最初からそうしといたらええねん。
初球から、マイアミの1番バッターがセーフティバントの構えをしてくる感じですから。
しかし、その初球が高めいっぱいにストライク判定になったのが大きい。
2球目もストレート。バッターはスイングし、3塁側スタンドに飛び込むファウルボール。
勝負はテキパキ3球勝負。
90マイルのスライダー。アウトコースギリギリにナイスコントロール。バッターは中途半端なスイングで当てるだけ。
これがまた中途半端な打球がショートの前に転がった。
バッターはしめたとばかりに勢いよく1塁へ駆け出す。
「打ちました!打ち取った!ショート!今日はヒラヤナギ!!ダッシュして捌く!!素早く1塁へ!!………アウトだ!間一髪!!ナイスプレー!!」
「これは素晴らしい!ダッシュ力、正確で素早いスローイング。何よりポジショニングと反応がピカイチでした」
さすが平柳君。ちょこんと当てただけの打球に対して見事な反応とグラブ捌き。そして素早い握り替えからのドンピシャの送球。めちゃんこ足の速そうな1番バッターが塁に出るか出ないかはもう、雲泥の差ですわよね。
その平柳君が前にダッシュした惰性のまま、マウンド近くまでいき、前村君ちゃんと褒めてもらってから守備位置に戻るちゃっかりぶり。
2番も左バッター。2ー2からのストレートを叩くと、今日はセカンドを守るザムの右へのゴロになった。
バッターが前村君のボールを打ち返し、ピッチャーマウンドのすぐ横でバウンドし、天然芝の上で、もうワンバウンド。
スリーバウンド目をショートで捕球に行くようなタイミングでしたから、その間に俺は3回くらい、ザム!と叫びましたよ。
祈るような思い。
この最初の1発目さえ上手くいけば……という気持ち。
最後は怖くて目を閉じてしまったけど、次の瞬間には華麗なランニングスローで1塁にボールを送り、しっかりアウトにしていた。
やれば出来るじゃない!
そう思ったのは俺だけではなく、本拠地に多く詰めかけたシャーロットファンも同じ。言わばただのセカンドゴロだが、ホームランボールをキャッチしたかのような。
アウトになった瞬間に観客は立ち上がり、歓声と拍手をザム君に惜しみなく送った。
素晴らしい地元愛。
地元の放送局でアナウンサーをしている2つ年上のお姉ちゃんと、かつてはシャーロット傘下のダブルAの選手であり、今は大学生を指導している兄。
両親はシャーロット郊外でキャンプ場を経営している一家だと知れ渡っていますから、宇都宮の俺以上のエコ贔屓感がある。
まだ初回に1つゴロを捌いただけだが、とりあえずは早出した意味は出たかなと。
そんなわけで2アウト。前村君はストレートを決め球にして、3番バッターからは空振りの三振を奪っていい立ち上がり。
実績通りと予感させてくれる安定感。
またグリーンオブシャーロットにファンの拍手がまたこだましたのだった。
「バティワン、ショートストップ!ナンバーセブン!ユータ、ヒラ、ヤナギー!!」
カンッ!
高めのボールに体をぐるん。鋭いスイングから放たれた打球はライトの前に力強く弾んだ。
平柳君が2試合ぶりのヒットでいきなり出塁である。
「トキヒトゥ……アッラーイ!!」
「「イエーーーーッ!!」」
ふーっと1つ息を長く吐きながらバッターボックスに入る。3塁コーチおじさんからのフェイクサインを確認して、初球。
危ない!!
ズバァンッ!!
肩の高さのインハイ。いきなりの内角攻め。右ピッチャーの若干シュートするようなボールに体が当たりそうだった。
体を逃がすようにし、ヘルメットを地面に落としながらバッターボックスを外す。
ちょっと過剰な避け方だなぁと、スタンドがどよめく。
2球目は真ん中。そこから外に曲がるカットボール。手を出していったが、若干初球の残像があったのか踏み込み不足。
差し込まれ気味。打ち上げた打球がネットを超えて1塁側のスタンドに飛び込んでいく。
3球目も、また速いボール。94マイルの今度はシンカーのような印象の球が低めに外れた。
そろそろかなの4球目。高めのビアッときた瞬間に、そこからのギュルンと来るナックルカーブですよ。
もうこれを打つイメージを昨晩からどれだけしたことか。かずちゃんをお風呂に入れている時も、双子ちゃんとゲームしている時も、隠れてみのりんとイチャイチャしている時も。
ホントのところ、頭の中はナックルカーブのことだけ。
前村君もそうだが、本拠地の開幕戦となれば平柳君も俺も意味合いは同じ。
最初は本当に大切。本拠地ファンへのお披露目ですから。去年あとちょっとところでリーグ1位とポストシーズン進出を逃したファンに希望を与えるような試合にしたいと。
そう偉そうに取材で答えてしまいましたから、日本人全然あかんやん。となってしまうような無様な本拠地デビューには出来ないという思い。
そう前置きしたわりには、半開きの口で天井に向かって投げたピーナッツみたいな打球になってしまったが、最後は飛び込んだライトの前にボトリと落ちた。
ズガッ!!
そして3番、バーンズである。
6フィート3インチ。220ポンドという立派な体格から繰り出された打球があっという間に3塁線を破る。
地を這うようにして転がる打球がシャーロットのファンの盛り上がりに押されるような形で、レフトフェンスでピョーンと高く跳ねた。
レフトの選手が対応を誤ってもたつく。
1塁から一気に俺もホームを駆け抜けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます