第7話お子様ランチ
「実は最近思い出せそうで思い出せないことがあるんです」
「思い出せないことですか例えばどんな?」
「いつも思い出せそうでどこか記憶に靄がかかっているような何とも言えないんですけどそんな感じの」
私がここに来る前の記憶があまりないのと似てるのかな?
「それにしてもこの死後の世界で仲のいい夫婦がやってる飲食店にこれてよかったよ」
「違います私たち夫婦じゃありません!」
「おやそうなのかい?」
「正確に言うと近くもなくもないと言うか何と言うか!」
慌てすぎて言葉が出てこない。
「僕の家に嫁入りしてもらってますけどまだ結婚はしてないです」
「あーそうだったのか私から見ると中がとても良さそうだったからもう結婚してるんだと思ったんだけどね」
「まだ結婚の予定はないですけどしばらくの間はこうやってお客さんに料理を振る舞ってお店をやっていこうかなって思ってます」
爽やかな丁寧な口調で言葉を返す。
「そうか、それじゃあこんな老人の話を聞いてくれてありがとう私はもうそろそろ行くよ」
「料金はいくらだい?」
何だろうこの感覚は胸がざわざわする!
よくわからないけどまだこの人にはやるべきことがあるような気がする!
「あの!」
私のいきなりの声を聞き2人が同時にこっちを見る。
「お客さんが今思い出せそうで思い出せない記憶を色々と探ってみませんか!」
「色々と探るってどうやって」
「あのそのうまく言えないんですけど、思い出の場所とかあればそれに近いところに行ってみたり」
「私手伝いますからとにかくいろんな場所に行ってみましょう!」
私は来ていたエプロンを脱いで力強く言葉を口にする。
「でもさすがにそこまで迷惑をかけるわけには」
「そもそも今私が自分で言い出したことなんですから迷惑だなんて思いませんよ」
「そういうことなら僕も是非手伝わせてください」
「もちろんお客様がどうしても嫌だっていうのであれば私たちはこれ以上何も言いません」
しばらく考えるような表情を浮かべた後言った。
「でも私の記憶を辿って色々と探っていくにしてもその私自身が覚えてる記憶が曖昧なところがあるので」
「そんなこと気にしなくていいです覚えてることだけでいいんで教えてください」
「私が20代ぐらいの時に電車に乗ってどっかの街に行ってましたね」
「電車に乗ってどこに行ってたのかは覚えてますか?」
「いやそこまで具体的には覚えてないです」
「ただどこかの街で色々なショッピングモールとか見て回ってたのは覚えてます」
「よしそれじゃあそこに行ってみましょう!」
「でも鼎さんこんなに曖昧な情報だけじゃ絞り込み用がないんじゃ」
「そんなこと言ってたらいつまでたっても動き出せませんよ」」
「とりあえず電車に乗ってその条件に当てはまるところに行ってみましょう」
それから3人で駅のホームに向かった。
「そもそも僕たちさっき聞いた条件に当てはまる場所すら言ったことないからまずはその情報に当てはまるところがどこかを探さなきゃいけませんね」
「それなら簡単ですよ!」
「っていうのは?」
私は胸を張って自信満々に言う。
「その条件に当てはまる場所を知っている人に聞いてみるんです」
「結局人任せにはなっちゃいますけどそっちの方が効率はいいと思うんで」
「それもそうですね」
「2人はここで待っててくださいちょっと私は駅員さんにその条件に当てはまる場所があるか聞いてくるので」
駅のホームにいるであろう駅員さんの姿を探す。
するとこの前と同じように駅員の格好した大家さんが少し遠くの方に立っている。
「ちょっとすいません」
「鼎さんどうしたのまたこんなところで」
「ちょっとお店に来てたお客さんが色々あって一緒に電車に乗って少し遠くの方まで行くことになって」
「お客さんと一緒に遠くの方まで行かなきゃいけなくなる店ってどんな店!」
「でもそのお客さんが記憶が曖昧らしくて行きたい場所がよくわからないんですよ」
「どんな感じ?」
「街の中を歩いてたっていう記憶しかないみたいで」
「せめてそこに近い場所にだけでも連れてってあげたいんです」
「そんな条件に当てはまるところいっぱいあるからわからない」
「とりあえずそこかどうかわかんないけど今から電車に乗るとその時の景色に近い街中の景色を見れるかもしれない」
「それじゃあ私は2人のところに戻って今から来る電車のこと伝えてきますね」
「気をつけて行くんだぞ」
「ありがとうございます、色々教えてくれて」
「どうでした何か条件に当てはまる場所を教えてくれたりしました?」
お客さんが少し不安そうな表情で私に尋ねてくる。
「それが条件に当てはまる場所が意外といっぱいあるみたいでどれかわからないって言ってましたけど、それでも当てはまる場所を教えてくれました」
「なので今から電車に乗ってその場所に行ってみませんか?」
「そうですね行きましょうか」
頷3人で電車に乗る。
当たり前のことかもしれないが電車の中を見渡してみると、人間だけじゃなく色々な動物やあやかしが席に座っている。
あやかしはまだしも普通の動物が当たり前のように電車の席に座っているのを見ているとなんだか不思議な感じがする。
正確に言うなら座っているのではなく体を丸めているだけだが。
電車に揺られ目的の場所にたどり着き降りる。
「さっき教えてもらった条件の場所に来てみましたけど、どうですか何か思い出しました?」
島崎が優しい口調で尋ねる。
「すいません何も思い出せません」
「大丈夫ですよ私たちはどこまでもお付き合います」
「この場所にずっと突っ立ってるだけじゃどっちにしろ何も思い出せないでしょうし少し街を歩いてみますか」
言いながら私は転ばないようにお客さんの横につく。
島崎も同じように反対の横に着く。
「何か他に昔の記憶とか覚えてます?」
「そう言われても他に覚えてることなんてあんまり…」
言いつつも奥に眠る記憶を探る。
「さくら…」
つぶやくように言葉を漏らす。
「さくら…ですか?」
「なんでかよくわからないんですけど大きな桜の木があってそれを大きな公園に見に行ったような記憶があるんです」
「その時の詳しいことはあまり覚えてないんですけど」
「この世界に桜の木ってあるんですかね?」
島崎が疑問の言葉を漏らす。
「ていうか今この世界季節で言うとどの辺りなんだろう?」
「死後の世界はなんとなく季節という概念がないような気がする」
と言葉を口にしながら思う。
とりあえず色々な人に聞いて回りながら桜の木がありそうな場所を探していった。
「今までいろんな人に聞いて集めた情報に当てはまる場所はこの公園ぐらいですけど」
私は若干疑いを含んだ口調で言いながら3人でその公園の中に入る。
するとその公園に生えている気が全て桜の木で、風で桜吹雪が舞う。
「ここだけ桜の木が咲いてる!」
私はその少し異様な光景に驚きの言葉を漏らす。
その桜の木の下に誰か1人女の人が立っている。
お客さんがその人を目で捉えると涙を流す。
「もしかして…あの人がさっき話していた奥さんですか?」
「ええ…」
言葉になっていない涙ぐんだ声で私の言葉に頷く。
ゆっくりとスピードを上げ木の下にいる女の人の元へとかけていく。
「遅いですよ」
「ああ、すまない少し遅くなってしまった」
「そうだお2人にお題を渡すのを忘れるところでした」
そう言って金貨1枚を手渡してくる。
「はいちょうどお預かりしました」
「2人とも本当にありがとう」
「お幸せに」
「お幸せに」
なぜか【死後の世界】で嫁入りすることになったが2人で『飲食店を立ち上げ死者』に暖かい料理を提供する私今自分らしくいられて楽しい!ゆるふわスローライフ カイト @478859335956288968258582555888
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