第2話「真実と邂逅」
俺が書いた異世界小説。
その内容がこうだ。
ある城下町、クリストウェルでは国王ラムセスが国を統治していた。しかし、昔ながらラムセスは勉強ができず、国の国家運営には不向きだった。そこで、参謀となるマクスウェルによる権謀術数の力を借りることにより、何とか国を統治していた。しかし、家臣、ゼイドが王の無能を勘ぐり、国の運営の実態を確信してしまった。
呆れたゼイドは王に成り代わる為、裏で何度も王の暗殺計画を企てるが——?
そしてその謀反が起こる度、何度も火消ししてきたマクスウェルだったが——?
——と、まぁ、こういった内容——
この小説を書いてる時、俺は、リアルで出来の悪い上司の尻拭いをいつもいつもやっていた。そして生意気な後輩がいて、いつも上司を小バカにしていた。いくら出来が悪いからといって、その上司を尊敬していた俺は、その後輩を厳しく戒めて、その後輩はふてくされる、という毎日だ。
ざっと紹介してきたが、先の小説と俺のリアルでの日常。
見事にリンクしている。身を削って書いている?違う。確信犯?違う。
創作的無意識だ。創作における無意識の発露により、経験により影響を受けた内面が文面に活写された、といえよう。
ここまで紹介してきた小説と現実はリンクしているといえるが「現実」を変えるための「打開策」はまだ見えない。
そうして、俺はその「打開策」がフィクションである自作の小説の中から産まれてくることを期待しながら続きを書き始めた——が、
筆が進まない——
これは「現実」で対処できる、頑張れる点がまだ残っているからまだ書けないのだ。今までの経験がそう言っている。
そして俺は(むしろ本末転倒ともいえるが…)、物語の先を書きたい、我ながら自分の指先がタイプする未知の文章が見たいが故、現実でアクションを起こすことにした。
ある日の仕事場——(レストラン)
「で、先輩の久田宮さん、そんでまたまかない作り損ねちゃたんすよ〜。笑えますよね」
俺の後輩、宇津見だ。で、久田宮というのが俺たちの先輩。例のデキない先輩だ。宇津見はいつも久田宮を小バカにしている。
いつもの俺なら、
「まぁ、あれでも一生懸命やってるんだ。多めに見ろ」
なんて割と優しめにいさめている俺だが、今日は違った。
——徹底的にやることに決めたのだ——
「おい、久田宮先輩をこき下ろすのはいい加減やめろ!」
茫然とする宇津見。
「久田宮先輩は居るだけで周りのムードを良くしてくれる愛すべきムードメーカーなんだ。変わりがいない!お前なんていくらでも変わりがいる!」
「す、すみません…。」
いつもならやらない大きなアクション。
これで創作にどう影響する?帰宅後に自分の指先に聞いてみないと分からなかった。
——そして自宅——
続きを書く———
「王は無能ではない!今まで王のおかげでいくら助けられ、勇気づけられたか!
王は存在するだけでありがたい存在なのだ。敬え!」
「む、存在そのものが奇跡だと」
「そうだ」
ゼイドはしぶしぶ納得したようだった。
こうしてクリストウェル王国は平和になりましたとさ。めでたしめでたし。
……?
って、お〜い、おい!ちょっと待て!これでは話が続かない。
トラブルメーカーがいるから物語が面白くなるんだ。それを排してしまったら面白い小説にはならない。
俺は自分に問いかけた———
「本当に必要なのは、日常の平穏か?それとも、創作の中にある絶対的真理を探し当て、「小説」とは何かを突き詰めることか?」
そして、俺は自分にもう一度問いかけた。
——そして——
創作だ——。
俺は創作に魂を売った。
つまり、日常を打開するためのヒントを探す創作から、創作のための日常を生きることに決めたのだ。
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