第9話 狐っ子美少女の護衛と裏家業

 最近は自分の彼女よりも彼女が仕えるご主人様の女性と一緒にいる事が多い。と言うのも、僕の彼女になった麻友さんはご主人様の事より、僕との同居生活の地盤固めに勤しんでいるからで、その代わりに僕が彼女のご主人様で同級生の橘 紫音の護衛任務を引き受けているのだった。


「ニャンコのお姉ちゃん、可愛い~。撫でてもいい?」


 狐っ子紫音の護衛任務とは、こうした動物好きの子供から囲まれた場合の


「はいはい、そろそろ良いかな?ニャンコのお姉さんは別のお仕事があって、行かないといけないんだ~。」


 小さな子供を説得して、紫音から遠ざける、アイドルの接がしみたいな仕事とか、


「可愛い!写真を良いですか?」


 可愛い物好きの他校の女子生徒などの撮影会を受けた場合の、


「あっ、すみませんが、SNSへの投稿はご遠慮いただけませんか?」


 そう言って、ただでさえ、美少女過ぎて目立つ彼女がSNSで話題とならないように、女性たちにSNSへの投稿はダメだと言って、肖像権を主張して、説得するアイドルのマネージャーみたいな仕事や、


「若いからって、そんな格好で歩くな!」


 紫音に対して、不快感を持つ中年男性への不快にさせた際の謝罪と罵倒される事の愚痴を代わりに引き受ける仕事などがあった。


(紫音さんの護衛って、わりと大変かも…。)


「紫音さんって、男性からの人気がまったくありませんね…。好意的に寄ってくるのはすべて女性ですし…。なんででしょうか?」


 紫音は女性人気が圧倒的なのに、男性からの不人気がスゴい。特に中年男性のほとんどは紫音の事をあからさまに敵視していた。


(こんな、美少女で可愛いのに、狐耳と尻尾があるだけであんなに不快感を出さなくても良いのに…。可哀想だよ。)


 僕は本物の狐耳を持つ彼女が、男性から人間の女性とは見られずに、化け物みたいな差別を受けてしまう事に納得出来なかった。


「私は女性人気が高過ぎるから、男の人がその人気に嫉妬しているんだよ。特に中年男性にもなると若い女性からはモテなくなっちゃうでしょ?交際中の男女や夫婦が私を見かけて、女性の方が私の撮影とか、愛でたりしてるのを見た時の男性の気持ちが分かる?分かりやすく言うと…、


 例えば、麻友が優樹くんをそっちのけで神里先生とベタベタ引っ付いていたら、君は神里先生に腹が立たないかな?」


 紫音が、僕と麻友を例に挙げて、男性不人気の深層心理を語ると、


「ん~、確かに神里先生に腹を立てます。紫音さんって恋人がいるのに、麻友さんとベタベタするなんて、神里先生は最低な人だと思っちゃいます。」


 僕が素直にそう答えると、


「私は普通の女性じゃないから、特にそう言う心理が強く働くの。自分の彼女や妻がイケメンのアイドルと目の前で楽しそうにしてたら、絶対、対象の相手に良い思いや良い印象は持たないでしょ?そう言う事なのよ、分かった?」


 彼女が男性不人気の理由を分かりやすく説明してくれた。でも…


「紫音さんは男性じゃないですよ?狐耳や尻尾があっても、可愛い女性じゃないですか。なのに…何故、敵視をされないといけないんでしょうか?」


 仮に紫音をコスプレイヤーとして見たとしても、男性不人気の謎が解けないため、話に食い下がっていると、


「う~ん、じゃあ、もっと、分かりやすく言うね。おばさんが狐耳と尻尾を付けて、歩いていたら…、君はどう思う?」


 悩んだ紫音は自分をおばさんと例えて僕に問い掛けたため、


「確かにそれはあんまり良い印象は持たないです…。まあ、僕の場合はそう言う趣味の人なのかな~って感じるくらいですけど…。」


 僕も良い印象は持たないと答えたら、


「そう言う事だよ?人間は想像しているよりも、見た目より、心に囚われているって事。」


 紫音はそう結論付けたが、僕は「ん?」とさらに首を傾げてしまった。


「君はまだまだ若いって事だね、でも、そんな君だから、安心して麻友を任せられる。麻友がギャル化する前に彼女と一夜を過ごす事、それをオススメするよ…。」


 同い年の紫音は話のまとめに、百戦錬磨のベテラン女性が言いそうなセリフを吐いていた。



「あっ、紫音、こっちだよ。」


 待ち合わせ場所に行くと紫音の義理の父親が待っていて、


「お父さん、待った?あっ、初めまして、娘の紫音と申します。今から門を開くんで、階段を進んだら、振り返らないで下さいね?」


 紫音は自分の父親にではなくて、その隣にいる見えない誰かに挨拶をしたあと、門を開くなどの説明をして、紫音の義理の妹の未夢ちゃんの時みたいに自分の手を握りしめて、念じると彼女の体は光を放っていた。しばらくそれを見ていると光が消えて、紫音が僕の方を向いたあと、ゆっくりと近寄ってきて、


「じゃあ、優樹くん。私の家までの主の運搬をよろしくね…。」


 かなり疲れた表情の彼女は回復するから僕におんぶしてと要求したあと、僕の背中で眠ってしまった。


「君は…?」


 紫音がすぐに寝てしまったため、初対面の紫音の義理の父親と僕は二人きりなってしまった。


「あっ、え~と…、紫音さんの同級生で、佐藤と申します。今日は神里 麻友さんの代わりに紫音さんの護衛をしていて…。」


 僕は神里先生の兄で紫音の義理の父親に自己紹介すると、


「ああ、君が…、昨日は社長がお世話になったんだってね、ありがとう。それから紫音を運んでくれるんだね、それもありがとう。」


 彼はイケメンの神里先生の兄だけあって、そこそこカッコいいが神里先生よりもゴツい体育会系の男性っぽい人だった。


(優しそうな人…、突然、現れた僕にも何の警戒心も持っていないし…。)


 紫音を送り届ける過程で気付いた事がある。僕は彼女の大きめの胸が当たっても、恥ずかしいとか、性的な興奮をしていない事に気付いた。


(同性の同級生をおんぶしてるみたい…。麻友さんが隣で寝ている時にはあんなにドキドキしてたのに…。)


 変な感覚の僕は、隣の黙って歩く紫音の父親に、


「あの…、神里先生のお兄さんですよね。どうして、この仕事をしていらっしゃるんですか?」


 どことなく、話題を振ると、


「ああ、俺は母さんとケンカをして、神里家を出た身だからな。会社員の時も上司と揉めて辞めたし…、でも、ここに雇われて良かったよ、守りたい家族が出来たから…。」


 彼はそう言ったので、守りたい家族の相手は紫音と紫音の義理の母親の事だと思った。


「僕は紫音さんや白河さんたちがしている仕事の内容はよく分かりませんが、紫音さんが唯一無二の存在でスゴい人なのは分かります。だから…、紫音さんは僕の彼女の麻友さんと僕の二人で守って行こうと思います。」


 僕が家族になる宣言みたいな感じで彼に話すと、


「そうか、紫音の事を頼んだよ…。俺も紫音に出会って、まだ四日しか立っていないけど…、これから、彼女の事を知っていくつもりだし、この不思議な狐の少女と仲良くするために、お互いに頑張ろう。」


 彼は体育会系の男性らしく、紫音の時みたいにさりげなく仲良くなろうと努力してくれるカッコいい男性だった。

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