戸上梨央との物語
@Mikazukitou
第1話
学校からの帰宅途中、僕は女性の背中を追いかけていた。
「まって!」
僕はそう言って彼女の腕を強く引っ張った。
彼女の綺麗な髪のその隙間からその透き通るような瞳が顔をのぞかせる。
その時から僕の中の止まっていた時が動き出した。
そんな気がした。
まって!
その言葉を聞いたからなのか、腕を引っ張られたからなのか、それとも両方かは定かではなかいが彼女は驚いていた。
「あ、ひさし、ぶりだね」
僕は勇気を振り絞ってその言葉を口にした。
その言葉を聞いたからか彼女が口を開いた。
てっきり僕は彼女の口からは何か期待していた言葉がくるものだと思っていたが予想は外れた。
「離して、私今急いでるの」
よく考えれば当たり前の反応ではあった。
しかし僕は彼女に対して当たり前とは違う関係だと思ったからすごく傷ついたのだ。
「あ、ごめんね」
彼女は僕を横目で見るとすぐに駆け出した。
せっかくまた会えたのに僕は彼女とまた会えなくなることだけは絶対に嫌だった。
だから追いかけた。
彼女は運動神経も良く足が速い。
とても追いつかない、だから探すしかない。
一体どこに行ったのか見当がつかない。
彼女にはいつも振り回されてばかりだったから懐かしい気持ちになる。
どこにいるのだろうかと僕ただただあてもなく走り回った。
気づけば僕は隣町まで探していた。
僕は運がよかった。
そこでようやく彼女を見つけた。
彼女はまだ幼稚園生くらいの男の子に向かって何か話していた。
「ねえ、ぼうや。そこにある私の眼鏡拾ってくれない。私足が悪くて」
「うん、いいよ」
街の中の公園の入り口で遊んでいた少年を自身の座っているベンチにまで呼んで彼女は横に座らせた。
「ありがとう、お礼に饅頭あげるわ」
「チョコレートの方がいいなぁ」
「ごめんね、チョコレートは持ってないの。饅頭とモナカにキャラメルならあるわ」
「なんでそんなチョイスなんだよ」
少年は文句を言いながらキャラメルを舐めた。
すると少年が遊んでた入り口にトラックが突っ込んできて凄い音を響かせた。
少年はすごくびっくりしていた。
「お姉ちゃん?」
「びっくりしたでしょう。ここは危ないからほら離れていなさい」
「う、うん」
「いい子ね」
そのあと彼女はその子と別れた後歩き出した。
話しかけるタイミングを見失った。
しばらく追いかけると駅に着く。
彼女は違う街からわざわざこの街に来ていたみたいだ。
僕は彼女をこのまま帰らせたら2度と会えないような気がした。
だから急いで追いついてつい腕を引っ張ってしまったんだ。
腕を引っ張った僕に対して彼女は驚いたような表情を一瞬見せたがすぐに冷たい仮面を被る。
「またあなた、離してくれない?」
彼女の少し冷たい声が僕の肌を掠める。
「あ、ごめん」
僕は普段かなり落ち着いている方だと思うけれどどうも彼女のことになると調子が出ない。
ごめん、そう心の中でもう一度呟いた。
「で、何かよう?」
「あ、僕だけど覚えてない?」
ナンパのような台詞だが今の僕はとりあえずこのセリフで確かめたかったのだ。
「さっきも腕を引っ張られたわ」
「そうだけどそうじゃなくて、小さいころあったことない」
「知らないわ」
すぐに返されたこの言葉が僕の内側を刺激する。
痛いと思ったのは久しぶりだった。
「そうだよね、三橋純って名前」
「やっぱり知らないわ。きっと人違いじゃない?」
「じゃあ君が気になるからまた会いたいんだ」
「好きにしなさい、離してもらえる?」
「あ、ごめん」
彼女は僕のつかんでいた裾を少しはらう。
そして彼女は踵を返してその場を後にした。
僕にはわかる。
彼女は僕の知っている戸上梨央だ。
彼女のバックに浮いていたのは昔僕があげたものだと思ったからだ。
久しぶり、梨央ちゃん。
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