第6話 学校一の優等生は交際初日から同居してくる

 狐っ子の紫音の奇跡に巻き込まれた僕は、白河社長と話したあと、自分の家に帰っていた。しかし、そこには…、


「お義父様、お義母様、私の名前は神里 麻友と申します。今は神里ですが、結婚出来る年齢に達した暁には、優樹さんの妻として佐藤家に骨を埋める所存です。どうか…、末長く、よろしくお願いいたします。」


 麻友が家にやって来て、メチャクチャ重めの挨拶をしていた。


「ああ…、ヨロシクね、麻友ちゃん。」


 美人の女性が好きな父さんもさすがのカチカチ挨拶をしてくる美女に困惑気味の応対をしていた。


「あの、麻友ちゃんはこんな平凡な息子のどこを好きになったのかしら?」


 母さんはわりと冷静に馴れ初め的な事を聞き出そうとしていた。


「それはもちろん、優樹さんの子種ですかね…。私の義母、理事長にも公認して頂けるその器量、必ずや国家の中心人物になる器の子供が出来るはずです。」


 母さんの簡単な問いに、麻友はものスゴく重めの答えを用意していた。


(ああ、狐っ子の紫音さんがまともに見えてきたよ…。僕はもう、優等生恐怖症だよ。)


 学校では無口で黙々と何でもこなすクールな彼女、でも、プライベートでは…。


「ま、とにかく夕食にするわね。冷蔵庫にある物でしか作れないけれど、良いかしら?」


 重すぎる会話に母さんは追求を止めて、夕食を作ると話すと、麻友は手伝いますと伝えて、二人でキッチンへ向かってしまった。


 残った父さんと僕は、暇ではあるため、興味本意に麻友が持ってきた履歴書っぽい資料に目を通していた。


 筆記の入試試験は全体のトップで正解率は98%、当然、偏差値も学年のトップ。しかし、恵まれない環境で育ったらしく、当然だが、今の神里の母との血の繋がりは無い。妹がいるらしいが、なぜか、いると書かれているだけで、それには触れられていない。運動神経も抜群で、背が高いリーチを生かして様々な中学生記録を持つレコードホルダー。重めの性格以外は、付け入る隙の無いパーフェクトガールだ。


「優樹、この人って、本当に大丈夫か?うん、父さんはお前が良いなら反対はしないが…、美人だし。」


 美人に弱い父さんもさすがの重さに気付いているが、それを除けば、最高のお嫁さんである事に悩み出した。


「うん…、でも、子供の頃に寂しい思いをしたから、彼女はそう言う、愛に関しての思いが強すぎるだけ…だと思うんだ。それに…」


 彼女の事を語る僕は父さんに、


「彼女にも、僕にも、理解をしてくれる共通の友達が出来たから、多分、大丈夫だよ。」


 僕は父さんにそう告げて、安心させると、


「そうか…、なら、良い。優樹、暇なら部屋に戻って、彼女の私物を片付けてあげるといいぞ。」


 父さんは納得したあと、僕の部屋にある彼女の私物を片付けろと言ってきた。


(はい?僕の部屋にある麻友さんの私物って何?)


「ちょっと、待って!麻友さんの私物って、何の話?」


 僕が慌てて、父さんに聞き返すと、


「決まってるだろ?麻友さんは今日から、お前の部屋で一緒に過ごすって言ってて、麻友さんと引っ越し業者がお前の部屋にダンボールの荷物を搬入していたぞ?」


 父さんから聞かされたのは、耳を疑う内容だった。それを確認するために自分の部屋に戻ると…、女性物の制服が壁に掛かっていたり、ベットの枕が増えてたり、学習机には、橘 紫音の手引き書なる変な物が置かれていた。かなり怖いがその手引き書を手に取って、中を開くと…、橘 紫音の情報が詳細に書かれていた。


「なるほど…、この情報があったから、紫音さんとは初対面なのに、家族構成や家を知っていたり、お互いの事を深く知っている主従関係の契約を結んでいたんだ…。」


 僕は出会って初日から紫音と麻友が互いに深い友情関係を結んでいた、そのからくりを知ることが出来た。


(って、事は紫音さんの所には、麻友さんの手引き書があるんだね。)


 麻友の事は明日に紫音から手引き書を見せてもらう事で、僕はミステリアスな彼女の事を理解してやっていけると少し安堵した。せっかくだから、もっと紫音さんの事も知っておこうと、手引き書の続きを読もうとしていたら、


「優樹さんは兄妹物の性的な思考をお持ちなのですね…。」


 突然、現れた麻友が背後に立っていて、性的な思考の話をしてきたので、


「えっ?何の話?」


 僕が部屋に入ってきた彼女へ聞き返すと、


「はい…、パソコンの検索履歴に恋愛小説を読んでいる形跡がありましたので、確認した所、一人っ子の自分の元に義理の妹がやって来て、その妹に恋愛感情を持ってしまうラブストーリーでした…。だから、見た目がロリ巨乳の紫音様の事を気になっていたんですね?」


 彼女は部屋にあるパソコンの検索歴を調べてて、自分の主の紫音をロリ巨乳扱いしたあと、


「紫音様の中身は姉御キャラですよ?でも、それに気付いて、頼りない私を選んでくれたんですね…。」


 そう言うと彼女は僕に抱き付いて来て、甘えてきた。


(確かに、紫音さんは見た目だけは子供っぽいが中身は芯の強い大人だった。とても同い年には思えないし、やってる事はメチャクチャだけど、昏睡状態の未夢ちゃんを助けるために適切な判断を下していた。


 そう言えば、不登校で昨日までは学校へ来ていないのに、初対面のはずの重い麻友さんの事もしっかりと理解してる感じだったし…いくら、手引き書があったとしても、普通は出来ない立派な芸当だと思う。)


 不思議な狐っ子美少女紫音のスゴさに気付いた事で、好きな気持ちが麻友から彼女に移りそうになった僕へ、


「浮気はダメですよ?紫音様も優樹さんも…どうなるかは分かりますよね?優樹さんは私と一緒にいれば、体は温かいままで、冷たくならずに済みますから…。」


 彼女は微笑みながら、メチャクチャ怖い事を言っていた。


(君と別れるって言ったら、僕の体が冷たくなるの?)


 別れる=死を匂わせる彼女に、かなり重い女性に好かれてしまった事を確信した僕は、


「麻友さんは自宅に帰らなくて良いんですか?ほら、年頃の娘だから、親も心配なされませんか?」


 どことなく、家に帰るように促してみると、


「神里のお義母さまはお忙しい方ですし、私の荷物はすべてこの家に搬入済みですので、ご心配をいただかなくても、問題はありません。私の生活費はすでに優樹さんのお父様にお渡ししましたので、居候ですが、タダで過ごそうなどと言う、虫の良い話は致しませんので、ご安心ください。」


 彼女はそう言ったあと、


「引き続きお母様の手伝いがありますので、今は失礼致しますが、これ以上、紫音様の個人情報を観覧いただくのはご遠慮頂けませんか?」


 と僕に告げて、紫音の手引き書を自分のカバンの中に閉まってしまった。


(麻友さんは紫音さんの手引き書をわざと僕の机に置いていたんだね…。)


「もちろん、僕は麻友さんにしか、興味が無いからね。」


 僕は彼女の策略にハマり、このセリフを言わざる得ない状態に追い込まれてしまった。


「嬉しいです。これからは優樹さんのために、頑張りますね。」


 僕に必要とされていると感じた彼女は上機嫌で、部屋を出ていった。


(うん、明日は絶対、紫音さんに今後の事を相談しよう…。)

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