第5話

コトちゃん、ただいま

今タカハシのとこから帰ってきたよ


朝帰りでごめんね

寂しかった?

ふふふ

ずっと寝てたよね


コトちゃんも

ゆうべどうなったか気になるでしょ

最初から話すから聞いてね


昨日、タカハシんち、お昼に行く予定だったんだけどさ

仕事が終わらないって連絡あって

結局、夜になっちゃったじゃない


あたしがワンピ着て出かけた時、コトちゃん寝てたから

行ってきますって言ったの聞いてなかったでしょ


夜にコンビニで待ち合わせしたのね

で、お菓子とか、飲み物買って行ったの


タカハシが、仕事終わりだからビール買うって言ったから

あたしも、桃とかみかんの

ちょっとかわいいお酒買って行ったんだよ


この時は、これがアルコール度数高いの知らなかったんだよね


それでね、一緒にゲームしたの

懐かしいやつとかやった

楽しかったよ


最初はゲームどころじゃなくてさ

もう、すっごい緊張してたし

どこでエッチの話しを切り出そうかとか

もう、頭の中、エッチのことでいっぱい


高校生の男の子かっていうくらい

笑っちゃうけど、ゆうべはほんとにそんなかんじ


でね、ゲームした後に、お菓子食べて、お酒飲んで

小学校の時の話しとか、高校の時の話しとかしたんだ


あたし、おばあちゃんと二人暮らしだったせいか

なんか、騒がしいのが苦手で、学校も苦手でさ

だから友達もできなかったし

男の子から話しかけられるのも怖かった

だから、ずっと学校でも一人で絵を描いてる子だったの


タカハシは小学校の頃から静かな子だったから

たまにしゃべったりしたんだ


高校入って、同じクラスにタカハシいたから

知ってる人がいて、ちょっとほっとしたのね

そしたら、タカハシがクラスの男の子たちとしゃべってて

こっち見て

「あいつ、座敷童みたいだな」

って、言ったのが聞こえたの


もう、ショックでさ

あたし、妖怪?妖怪なの?って

そんなに気味が悪いってこと?って


あれでプチ登校拒否になっちゃった

しばらく学校休んだんだよね


タカハシ、覚えてるかなって思って

お酒飲んだ勢いもあって、覚えてる?って

聞いてみたんだ


そしたら、覚えてた

言った時に、あたしが目をまん丸にして自分の方見たから

あ、聞かれた、やべって思ったって


でも、あたしが黒髪ストレートでさ

色が白くて、人形みたいにかわいいから

そう言っちゃたんだって、しれって言うから

びっくりしちゃったよ


あんた、男子から人気高かったよって

嘘みたいなこと言われた


絶対、嘘、絶対そんなことないって言ったら

だって、よく男子に告られてたでしょって


確かに、全然知らない男の人から声かけられたり

学校祭のミスコン的なものに出させられそうになったけど


あれって全部、ドッキリ的なもんか

罰ゲーム的なものに利用されてるかだと思ってたから

関わらないように走って逃げてたもんね


高1の学校祭の人気投票とかで、

3位です、なんて言われた時は

でた、嫌がらせだ

ちょっとでも喜んだら、ばーか嘘に決まってんだろ

って言われるに違いないって

泣きながら家に帰って

あの後も、一週間くらい学校休んだんだよね


休み明けの学校は

触らぬ神に祟りなしってかんじで

さらに誰も近寄らなくなってさ

って言ったら、タカハシ

あいつはガラスのハートだから、そっとしておこうって

男の間でなったんだよって


抜け駆け禁止って意味もあったけど

まぁ、ちょっと不思議ちゃん扱いはあったかもしれないけど、

そこも人気だったって笑ってた


すごくない

妖怪扱いされてるとずっと思ってたのに

ガラスハートのちょっと痛い和風美少女に大出世だよ


もし本当にそうだってわかってたら、もっと楽しい高校生活だったかな

恋愛のひとつや二つしてて


人生経験が豊富になって、もっといい漫画描けてたかな


でも、きっとその当時に、人気があるよって言われても

信じられなかったよね


タカハシが今言うから信じられるだけで

あの頃に誰に言われても信じなかったよね

きっと


でね、座敷童って言ったの

ずっと謝りたかったけど

そのまま機会を逃して


大人になって、コンビニで会うたびに

言わなきゃって思ってたけど言えなくて

やっと今日言えた、って笑ってた


15年ごしの謝罪だよ

あたしも覚えてたけど

タカハシも覚えててなんかうれしかった

それに、高校の時に実はちょっと可愛い子だったなんてね


でね、タカハシに言われたんだけど

俺の記憶では、小学校の頃からずっと可愛い子って言われてきたのに

なんで、いつもそれを認めなかったのって

人に対してシャッター下ろしてたって


お酒の勢いもあったし

タカハシになら言ってもいいかなって思って

今まで誰にも言えなかったこと

言葉にして言ってみたんだ


あたしのお父さんとお母さん

あたしが小学校に入る前に事故で死んじゃって

あたし、おばあちゃんに引き取られたのね


コトちゃんがおうちに来るずっと前だから知らないよね


あたし、お父さんとお母さんに

すっごい甘やかされて育ったみたいでさ

ぼんやり覚えてるけど

たしかに、あたし

すっごいわがままで生意気な子だったの


大人になってから

おばあちゃんに聞いたんだけどさ

ここに引き取られた時には

近所の友達のことを、貧乏だってバカにしたり

ブスだって言ったり

気も強くて、しょちゅう友達泣かせてたって


うん、あたしも自分で信じらんないけど

そうなんだって

でも、ちょっとだけ

そんな子だった記憶はあるの


でね、両親から褒められて甘やかされて育ってるから

自分のこと美人だって鼻にかけてたんだって


自分で自分のことかわいいとか言って、思いあがってるの見て

おばあちゃんが、この子、ロクな子にならないって心配して

「おまえは決して美人じゃない」

って言い聞かせて

顔立ちが古臭い、とか

眉毛が太すぎる、とか

色が白すぎてお化けみたい、とか

いろいろ言ったんだって


あたしに美人じゃないって言っても

言い返してくるから

仕方なくそういうこと言ったけど

でも、あんな言い方はするべきじゃなかったって

もうちょっと大きくなった時に謝られたの


おばあちゃんに顔をディスられたのって

ほんの一瞬だったと思うんだけど

やっぱり、それって、すっごいショックで

それから、あたしってかわいくなかったんだ、

ブスだったんだって思い込んでさ


おばあちゃん、あたしが急に

なんかすっごくおとなしくて

なんなら暗い子になっちゃったから

言い過ぎたと思って

あれは、言っただけだよ

本当はかわいいよって言ってくれたんだけど

もう、その時には、

顔がすっごいコンプレックスになってた


中学になる頃には、

たしかに顔立ち、古すぎる

呪い系の日本人形っぽいって

自分で思ってたの


で、おうちに引きこもって漫画ばっかり読んでて

そのうち、漫画描くようになって

人生経験が乏しいって言われる漫画オタクの出来上がりだよ


笑っちゃうよね

おばあちゃんにも心配かけたし

何度も謝らせちゃって

もっと早くこんな子供じみたことから

卒業しなくちゃいけなかかったのに


物語を作って、漫画描いて食べて行こうってっ思ったんなら

自分と向き合ったりしなくちゃいけなかったのに、逃げてた


そんなこと、タカハシに話したりしてたの

お酒飲んだり、アイス食べたり、グミ食べたりしながらね


タカハシは黙ってあたしの話しを聞いてくれたよ


でも、おばあちゃんのこと責めてなくてえらいねって

言ってくれたの


そしてね、コトちゃん 

そんな真面目な話しもしつつですね


ずっと緊張してたし

なんか、妖怪って思われてたんだじゃなかったんだって

喜んじゃったのもあるし

お酒どんどん飲んじゃったら、もう酔っぱらっちゃって


タカハシが、それ全部、けっこう強いお酒だよってびっくりしてた

飲ませすぎちゃったって、オロオロしてたよ


あたしの中で、酔っぱらちゃったからいいか

みたいなのがあって

タカハシにドストレートに

エッチなことがしてみたいって言ったのよ


あぁ、思い出しても顔から火が出そう


編集さんから人生経験が足りないって言われてる、とか

大人の恋愛を描いてみるように勧められてる、とか言いながら

ケラケラ笑ったり泣いたり

もう完全に酔っ払い


思い出してきた・・・


ねぇ、あたし、本当にかわいい?とか言いながら

タカハシを押し倒したんだわ


あたしだって、経験しようと思ったらできるんだから

みたいなこと言わなかったかな


恥ずかしい・・・

で、どうなったんだっけ


あ、話がつながってきた


あたしがタカハシを押し倒したら

ちょっと待って、って言われたんだ


待てって言われたから、あたし大泣きしたのよ

こんな素敵な下着を着て来たのにって

ワンピ脱ごうとして

ボタンもうまく外せなくて

わーーーんって泣いちゃった

あたしとじゃ出来ないっていうの、とか、なんとか


で、タカハシが謝ってたんだ

なんだっけ

ゲームは口実で、猫カフェも口実で

学生の時から気になってたから

一回ゆっくり会ってみたいって思って誘ったんだって


お酒飲んだ勢いでやっちゃったら後悔するよ

絶対、飲んでない時がいいよって言ってて


でも、あたし、断られたことがショックで

まだ、わーわー泣いて

あぁ、ホントに恥ずかしい


大声で泣いたらもっとお酒が回って、そこから記憶ない・・・


起きたら朝で、ベッドで寝てた

ワンピ、半分着てた

タカハシは上半身裸だった

下は、わかんない

見てない


で、腕枕されてた


びっくりして飛び起きたら

タカハシがおはようって言ったの


ゆうべは楽しかったねって

シャワー使う?って聞かれたから、使わせてもらった


どんどん記憶がよみがえってきて

もう恥ずかしくて、帰りたいような

でも、もっと一緒にいたいような

複雑な気持ちだったよ


そんで、その時は思い出せてなくて

初体験したのかしてないのか・・・


どこも何ともないし


でもタカハシに

ゆうべはしましたか?とか

聞くわけにもいかないじゃない

でも、聞かないとわかんないし


だいたい、記憶にない時点で、大人の経験になんないし

漫画に活かせないじゃない

何やってんの、あたしってかんじ


考えてたら、二日酔いだし頭痛かった

熱いシャワーあびたら、ちょっとすっきりした


シャワーから出たらタカハシいなくて、

あたし、プチパニックになっちゃったの


やっぱり、あたしが泊ったの、嫌だったから出ていっちゃんだ

とか

いない間に帰ってってことだ

とか


ゆうべは楽しかったねって言ったの、お世辞だったんだ

自分だけ楽しいって思ってたんだって思ったら

また涙がでちゃって


すぐタカハシ、帰ってきたんだけど

ごめん、すぐ帰るから

ごめんね、ずうずうしく家まで来て、しかも泊っちゃって

って言って帰ろうとしたら

パン屋さんに行ってたんだよ

ほら、テーブルにメモ置いていってるでしょって

後ろからぎゅって抱きしめられたの


中学で同じクラスだった吉本がパン屋始めたんだよ

焼きたてのパン、買ってきたよって言って

豆から挽いて、美味しいコーヒーを淹れてくれたの


なんか、女の子が喜ぶことをできる人なんだなって思って

よく家に女の人、泊めるの?

っていうか、彼女さんとかいないのって聞いてみたの


俺だって、初体験もまだの魔法使いだよって

照れくさそうに笑ってた


あ、じゃあ、ゆうべはしてないんだって

それでわかったんだよね


でも、タカハシ、ちゃんと見たら女子受けしそうだし

お部屋だってインテリアに凝ってて、女の人いつでも呼べそうって言ったら


乙女ゲー作り出してから、服とか部屋とか

攻略相手の男のマネとかしてるからっだってさ

俺のは全部ゲームからの知識だからって


だから、シャワー使う?とか言えたり

バックハグしたり出来るんだよ

実際したのは初めてだけどって


なんか、あたし、すごい幸せな気持ちになったの

コーヒーのすごくいい匂いとか

朝日がテーブルに射してるところとか

すごく素敵な朝だった


これってさ

ホルモンに支配されてるんだよね

DNAかな

30歳なんだから、はやく先祖からの遺伝子残せって

全身の細胞が言ってて

やっとそのチャンス到来ってかんじで

体中がうれしいのかも


あたし、一人っ子だしさ

おばあちゃんも一人っ子でしょ

だから、ご先祖様のDNA残せっていう命令

あたしの中により強く刷り込まれてる気がする


なんてね

ホルモンだのDNAだのって言い訳するけどさ

これが高校生とかさ、せめてハタチ頃なら

運命的にタカハシと出会って

タカハシを好きになって、とかなるけどさ


でも、タカハシは

あたしとゆっくり会ってみたかったって言ったけど

あたしを誘ったのだって

他に知ってる女の人いないからじゃないかなって

思ったりしちゃうし


コトちゃんがいたから誘われたんだろうなって思ったりするし

それを考えると、なんか落ち込んじゃいそう


あたしって、こんな人間だっけ

人間関係とか友達とか

ほんと苦手だから

人と接するのを避けてたのに


人を避けてたら、人生経験薄っぺらって言われるし

どうすれば良かったんだろう


こうやって悩むってことが

人生経験になるのかなぁ


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