第3話迷い猫
「もうちょっと左」
「いやもうちょっと右」
「こんな感じですか?」
「はいそんな感じです」
「 そこに設置してゆっくりと降りてきてください」
「分かりました」
言ってゆっくり慎重に屋根の上から降りてくる。
「こんな感じでいいんじゃないですか」
島崎が自分で設置した看板を見ながら言う。
その設置してもらった看板には死後の世界極楽浄土飲食店と書かれている。
看板がなければ見た目アパートにしか見えないのでスルーされる可能性が高い。
そのことに今日朝ここに来た時に思い当たり大急ぎで看板を作ってもらった。
もちろん私も協力して。
「それじゃあ私は料理の下ごしらえの方をしてきますね」
「分かりました」
私は朝一番で作り始めたおでんがどうなっているのか確認するためキッチンの方に向かう。
「よしよしいい感じにできてきてる」
味が染み込んでいるのが立ち上ってくる匂いからわかる。
大家さんにもこの店をオープンするために色々協力してもらったがそもそもまだ品数が少なく色々と準備が整っていなかったので少し回転する日を伸ばした。
店の中をもっと綺麗にし飾り付けもさらに華やかにして改めてお店をオープンさせた。
提供できる品数を2人で協力し合いながら実際に作って試行錯誤をし最終的にはメニューの数は全部で10個になった。
飲み物の数を合わせるともう少し多い。
「鼎さん私に何か手伝えるようなことありますか?」
「こっちは私1人でどうにかなりそうなので呼び込み行ってきてもらっていいですか?」
「呼び込みですか?」
「はいこのお店はまだ誰も知らないので自分から宣伝して行かないと周りに認知されませんから」
「分かりましたそれじゃあ呼び込みに行ってきます」
それから30分後。
「よしこれで大体の先にやっておける準備が終わった、向こうの呼び込みの方はどうなってるのかな?」
「様子見がてら手伝いに行ってくるか」
身につけていたエプロンを脱ぎ店の外に出てどうなっているのか様子を確認する。
「どうですお客さん何人か捕まえられました?」
「すいませんまだ1人も…」
「謝らないでくださいよ私も手伝いますから」
私は笑顔で言葉を開始色々な人が行きかっている道に向かって大きな声で言う。
「ぜひぜひ美味しい家庭料理を食べに来てください!」
今度は目いっぱい酸素を灰に取り込んでから言葉を繰り返す。
「ぜひぜひ美味しい家庭料理を食
べに来てください!!!」
私がいきなり出したその大きな声に島崎が驚きの表情を浮かべる。
それからしばらく呼び込みを続けた。
「なかなかお客さん入ってきませんね」
ため息混じりの言葉を漏らす。
「でもまだお昼前ですしそんな慌てる必要もないんじゃないですか?」
「最初からそんなうまくいかないっていうのは分かってるんですけど私が建てた未来設計図だと、お客さんがバンバか入ってくるイメージだったんですけどね」
「それはそれは随分とやる気に満ち溢れた未来設計図ですね」
そんな話をしているとお店のドアについているお客さんが入ってきたことを知らせるベルが鳴る。
「いらっしゃいま…」
「いらっしゃいま…」
私たち2人が途中で言葉を止めたのは予想していたお客さんと違ったからだ。
あやかしでも人間でもない。
その扉から入ってきたのは同じ首輪をした白猫と黒猫だった。
その2匹の猫はお店の中に入ってきたと同時に力尽きたのかバタッと倒れる。
2匹の猫は怪我をしていて苦しそうだ。
急いでその猫に駆け寄る。
「島崎さん!」
「今すぐ救急箱を用意します」
猫の体を見てみると別の猫にやられてしまったのか2匹とも体にいくつか傷がある。
持ってきてもらった救急箱の中から消毒液を取り出す。
小さめのタオルに消毒液を染み込ませ傷口にそれを当てると一瞬痛そうに、にぁと声を上げたがそれは一度だけでおとなしく応急処置を受けてくれた。
「この猫にひきとも痩せ細ってませんか?」
私が見る限りだいぶ痩せ細っている。
「でも何か食べさせてあげるにしてもこの場所に猫が食べるようなものなんて置いてないしな」
「私が今から猫が食べれるものを買ってきます」
「今からですか!」
「はい、すぐに戻ってくるんでお店の方何とかお願いします」
私は急いで近くのスーパーに向かう。
「ちょっとすいませんここに猫が食べる用の餌っておいてますか?」
「よければご案内いたしますがどうしますか?」
「お願いします」
その店員に猫の餌が置いてあるコーナーまで連れて行ってもらう。
「この場所が猫の餌の商品を置いている場所になります」
「ありがとうございます」
「また何か困ったことがありましたらお呼びください」
そう言って店員は去っていく。
そのコーナーに置かれている猫缶を見て2つ選び買い物かごに入れる。
それから他に猫が食べられそうなものはないかと思い色々なコーナーを見て回る。
猫が食べる時の餌を入れるお皿がないことに気づき紙皿が置いてあるコーナーに行き紙皿をいくつかカゴの中に入れる。
「合計で金貨1枚になります」
言われた通りの金額を払う。
いきなり金貨1枚を払うことになってしまったのは痛いがしょうがない。
「とりあえず急いで店の方に戻る」
「すいませんはぁはぁ…遅くなりました」
急いで店まで走ってきて上がってしまった息を一旦整える。
「大丈夫ですかかなり息が上がってるみたいですけど」
「大丈夫です、とりあえずスーパーの店員さんに聞いて猫が食べられそうなものを一通り買ってきました!」
言いながらスーパーの袋からいくつか餌を取り出し紙皿に移す。
「ほら猫ちゃんご飯だよお腹空いてるでしょ」
優しく怖がらせないように猫撫で声で声をかけてみるが一度餌の方に目を向けてはくれたものの2匹とも顔を背けてしまう。
「ダメか…」
「それなら別の餌も買ってきたから別のやつも試してみよう」
紙袋からもう2枚紙皿を取り出し別の猫缶を開けてお皿に出してみる。
「ほらほら今度は別のご飯だよ」
さっきと同じように声をかけてみるが目を一度向けて背けるだけ。
「お腹空いてないんですかね」
「見た目こんなに痩せ細ってるのに!」
どうしたらご飯を食べてくれるかしばらく考えてみる。
さっき少しお腹鳴らしてたし絶対にお腹は空いてるはずなんだけどな。
私がさっき手当てした場所の他にも別の傷があるとか?
2匹の猫を細かくじっくりと観察してみるが特にそんなところはない。
「もしかして!」
「どうかしました鼎さん」
私は店に置いてある食器棚から2つの食器を取り出して猫の前に置く。
袋の中からさっき一緒に買ってきた牛乳を取り出しそのお皿に移す。
お皿を2匹の猫の前に差し出すと、 怖がりながらもゆっくりとお皿に近づいてくる。
恐る恐る顔を前に出してペロペロとそのお皿に入っている牛乳をなめ始める。
「よかったお腹が空いてたんじゃなくて喉が乾いてたんだね」
安堵の言葉を漏らす。
猫がお皿に入った牛乳を飲み終わるのを待っていると、2匹の体がだいぶ汚れていることに気づく。
「この猫2匹とも体がだいぶ汚れてるみたいですね」
島崎が猫と目線を合わせるようにしてしゃがみながら言う。
「この牛乳が飲み終わってしばらくゆっくりしたらシャワーに入れてあげたらいいんじゃないですか?」
「ここってお風呂とシャワーついてましたっけ?」
「ええ、 さっき餌を買いに行ってもらっている間になんとなく部屋の中を見て回ってたら奥の方にお風呂がありましたよ」
飲み終わって満足したのか2匹とも小さく鳴き声を上げる。
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