君がカギなんですわ!
翌日もクラッカーマンの働きは見事だった。
アトランタとの2戦目は、互いに点を奪い合うシーソーゲームになったのだが、多くの打点はブラッドリーのバットから生み出されていた。
2アウト1、2塁でのセンター前タイムリー。2打席目の犠牲フライ。4打席目には満塁から右中間を真っ二つにする走者一掃のタイムリー。
2日連続の5打点でチームを牽引。直後に同じような満塁の走者一掃ピンチをセンターのバーンズがダイビングキャッチで防いだところが勝負の分かれ目。
シャーロットが連勝を飾り単独2位へと浮上した。
その一方で…………。
「バティワン、セカンドベースマン、ザァーム!!」
このところ、少し当たりが止まっている平柳君が最近は試合によっては7番や9番に打順を下げたり、左ピッチャーが先発の日には、スタメンは外れたりすることもあった。
そして試合終盤に代打起用されたが、4打席でもヒットは出ず、シーズンも15試合を消化して、チームは9勝6敗と調子のいいミルウォーキーと1馬身差の2位。
束の間の移動日だが、平柳君はスタジアム横でちょっとバットを振りたいということなので、俺は少し付き合うことにした。
クラブハウス側の室内練習場。200メートルトラックがあるくらいの広い立派な施設だ。
「すみません、新井さん。付き合ってもらっちゃって。せっかくのオフなのに」
平柳君は2本のバットを持ちながら俺に申し訳なさそうな表情をする。
「いいって、いいって。俺たちの仲だろ。子供達は学校だし、みのりんはかずちゃん連れて美容室行ってるからね。どーせ1人で暇なのさ」
俺はそんな風に答えながらとりあえずのキャッチボールに勤しむ。
俺と平柳君以外に、いるのは平柳チームのトレーナー、野田さんだけなので、練習場は静かだ。
うちのトレーナーと通訳、そして平柳君通訳さんは3人で朝からゴルフに行っている。
それはもう楽しそうに。
いつもお世話になっている方達も、たまにしかないリフレッシュタイムですから。普段からアメリカのホール回りたいっすね~という話を良くしていたし、しっかり満喫して鋭気を養ってもらいたい。
野田さんだけは、平柳君がトレーニングするなら、ケアルしないといけないんでと、寒いことを言っていたのでここに来ていた。
平柳君は、野田さんも休んでいいですよ。夕方、風呂上がりにマッサージしてもらえればと言っていたみたいなんですが、野田さんもベテラントレーナーですから、なかなか頑固でして。
ケアルネタもスベりましたしね。
平柳君は15試合で打率1割7分、ホームラン0、打点4。盗塁2という成績。
開幕カードのミルウォーキーとの試合まではいい感じでバッティングしていたんですけどね。いきなりツーベースを打っていたりしていたし。
しかし、メジャー特有なんですかね。手元でボールが動くというのはもう10年前くらいから日本でも当たり前というところでしたけど。
それ以上に攻め方がはっきりしているのがアメリカンベースボールですかね。
同じインコース攻めでも、日本だったら避けるフリでもしていれば十分なところ、アメリカだと本当に避けていかないと、当たってしまいますから。
当たってはいけないところに当たってしまいますのでね。
そうしなければいけない意識と感覚がいつものバッティングの中でやっていかないといけないのがじわじわ効いてくる感じ。
アウトコースも1回しつこく行ったら死ぬまでアウトコースに投げ続けますから、日本の攻め方や配球がスマートに感じますよ。
ですから、インコースもアウトコースも
高めも低めもメジャーは日本よりボール1個分広げた意識を持たないといけませんので、意識が分散してしまうんですよ。
だから甘いボールが甘いボールに感じなくなったりする難しさが出てくる。
ピッチャーや守ってる野手のレベルが高いのはもちろんのことですからねえ。
1本のヒットを打つのが本当に大変か身を持って実感していますよ。
そういう苦労の中で、調子が上がって来ない平柳君はひたすらにフィジカルトレーニングに時間を費やしていた。
ランニングからストレッチに、走力トレに、ボールやゴムを使ったサポートトレーニングも。
普段のというよりも、1月の自主トレの最初の方に、ニット帽とネックウォーマーをしてみっちりやる地味なトレーニングですよ。
闇雲にバットを振るのではなくて、そういう基礎的なトレーニングに時間を割いているのを見て、これは明日には打つね。もしかしたら、ホームランになるかもしれないと俺は感じましたよ。
これが焦ってひたすらバットを振り込むような自主練習だったら、明日あさっても結果が出ないようだとちょっと心配になりますけど、これは多分大丈夫なやつ。
自分に必要なトレーニングや正すべき感覚とアプローチの仕方がしっかり分かっていらっしゃるみたい。
打てなくて悩んでる時って、どうしてもバットをたくさん振りたくなるんですけど、個人的には逆ですね。
一旦バットなんて置いてみたらいい。
そして普段は見ないような成人雑誌を広げてみたらいいんですよ。
すると見える景色が変わって、案外すんなり打てちゃったりしますからね。
シーズン中に、実力の上積みをするようなトレーニングは止めておいた方がいいってお話。
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