コレって怪しくない?コレを一度、優樹くんの晩ごはんに混ぜて試してみてよ。」


 紫音は僕が聞いてるのに、麻友に僕の食事に変な液体を混ぜて見ろと言うと、


「優樹さんは紫音様の従者でも実験体でもありませんよ。私の彼氏です。あの女の投薬実験に付き合わせるわけにはいきません。紫音様が自ら飲んで試せば良いんですよ。」


 麻友は怪しげな液体を僕には飲ませられないと言って、拒否してくれた。


「え~、やだよ…。あっ、そうだ。なら、お父さんのご飯に一滴混ぜて飲ませてみるよ。お父さんに効くって事は弟の蓮さんにも効くもん。」


 紫音は義父に飲ませると言うと、二人は血縁者に試すのは効果の作用を確認する上では良いと頷いていた。


(それで良いのかな?紫音さんのお父さんが可哀想…。)


 帰宅部の僕の放課後は自然とやる事が増えていた。それは…、


「優樹さんのお母様に家の片付けを頼まれたので、今日は紫音様の護衛を頼んでも構わないでしょうか?」


 最近の麻友は本当に主の紫音を放置して、僕の両親に気に入られるための活動を優先している。今回も仕事で夕方まで帰って来ない母親に家の掃除を頼まれたらしく、紫音の護衛を僕に頼んできた。いいよと頷くと、


「紫音様、優樹さんにはあまり長時間は触れないで下さいね、優樹さんの大切な物が元気を無くされてしまいますし、もし、精製量が減ってしまうなんて事になったら、紫音様の命を奪ってしまう可能性がありますので…。」


 麻友は主には絶対に言ってはいけないセリフを吐いて脅していた。


「分かってるよ~。でも、良いよね、麻友は回復し放題で触りたい放題だもん。」


 紫音は常に一緒にいるのは羨ましいと言ったあと、


「今日はウチの仕事を手伝う必要も無さそうだし、ちょっと付き合って欲しい所があるの。良いよね、麻友、優樹くん。」


 彼女はどこかに付いてきて欲しいと言って来たので、僕と麻友に許可を取ろうとすると、


「私たちの仕事は紫音様をお守りする事です。どこへでも付いて行きます。本日は優樹さんがその任をこなして下さいますので、よろしくお願いいたします。」


 彼女はそう言って、紫音の要求を了承していた。


「僕は麻友ちゃんが行っても良いと言えば、どこへでも行くよ。」


 麻友の了承を得たので付いて行くと話すと、紫音は笑顔で喜んでいた。


(尻尾をフリフリしてるし…、分かりやすいよね、紫音さん。)


 狐っ子の紫音は感情が高ぶると狐耳をピンと立てて、尻尾を振っている。反対に上本先生の授業の時は狐耳をペタんと閉じている所を見ると、機嫌が悪いのか、無意識に先生の授業をボイコットしているのか…それは分からないが、尻尾も地面に垂れ下がるぐらいに元気が無いため、それに近い感情を抱いているのだろう…。


(上本先生の授業は、麻友ちゃんはギャルの妹を表に出して、あからさまにボイコットしてるもん…。紫音さんはそうでもないけど、麻友ちゃんは上本先生がかなり嫌いみたいだ。)


 放課後に麻友は僕の両親に気に入られるため、まっすぐ僕の家に帰って行き、僕は麻友の代わりに紫音の向かう場所へ付いて行く事にした。


「あっ、狐のお姉ちゃん!未夢は歩けるようになったよ~。」


 紫音が僕を連れて来たのは、未夢ちゃんの病院だった。未夢は交通事故が原因で昏睡状態だったが、紫音さんの不思議な力で意識を取り戻し、現在は退院に向けて、通常生活を送るために運動能力回復のリハビリ中だった。


「未夢はがんばり屋で良い子ね、お姉ちゃんは嬉しい。」


 そう言うと紫音は未夢を抱き締めていた。


 血の繋がらないが仲の良い姉妹みたいな関係を築いていた二人、未夢は現在、中学二年生だが、数ヵ月の昏睡状態が続いた事故の後遺症で小学生の低学年ぐらいのレベルまで幼くなってしまっていた。元はあの美人の母親の娘のため、背の高さは紫音と変わらなかったり、顔は紫音よりも大人っぽい。


「お兄ちゃんは誰?」


 ほぼ、初対面の僕は誰かと尋ねられて、


「麻友ちゃんの旦那様だよ。」


 紫音は僕を麻友の旦那と紹介していたので、否定すると未夢が混乱すると思った僕はそうだよと答えると、


「うわ~、スゴーイ。麻友ちゃんの旦那様…。カッコいい~。」


 目をキラキラさせて僕を見てくるので、対応に困っていたが、その後は未夢の子供っぽい会話をずっと聞いているだけで良くて、女性や子供慣れをしていない僕が何もしなくても良かった。


(紫音さんと関わってから、知り合いが増えて来たよね…。)


 引っ込み事案の僕を狐っ子美少女は率先していろんな事を体験させてくれる…。そんな彼女に出会えた最近の僕はとても充実した毎日を送っていた。

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