もうそれはそれは凄い怒りっぷりよ。

開幕から数えて3カード目。



相手は同地区のシンシナティ。昨年は4位。メジャー30球団で見ても、歴史のあるチームだが、爆発力と脆さを兼ね備えるファンタジーに溢れるチーム。



噛み合えば強い。そうでなければたいしたことはない。同地区の5球団の中でも、比較的新しいシャーロットを除いて1番優勝から遠ざかってしまっているチームでもある。



そんな鮮やかな赤色のユニフォームを着用する彼らは、開幕から6試合で5勝1敗。



その上手くいっているチームの勢いそのままに、向こうの100マイル左腕に、平柳、わたくし、バーンズが初回3者連続三振。



一方で、こちらは初回から4失点と手痛いスタートになってしまったのだが。







カーンッ!!




3回表2アウトランナーなし。



左打席に入ったザムが変化球を上手く打ち返した。速い真っ直ぐを粘りに粘って、7球目に投げさせたスライダー。真ん中低めに来たボールをバシッと捉えたのだ。



高い弾道になった打球はライトフェンスギリギリにそのままスイッ。



9番バッターのホームランで1点を返した。





5回1アウト。



6番ファーストのアンドリュース。ハワイ生まれの肉厚な体から繰り出されるスイングがこれまたスライダーを捉えた。



流した打球がグイングイン。弾丸ライナーでレフトポール際にビューン。




開幕から打率1割台と低調だった男にもホームランが飛び出し2点差に詰めよった。




7番サードのヒックス。こちらは高めのストレートをパシーン。豪快なスイングで捉えた打球は左中間に向かってグーン。最後はジャンピングキャッチを試みたセンターが伸ばしたグラブの上を抜けてオーバーフェンス。



2者連続のホームランで1点差になった。




さらに7回。平柳君がショートゴロに倒れた後の俺。高めに浮いた速いボールを2つ見た後に真ん中よりのチェンジアップを右打ち。しっかり引き付けて叩けた。



セカンドが1歩も動けないライナーが右中間に落ちる。ライト線に守っていたライトがギリで追い付いて長打にはならず。




それでも、バーンズの前で出塁出来た。



その彼が打ったのも、3球目のチェンジアップだった。俺と同じように、真ん中やや外よりのコースを溜めて逆方向へ。



まるで虎が吠えるように上空に舞い上がった打球がそのまま右中間スタンドに消えた。



逆転2ラン。




凄い飛んだよ!



そんな風に言って来そうな、少年のような純粋無垢な笑顔でバーンズはダイヤモンドを1周してきた。




「チェンジアップをライトスタンド中段なんて、どんなパワーしてますのよ」



「アライサンのバッティングがヒントになったのさ。ファストボールをしっかり見て、変化球を逆らわずにに叩く。やっぱり、4割打者の感覚とセンスは参考になるよ」





いやいや。君の打球は俺の感覚やセンスなんて超越しちゃってるのよ。




ズバァンッ!!




スバァンッ!!




ズバアァンッ!!



初回4失点も、中盤からのホームラン4本で試合をひっくり返したシャーロットは、勝利のリリーバーを送り込む。



7回はトンプソン。8回イェーガー。9回キースランド。



昨年から引き続きの頼れる男達のリレーで白熱した1点リードを守りきり、3連戦のカード頭を取った。




だが……。








カァンッ!!



「これもライナーです!素晴らしいバッティング!!また、アライの横を破っていきます!!またまた追加点。昨日の再現か!?6番ガルシアにもタイムリーが飛び出しています!!」




初回から右へ左へ非常に忙しい。



昨日と同じですやん。1番バッターに長打を打たれて、2番が進塁打にしたら、3番4番が連続タイムリー。フォアボールを挟んで6番にまた長打を食らうと。



なんとかまずは2つ3つ勝ち越して首位の座を狙っていきたい段階ですからね。きっちり確実に試合を進めていきたいですのに。



ですから反撃。




カァーン!!




「ん!?これはどうだ!?捉えたか、クリスタンテ。レフトが見上げます!!……入りました!!ヒットの新井を2塁に置いて、クリスタンテの2ランホームランです!」





という1発が飛び出しましたから、こちらも昨日の再現というのが頭を過ったのだが……。




「打ちました!ファースト正面………あーっと!捕れません!!後逸!!ファーストのアンドリュースのエラーです!2塁ランナーが打球の行方を見ながらゆっくりとホームイン!!シンシナティ、すぐにリードを広げました!!」



いい当たりをされたけど、ファースト正面。ダブルプレーでなんとかチェンジと思ったら。


アンドリューが何故かハーフバウンドのタイミングになっちゃうところでボールを待ってしまい、ミットに収まりきらず。



打球はライトの前に転々と弾み、2塁ランナーが生還してリードが広がり1、3塁。次のバッターもまたファーストゴロ。アンドリューが今度はしっかり捕球してバックホーム。



ランナーを挟む。



キャッチャーのロンギーが追いかけ、3塁ベースに入った平柳君にパス、平柳がファーストのアンドリューにパス、アンドリューがロンギーがピッチャーのクラークにパス。



なんてやっている内に………。





シュッ!!



スッ………。



「「ワアアァァッー!!」」



3塁ベースの後ろでカバーに入っていた俺の足元にボールがやって来たのだった。



何をしとんねんと。



いいガタイの選手が何人集まってもなかなかアウトに出来ずに、挙げ句の果てに暴投してさらに失点。



俺は顔を真っ赤にしながら、ホームまで全力ダッシュをして、ホームベースにボールをそっと置いて、また全力ダッシュでレフトのポジションに戻っていった。



いい笑い者でしたよ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る