第3話 思わぬ形で彼女ができた僕

 狐っ子の紫音は少しエッチな女子のようだ。友達になろうと言ったあと、僕にキスをしようとしたり、英語教師で親が勝手に決めた神里先生が自分を襲う事を心待ちにしている子だ。紫音は不逞行為に走ったと言う理由で、同じクラスの麻友に罰を与えられたが、懲りていない様子で、ご機嫌な感じで教室へ戻って行ったので、見とれていた僕も教室に入ろうとした時にある女子生徒に阻止された。


「あんた…あんな女狐と一緒に居て、何を企んでるの?」


 そう言って、僕に絡んで来たのは、神里理事長の孫で同じクラスの神里 小鈴だった。


「えっと、紫音さんが友達になろうと言われて…。」


 問い詰められたため、正直に答えると、


「あんなのに関わったらロクな人生を送らないわよ。そんなに寂しいなら、あたしが話し相手になってあげるから、距離を取りなさい。」


 彼女はお嬢様らしく、命令口調で紫音とは関わるなと言ってくる。こんなに女子から迫られる事を経験していない僕が対応に困っていると、


「小鈴、いくらボッチで寂しいからって、私の優樹くんに変な事を吹き込まないでくれないかな?」


 紫音が戻ってきて、小鈴にクレームを入れた結果、


「あんたに名前で呼ばれるなんて、不快なんだけど?何?この耳は!」


 小鈴が紫音の耳を引っ張って、僕の前で二人がケンカを始めてしまった。


「二人とも止めなよ。神里さん、紫音さんが痛そうだから、引っ張るのを止めてよ。」


 二人のケンカは小鈴が一方的に攻撃をする形となったが、こうなるとやっぱり…、


「小鈴様、我が主への暴力行為は許しませんよ?」


 小鈴の手を掴んだ麻友が背の高さを利用して、後ろから抱え込むと、腰を締め上げ、行動不能にして、そのままダウンさせた。


「麻友さん?神里さんが気絶してません?」


 僕は動かなくなった小鈴の意識が無い事を話すと、


「う~ん、この程度でヤられるなんて、神里家の人間としては、だらしないですね。仕方がありません…、佐藤くん、一緒に付いてきてもらえますか?」


 麻友はそう言って、僕の背中に小鈴をおんぶさせる形で、保健室へ連れて行く事になった。保健室に着くと彼女が倒れた理由を聞かれたため、麻友は、


「転んだ時に腰を圧迫されて、一時的に体内の酸素濃度が低下したんだと思います。まあ、神里家の人間は丈夫だから、すぐに回復すると思いますし、最悪、原因を作った橘さんに頼めば、飛躍的に体内の自己治癒力を高める事が出来ますので、そうなさってください。」


 麻友は専門用語を話して、常駐している保険医に報告すると、「分かりました、麻友」と彼女の言う事を普通に聞いていた。



「あの~、麻友さんは何者で、保険医の先生とはどういう関係なんですか?」


 保健室を出た僕たちは、二人の女子生徒を力で屈服させて、医療の知識を持つ彼女に何者なのかを聞くと、


「う~ん、佐藤くんがいると、紫音様が落ち着いた学校生活を送れませんね~。どうしましょう…。」


 麻友は僕の話をまったく聞いておらず、二人のケンカの原因が僕みたいな言い方をして、


「では、こうしましょう。佐藤くんと私が男女の交際をする形で、紫音様の世話係を二人で行うと言う事にしましょう…。先程、佐藤くんは私に興味があるとおっしゃいましたし、これであなたを巡っての争い事は無くなりますし、一番良い解決方法です。」


 彼女は僕の話を聞かずに勝手に決めようとしていたので、


「あの、出来れば…僕の気持ちを聞いて欲しいのですが…。」


 そう言って、話を聞いて欲しいと告げると、


「はい?もしかして、断られるのですか?佐藤くんの方から好意の意思を伝えて来たのに、私が好意の気持ちを表すと拒絶するなんて、さすがに私も傷付きます…。」


 彼女は周囲に聞こえるような声でそう語り出すと、僕は断れない状況になり、さっきのパワーを見せられた事もあった結果、


「はい、麻友さんを彼女にしたいです。麻友さんが守っている紫音さんを一緒に守って、あなたを手伝いたいです。」


 そう言って、告白っぽい事を言うと、


「ありがとうございます。では、お義母さまの所へ参りましょう。」


 彼女は僕の気持ちを聞くとすぐに理事長が執務を行っている所へ行き、部屋に入って行った。


「お義母さま。私の交際相手でクラスメイトの佐藤 優樹くんです。これからは二人で紫音様を支える所存ですので、よろしくお願いいたします。」


 空気同然の僕は彼女に従う形のまま、挨拶を済ませると、理事長はパソコンで僕の生徒データを確認して、「なるほど…」と呟いて、


「麻友をよろしくね、佐藤くん。君なら麻友の相手として相応しいし、大賛成だわ。」


 さほど優秀な成績でも無いのに、相応しいと言った意味は分からないが、交際を認めてもらった。あまりの展開に疲れは溜まっていたが、教室に戻ると、麻友が紫音に僕と付き合う事を話すと、


「良かった~、麻友、優樹くん。私は麻友には幸せになって欲しいもん。」


 想像以上に喜んでくれていた。


(尻尾が動いているって事は、紫音さんはかなり嬉しいって事だよね…。)


「というわけで、紫音様。主と言えど、従者の伴侶に手出しするのも、からかうのもお止めくださいね。」


 麻友は紫音に手を出すなと釘を刺したら「分かってるよ~」と彼女は笑顔で答えていた。


「では、夜に優樹さんのご自宅へ挨拶に伺いますので、ご両親への連絡をしていただけますか?私は色々と準備がありますので…、早速で申し訳ありませんが、放課後は紫音様の護衛を頼めますか?」


 麻友は色々と話を次々と決めて行くのだが、こちらが難色を示すと、強硬策を取るため、しばらくは彼女を知るために黙って従ってみる事にした。


(さっきのように、周りを巻き込んでしまうと、怖いし、いきなり、ウチの両親に挨拶をして来ようとするのは、ちょっと重いけど…。)

 

 まだ、よく分からない麻友を理解する意味でも、紫音の事も知ろうと感じた僕は、


「分かったよ、麻友さん。紫音さんを自宅へ届ければ良いんだね。」


 軽く承諾すると、


「理解の良い伴侶を持つ私は幸せ者です。」


 と微笑んでくれたあと、自分の机に戻り、朝から行っている作業を始めていた。


(なんか…、麻友さんって、紫音さんのために一生懸命な所がスゴく可愛いな。)


 僕は彼女の隠れた努力をする姿を見て、少し変わっているが、とても素敵な彼女ができた事に喜んでいた。

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