第5話 狐っ子美少女が見せる奇跡

 狐っ子美少女の紫音が住む家の住人は変わった仕事をしていて、紫音の義理の母親は僕の彼女の麻友と一緒で少し行動が過激な女性だった。何故、紫音の母親の未央が心配性の過激派になったのかは、過去に起こった実の娘の交通事故に原因があった事を紫音から聞かされた。


「それはきっと、トラウマって奴なんだね…。」


 ある朝、見送った夫と娘が交通事故に遭い、夫はその日のうちに亡くなり、娘は命は取り止めたが昏睡状態で未だに目を覚まさない。残された妻、女性はどんな気持ちになるんだろうか…。僕には考えも付かなかった。


「その日から、未央お母さんは失意のドン底に落ちて、懸命に娘の看病をしてたらしいが、遂に壊れたらしいの…。偶然に道で出会った、年の近い不登校中で家にも帰らなかった私を本当の娘と思い込んで、勝手に連れ帰ったらしいの。」


 紫音は義理の母親の隠された過去を僕に話したあと、


「それでね、たまたま、求人の募集を見て家に来たお父さんを初日から口説いた未央お母さんはその日の夜に大人の関係を持って、今に至るの…。それはつい、二日前の話だけどね。」


 どうやら紫音の義理の父親は二日前から中途採用した社員の男性らしく、それがたまたま、神里先生のお兄さんだったそうだ。


(美人で愛が重い妻と狐っ子美少女の娘が付いてくる…。就職採用が本当にこの世にあるの?)


 変な採用のオプションがある事に驚きを隠せない僕だったが、


「それで、一度は紫音さんの中では義理の妹に当たる未夢って子に会いたいんだね…。」


 彼女の麻友の代わりに紫音の護衛を務める僕が、彼女の家庭環境についての話を聞いていると、


「それもある…でも、一度、試したい事があるの。それを成功させるにはきっと、優樹くんの力が必要なの。」


 紫音は何かを試すと話したあと、成功するには僕の力が必要だと話した。


「僕の?紫音さんは何をしようとしているの?」


 そう尋ねたが「まだ秘密…」と言って、詳しくは教えてくれなかった。



「なんや、自分らも来たんかいな。ちゃんと家の施錠してくれたん?」


 あの家の家主で変な仕事の社長の白河さんは僕らを見て、そう呟いたが、


「いや、ありがとな。未央は記憶に消したいんか、ここへは寄り付かへんようになってしもうたし、自分らみたいな年の近い子らが来てくれたら、目覚まさへんけど、未夢も喜んでくれてると思うわ。」


 そう言うと、白河社長は未夢がいる部屋に案内された。


「事故におうてからはずっと昏睡状態やから、適切な治療をしても、恐らくはあと一ヶ月ぐらいしか持たんらしいんや…。悔しいけどな、ワシじゃあ、どないする事も出来へんねん…。」


 白河社長は少しやつれた声でそう話すと、


「ちょっと外の空気に当たって来るし、ワシが戻ってきたら、三人で帰ろか。」


 と僕たちに伝えたあと、部屋を出ていった。すると、


「さあ、優樹くん。奇跡を起こそう!」


 紫音はそう宣言すると、多分、無菌状態をなるべく保たないとイケナイはずの部屋で手袋を外したあと、僕の手袋まで外してきて、今から、上半身を脱いで裸になれと指示をしてきた。


「今から私の全部の力を解放するから、優樹くんは後ろから、私を抱き締めて力を分けてくれない?」


 奇跡を起こす方法を説明した紫音は大胆に上着を全部脱いで下着姿になってしまった。


(突然、脱いじゃったよ!うわ!)


「しっ、紫音さん!なんで上半身を脱ぐんですか!」


 紫音さんの下着姿を見た僕は、自分の方が恥ずかしくて目を閉じると、


「奇跡を起こすの!優樹!黙って私に従わないと、この事を麻友に報告するわよ!奇跡を起こさず、麻友に殺されるか、私にあなたの力を分け与えて、奇跡を起こすか、どっち!


 分かったなら、お腹で構わないから、私を後ろから抱き締めて!力を貸してよ!」


 紫音がマジで何かをする気だと感じた僕は彼女の指示通り上半身を脱いで、裸になったあと、彼女の腰を羽交い締めするように思いっきり抱き締めた。


「結構、大胆ね。さすがは麻友が選んだ男。本気でやるよ!」


 僕が紫音の体へ念じるように抱き締めると、紫音の狐の尻尾が突然、複数本に増えていき、いつもより大きくなった狐の耳とフサフサな九本の尻尾をなびかせた紫音が目の前にいた。


「力を分けてくれて、ありがと、優樹くん。これで未夢を助けられるわ。」


 紫音は僕にお礼を言うと、昏睡状態の未夢に触れて、何かを注ぎ込むような感じで念じていると、眠っている未夢の体が光り始めて、紫音は力を使い果たしたのか、彼女の尻尾はいつも通りの一本の尻尾に戻っていた。やがて、未夢の光っていた体も元の状態に戻り、しばらくして…、未夢が本当に目を覚ました。


「しっ、紫音さん!未夢ちゃんが目を覚ましたよ!やりましたよ!」


 僕が紫音に声を掛けたが、力を使い果たした彼女はすでに倒れ込むようにベット脇で眠っていた。


「紫音さん!大丈夫ですか!はっ!」


(ヤバい、こんな状態を誰かに見られたら、僕が紫音さんの上半身を脱がして、僕自身も上半身の裸の変態になってしまう…。)


 僕のヤバい予想は的中して、


「自分と紫音は…、なんで裸なん?」


 戻って来た、白河社長に半裸の僕と上半身下着姿の状態の紫音を見られてしまった。


「いえ!そんな事よりも、未夢ちゃんが目を覚ましました!担当医の人を呼んでください!」


 そう言って、目を覚ました未夢の方へ白河社長の目線を向けさせると、


「ホンマや…、先生~!先生!」


 パニクった白河社長は走って、ナースステーションに向かって行った。


(今のウチに…。)


 僕は誰かが来る前に、急いで紫音に服を着せたあと、自分の制服を慌てて着ていた。



「ホンマにあの時は目が点になったで~、病室に戻ったら、二人とも上半身裸で、紫音ちゃんは気い失っとるんやもん。病室でそう言う事をしたいタイプの新手の変質者か!と思たわ。あっはっはっ!」


 紫音の家に戻って、紫音を部屋で寝かせた僕は白河社長の部屋に行き、紫音が起こした奇跡について、見た限りの事を伝えたのだが…。


「へぇ~、上半身裸の二人…ね。」


 僕が家に帰って来ない事を知り、心配になった麻友が紫音の家に来ていて、何があったのかを聞いていた。


(麻友さん…メチャクチャ、怒っています?)


 麻友は僕の顔を睨み付けたあと、


「まあ、一人の少女の命、紫音様の妹の命を救ったのなら、多めに見ましょう。ですが!その手法を取るなら、紫音様の手を握るだけでも十分出来たはずです。脱ぐ必要は無いと思われますが…、どうでしょうか?優樹さん。」


 麻友は僕のこう言う、超能力的な力への知識の無さを指摘して、


「まあ、夜は長いですから、手取り足取り教えて差し上げますよ…。優樹さん…。」


 麻友は不気味に微笑みながら、絡みつくように僕の体へ触れてきた。


(あの…、僕は取り返しのつかないような女性を彼女していませんか?)

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