ピカピカ頭がカッチョいいですわ!
アメリカ人は、クラッカーとオレンジジュースが大好き。
それを強く印象付けたのは、スキンヘッドがトレードマークのブラッドリーという男である。
俺は試合前練習に取り組む前に、マッサージを入念にしてもらいたいので、その時間でクラブハウスに行くと、大抵1番乗りである。
ミーティングの準備やら何やらがあるコーチ陣よりも早い時があるくらい。
昼飯は家で食べてきて、ウェアに着替えて平柳君と一緒にマッサージを受けていると、次にやって来るのはそのスキンヘッドマンである。
ガッサガッサと大きいビニール袋が擦れる音が聞こえるので、彼が廊下を歩いて来るとすぐに分かる。
「ヘイ!アライ、ヒラ!サクライ!クロ!」
「よー」
「おつー」
デカイ声を出し、マッサージ部屋を覗き込みながら、彼がバリバリと食べているそれはアメリカンクラッカーである。
日本のは、15枚か20枚入りくらいのが3パック入っているものが一般的だが、アメリカのはやっぱりやべえ。
シュラーゲンだか、シュハーゲンだかと書いてある大容量のプレーンクラッカーである。
みんなで遊べるボードゲームが入っているようは箱なんですもの。一体何百枚入っているやつなのか。
そこから取り出した丸いクラッカーを1度に2枚ずつ口に運びながらバリバリ。
少し話をしながら2、3分俺達を眺めた後に、ブラッドリーはツルツルの頭を触りながら、陽気に改めて挨拶をしながら去っていく。
そしてマッサージが終わり部屋を出ると、横のエントランスのソファーに彼は深く座り込んでいる。
テカテカした雑誌を乱暴にめくりながら、両耳には骨伝導ヘッドホンというスタイル。
そして変わらずに2袋か3袋目のクラッカーを貪りながら時折オレンジジュースを流し込んでいた。
今日の試合は5勝4敗同士で並ぶアトランタ戦。2年連続でこの地区で優勝しているチーム。
投打共に隙がない強豪だ。
2回裏。先頭バッターは5番のブラッドリーだった。スキンヘッドの上に、水泳帽を思い出させる汗止めのキャップを装着。
松ヤニでベッタリのヘルメットを被って右打席に入った。
「バッターはブラッドリーです。開幕9試合で打率は2割5分。調子はまずまずといったところでしょうか、大原さん」
「そうですねえ。元々春先はあまり調子が上がらないタイプで、まあこのくらいかという感じですけど、バッティングの感覚は悪くないと思いますよ。今日のような右バッターの懐を突くタイプは得意だと思いますよ。打撃のポイントが前の選手ですからねえ」
カンッ!
それは俺、バーンズ、クリスタンテが立て続けに詰まらされたカットボールだった。
鋭さすら感じる強い踏み込みでボールを迎え入れ、ゆらゆらと揺らしていたバットがそれを捉えた。
「いい当たりだ!レフト線!!フェア、フェアです!!長打コースになります!レフト線へ痛烈な打球になりました!ブラッドリーの見事なバッティング。ツーベースを放っていきました!!」
「いいスイングですねえ。1発で捉えましたね。上位の右バッター達にもお手本になりますよ」
続く6番は左打ちのアンドリュース。外に逃げるボールに手を焼いたが、最後は片手1本で右中間に飛球を打った。
ブラッドリーは3塁へ。1アウト3塁。7番ヒックスはフォアボールを選ぶ。
「8番はロングフォレストです。今シーズンはここまで打率は1割台と少し苦しんでいる印象ですが、ここは先制のチャンスです」
逞しい体格と逞しいお髭。真っ白にしたらサンタクロースにもなるそれがあれば、多少引っ掛けた打球になっても大丈夫なのかもしれない。
ヒックスがきわどいところをよく見てフォアボール。出塁してくれましたから、その分三遊間が空く。バットの先に当たる、会心の打球では決してなかったが、しぶとくショートの左を抜けていった。
先制点ゲット。
ベンチの後ろの方に座る前村君と俺を追いかけてやってきた平柳君ともハイタッチ。
「オーケー!!ナイススマッシュ、ブラッド!!」
「イエー!!」
そして、ベンチにいる全員で、素晴らしいツーベースを放ったブラッドリーを迎え入れた。
「ロングフォレスト、低めのボールを上手く捌いていきました!先発の前村を援護する恋女房のタイムリーです」
「気持ちで打ちましたね。この選手も立派な体格ですが、今のように食らいつくバッティングも出来ますからね。メジャー通算で2割6分打っているキャッチャーなだけありますよ」
「シャーロットが1点先制で、ラストバッターのザムです。これも引っ掛けたバッティングになりました。アウトコースです。1、2塁間弱い当たり。回り込んで1塁へ!きわどいタイミング!!
……アウトです!!しかし、それぞれランナーは進みました。2アウト2、3塁となりまして、トップに返って平柳です」
あとひと押し欲しかったところだったが、平柳君は高めのボールを打ち上げてしまって内野フライ。
それでも、援護点をもらった前村君は3回の下位打線からの攻撃も、98マイルの速球とコンビネーション抜群のスプリットで無失点ピッチ。
そうなると、わたくしもお仕事しなくては……。
1打席目は、インコースのカットボールに窮屈なバッティングになってしまっていた。
ブラッドリーのバッティングを参考にして、ポイントを前にし、2球続けて引っ張り、いい感じのファウルを打ってやった。
3球続けたらヤバそうという思考を読み、投げさせた外のシンカーに踏み込んでいく。
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