もちろんいい意味でしてよ。

「ヘイ、マエムラ!今日のお前なら、この2点で十分だろ?」



先制のタイムリーツーベースを打ったのに。クリスタンテのセカンドライナーで飛び出してアウトになってしまったバーンズが冗談めかしくそう言った。



通訳やトレーナー達が周りでニヤニヤする中、もちろんもちろんと笑った前村には本当にこの2点だけの援護になってしまった試になるとは。


7回を100球ちょうど。被安打3。8個の三振を奪うピッチングにシャーロットのファンはもうメロメロだった。



得点には結び付かなかったが、平柳君も俺も4打数2安打と結果は残してとりあえずは宣言通りでほっとした形にはなった。









何日か後。




いつものように、おじさん2人を引き連れてクラブハウスに向かうと、ドアから入ったところで、地元のお坊っちゃんが掲示板で何やら貼り紙行為をしていた。



「ヘイ、ザム!調子はどうだい?」



「やあ、トキ。……君はアウトドアに興味はあるかい?」



ザム君が掲示板に張っていたのは、ザムキャンプファーム!!ニューエリア!ニューサービス!などと、そんな内容。



家業の宣伝お手伝いといったところか。



「日本にいた頃は、キャンプ好きなチームメイトが居てね。結婚する前の嫁ちゃんと何回か連れ出されたなあ」





「デイキャンプ専用のエリアには、ちょっとした遊具やアスレチックもあるのさ」



「へー。それはすごいな。うち今、7歳になる女の子が2人いるから、連れていってあげたら喜ぶかもなぁ。ザムんちって、シャーロット空港の方に向かう大きい道いったとこだよね。初めてシャーロットに来た時に看板だけ見たよ」



「ああ、そうさ。実はキャンプ場の横に野球場もあってね。物心ついた時からメジャーリーガーになるための猛特訓の日々だったよ」



「そうなんだ。随分とスパルタなお父さんなんだね」



「ああ、根っからのベースボール親父でさ。自分が学生時代にケガで諦めることになったから余計にね」



そのくらい広い敷地には、整備されたお散歩コースもあるから、ベビーカーを押しながら自然も満喫出来ると彼は豪語。



「キャンプ台やその他諸々のコミコミプランもあるからな。希望するなら、肉も用意してやる。手軽に遊べるから、遠慮なく来てくれよ。小さい子供達も楽しめるぜ。サクライとクロサキも宜しくな。というわけでプレゼントだ」



「うん、ありがとう」



「今日の試合もしっかりな、ザム」



「ああ、それじゃ、またな」



名刺型の販促用割引チケットを俺たちに渡した彼は、後何枚かあるポスターを持って、廊下の向こうへと立ち去っていった。






開幕カードは、いきなりのエラー連発でしょんぼりとしていた彼も、今はニッコニコでポスター貼りに勤しんでいる。



それは平柳君とのポジションを入れ替えが功を奏した結果なのは明白だ。



ザムは去年、チームトップとなる数の盗塁を決める程の足の速さは折り紙付き。


さらに高校時代まではシャーロット市の最強高校でピッチャーをやっていたくらい、水準以上の強肩で、しっかり育てば10年はショートのポジションは安泰だなという期待だったのだが。



まだメンタル的な不安があるのか、1年レギュラーとして頑張ったが粗さが見え隠れする部分はあったという評価。



でも、キャッチャーにはロンギー、ファーストはアンドリュースとブラッドリー。セカンドは経験のあるミスケリと俊足のマクドナルドも守れる。


サードには、成長著しいヒックス。


外野にはバーンズクリスタンテというメンバーが居て、後はショートだけだ!みたいな雰囲気で始まった部分がありましたから、ファンの期待と開幕カードのやらかしによる絶望感の浮き沈みはなかなかに凄かった。



でも、本拠地での4戦目からは、平柳君がショートに入り、ザムはセカンドに回るという布陣になった結果、一気に噛み合いそうな形にすぐなったのは大きい。



32歳と20歳なら、どう転んでも20歳にショートをこなして欲しいところだが、学生時代からの地道な練習と豊富な国際経験。


平柳君の安定感のある動きにはもう叶わない。



メジャーに来ても、日本時代と同等の水準で守れる平柳君はやっぱり凄い。



ある意味レフトの人も同じ水準を発揮しておりますが。


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