あら?完全にやり合うやつだと思いましたわ!
初戦はホームラン祭りで逆転。2戦目は互いにミスでゆるゆるな譲り合い。
となれば3戦目は自然とロースコアのゲームになる。
互いに今日は先発ピッチャーの出来が良く、まともなヒットもなかなか出ない。そんな中で真価を発揮するのがピンクバットのおませちゃんというわけである。
0ー0というスコアで迎えた第3打席。平柳君がライトフライに倒れて1アウト。つまり2番のわたくしである。
「アライです。日本では奇跡の4割打者。右打ち名人。宇都宮の安打量産機と呼ばれています。メジャー1年目。今日までの9試合で、31打数11安打。打率3割5分1厘という数字をマークしています」
「オープン戦はカチカチに凍ってしまったシャーベットのようでしたが、見事に持ち直してきました。開幕戦1打席目のように、右方向へのバッティングを駆使して、メジャーのボールに対応しています」
「ここは、ストライク。インコースの動くボールには反応しませんでした」
「真ん中から外目のゾーンを狙っていると思いますよ。ですから、基本はインコースにボールを集めるのが正解だと思います」
「なるほど。そのインコースを打ちました!!詰まりましたが、サードの頭の上ら!……越えました。しぶとくレフト前落としています!」
やや腕を畳ながら、出来るだけバットの面を向けて手首を最後まで返さないようにぶつける。
バットが折れてしまったか、すぐに確認しにいきたいくらいの詰まり具合だったが、シーズン12本目のヒットを記録することに成功した。
そしてバーンズ。彼もインコースに詰まり加減であったが、パワーが違う。3塁線。サードのグラブを弾いていくような破壊力。ボールがレフト線を転々とする。
ランナー1塁でバーンズ。外野は極めて深い守備位置。俺はノンストップで2塁を蹴り、打ったバーンズも2塁に到達し、ベンチと俺に向かって小さくガッツポーズをした。
試合の運命を左右する場面ですから、1アウト2、3塁。4番のクリスタンテには慎重な攻め。低めに外れるスプリット。インコース、膝元にツーシームも僅かに外れた。
3球目のアウトコース高めのストレート。それが高く舞い上がったファウルボールになり、4球はスライダー、これも誘い球風で外れた。
そして5球目はスプリットがワンバウンドでフォアボール。
満塁となった。
ピッチャーが代わる。
ここまで力投のベテラン右腕から左の速球派にスイッチ。
バッターは6番ファーストのアンドリュース。
左対左の勝負になった。
初球を叩く。
「打った!1、2塁間だ!飛び付く!!抜けましたー!!1人返ってくる!2人目、バーンズも返ってきましたぁー!!」
「「イエス・サー!!」」
ホームインした俺とバーンズは、バチコンと激しくハイタッチしながらベンチに戻る。
平柳君やザム君。ヒックスや先発のアビュベストリには、待たせたな。なんてカッコつけたりしながら、トレーナーの桜井さんや黒崎さんにも拍手で出迎えてもらう。
アンドリュースはよく打った。左対左ですから、外のボールゾーンに逃げる変化球の存在を当然頭に入れながらも、引っ張り込めるボールが来たら強くスイングする。
そのスイングする気持ちが強すぎると、何でも振っちゃうマンになってしまうし、慎重に見ていこうとすると、甘いボールにすら手が出なくなってしまうという非常に難しいところ。
しかも1打先制で代わったばかりのピッチャーの初球をヒットに出来るんですから、素晴らしい勇気と打撃ですよ。
ですから、次打者のブラッドリーがデッドボールを食らった瞬間には、いの一番でグラウンドに飛び出していきましたね。
これはやってくれたなと。
でも、飛び出したのは俺だけという。
ただの早とちり。ブラッドリーも全然怒っていない様子でフットガードを外して1塁に歩いていこうとする。
俺はそのまま巻き戻しの要領でゆっくりと後ろに下がっていく。
なんだかスタジアムが和やかな雰囲気になりましたね。
まあ、試合には勝ったからよしとしますか。
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