第2話

 ちょっと退屈だけど、僕は毎日大学へと通っている。

 休みの日も、研究に没頭している。何か、今まで人を殴って埋めていたなにか穴のような空洞を、これで解消している。

 実際、やればやる程僕は何か、成長しているような感覚になって、周りからも喜ばれる。

 けれど、

 「先生。僕決めました。」

 「何?」

 「やっぱり、課題は宇宙人について、ということにします。」

 「…った。何言ってんだよ、困るんだよ。それじゃ大学が認めてくれないぞ?ふざけてると、平気で退学にできるんだ。大学は、そういう所なんだ。」

 「はあ。」

 「ため息つきたいのは俺の方だよ。」

 という感じで、教授とは関係がうまくいっていない。 

 でも、それもそうだ。僕はこぶしでしか人と関わったことが無かったから、同級生となら仲良くできても大人となると、何か先手を打って布石を撒いて、自分に有利に事が進むように操作したくなる。

 これももしかしたら、僕が宇宙人だからなのかもしれない。

 

 「母さん。リンゴ買ってきた。」

 「ありがとう。」

 お母さんは、あ、この人は僕の本当のお母さんなのだ。実は、たまにここにやってきて僕の様子を見ていたのだという。

 でも、知り合っていきなり病弱だなんて、つらい。

 「退院できそう?」

 「ああ、それは大丈夫。私、この星の空気が合わないみたいでね、戻ればすぐ直るって、あっちのお医者さんは言っている。でも、あなたに会うためにしばらくここにいてもいいかって聞いたら、平気だって、言われたの。」

 「そう、ならよかった。」

 「ねえそれより、論文とか進んでる?あなたが、大学を卒業したいって言ったから、まだここにいるけれど、すごく本気なのね。」

 「ああ、本気だよ。とても本気だ。」

 「そんなに楽しいの?私にはよく分からないけれど。」

 「うん、楽しいよ。」

 僕は、いつも向き合うたびに誰だかよく分からなくなるこの人を目の前に、冷や汗をかいている。

 家族がいるって分かって、僕は変わったはずなのに、まだ解せないことがある。

 僕は、だから調べているのかもしれない。

 宇宙人について、頭の中ではいつも答えを求めている。

 そうか、そうなのか。

 ふっと空を見上げる。

 はは、と口に出して笑ってみた。

 けれど、何も起こらない。

 僕は手を挙げて、顔を歪める。

 涙は出なかった、ただ、体中が震えていて、それがとても惨めだった。


 「宇宙人?」

 「私たちはそう呼ばれている。」

 「僕もそう、俺も。おれも、みんなそうなんだ。」

 「じゃあ、アタシは?」

 「…誰だお前。」

 「誰だお前。」

 「アタシ?アタシは、何なのかしら。」

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