ふふふ

@rabbit090

第1話

 声をあげた笑っていたのは、誰?

 僕は目をこすりながら思い出そうとするけれど、何も浮かばない。

 どうしよう、現実ってこんなにリアルさがないものだったっけ?

 「ヤバい。」

 ヤバい、とてもヤバいのだ。

 朝起きたら、体の感覚があまりない。

 あまりっていうか、あるのかないのかすらよく分からない。

 だが、動かしている、という重さが、どこにも存在していない。

 

 まさか、本当に死んでしまったのだろうか。

 

 「じん君、ねえ聞いて。」

 「何だよ、もったいぶんなよ。早く言え。」

 僕は後輩に慕われる先輩だった。

 なぜか、やっぱり話しやすさなのか、先輩からは可愛がられ、後輩からは好感を持って接せられ、しかし、

 「お前何してんだよ。この前のこと、忘れてないよな?」

 とまくしたてる男の存在に気付く。

 はあ、また来たか。とため息をつく。

 隣りにいる一個下の後輩は目で相槌を打って去って行った。

 「いいや、別に。分かったから、どっか別のところ行こうぜ。ここ、狭いんだよ。」

 そう言ったら、相手も頷き、僕達は人気ひとけのない場所へと移動した。

 何でこんな意味の分からないことをしているのかというと、僕は元、不良なのだ。

 不良つったってガチガチの悪、暴力に手を出し、人を半殺しにしたことがある。

 「とっとと終わらせる。」

 「ホラ吹くな。」

 だが、ことは決した。

 僕は負けない。負けるわけがない。負けるなどということは想像の範疇にもない。

 なぜなら、僕はこの星の人間ではない。

 そして、最近になり知ったのだ。

 僕に、親がいるという事実を、僕が大人になったら現れた。彼らが住む星ではそれが当たり前なのだという。

 そして、僕は変わった。

 家族ができた、たったそれだけのことで。

 あまりにもあほらしくて、周りからは相手にされないことだってあった。

 けれど、僕はすでに決めている。

 彼らと自分の星へと帰るのだ、僕はそもそもこんな星嫌だった。嫌で嫌でたまらなかった。

 道路に捨てられていた子供として、施設で育ち、弱肉強食のような人生を生きるしかなかった僕が、こう考えるのも致し方ないように思う。

 が、

 「ヤバぇ…、授業始まった。行かないと。」

 と、大学へと足を向ける。

 僕は、両親との話し合いの末、この星の大学を卒業してから故郷へと帰ることになった。

 なぜ、そんなことをしないといけないのかは、本当はよく分かっていない。

 「ピロピロピロ…。」

 「…あ、お母さん。何?」

 「うん、分かった。買っていくね、今日体調悪いんだよね、無理しないで休んで。」

 僕は、暴力に自分を売っていた時とは一転し、病弱な母を気遣う毎日を送っている。

 たまに、本当にたまにぼんやりとした瞬間に、その自分を疑ってしまうことがある。

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