肩をぐるんぐるん回してボスにアピールしましたけど、相手にすらされませんでしたわ!

試合が終わったらすぐに飛行機に乗り込んでシャーロットに帰還。



行きはゲーム大会で盛り上がったが、帰りはみんな疲れがあるのか、ニコニコでモニターの前にやって来たのは俺とバーンズだけ。



俺たちはそれが可笑しくて、2人でゲラゲラ笑いながらバスケットボールのゲームを楽しむ。


開幕カードの負け越しなど、何処吹く風。時間の許す限り、コントローラーを握り締めて、タイマン勝負を楽しんでいた。






1勝2敗でシャーロットに戻り、本拠地開幕戦。うちの先発は前村君。



オープン戦の出来は上々だったし、本来なら開幕2戦目の先発なのでは?という地元メディアの予想だったのだが。


左バッターの多いマイアミとの試合に、うちのボスは本格派左腕である前村を持ってきた形になった。本拠地のシャーロットファンの目の前で移籍後初登板という形。



ミルウォーキーとの3連戦では、本拠地に残り、調整を続けてきた彼との再会に俺はワクワクしながらおうちを出る。



マンションの前には、住人専用の駐車スペースがあり、そこに契約しているドライビングサービスの車が止まっている。白色の大きなワンボックスカー。。




アメリカの試合開始時間は、場所にもよるんだけど、だいたい夜7時から8時の間。



日本のナイターは、午後6時が基本ですから、慣れるまではちょっと違和感がある。




これはそれぞれの国の考え方の違いのようなもので、日本は会社や学校が終わったらそのまま球場に来てもらって、ちょうど試合が始まるようなイメージ。



しかしアメリカはファミリーファーストといいますか、何に置いても愛する人や家族が優先されますから。


仕事が終わったら家に帰り、家族で食事や団らんなどを楽しんでから、ベースボール観戦に向かいましょうというそんな時間設定になっているのだ。



ですから、選手達の球場入りの時間も変わってくる。



日本だと、試合開始前の6時間半くらい前にクラブハウスに向かうが、アメリカが試合開始5時間前でも、誰もいない。先に練習するホーム側ですら、試合開始4時間前になって、早めに来る選手がボチボチやって来るという感覚だったのだが……。



今日はちょっと様子が違う。いつもなら後ろのスペースに平柳君ご一行が乗り込む黒色の車があるはずなのだが、今日はいない。



俺は自分の車に乗り込みながら、先に来ている2人にそれとなく聞いてみた。



「あー。もしかしたら、先にスタジアムに行ってトレーニングしているかもですねえ。昨日、新井さんがバーンズとゲームしている時に、平柳とヘッドコーチが随分話し込んでいたんですよ」



と、黒崎さんが教えてくれた。




どれどれと、クラブハウスに向かうと、隣のロッカーには平柳君のジャケットとジーンズが既にあって、確かに先にスタジアム入りしている様子だった。



腹ごなしのサンドイッチとオレンジジュースを食し、俺もグラブとバットを持ってグラウンドへ。



早出ということは、ケージを引っ張り出して、てっきりバッティング練習をしているかと思っていましたから、セカンドとショートでノックしている光景は以外でしたわね。



ショートに平柳君と3戦目にスタメンだったベテランミスケリ。そしてセカンドにはザム君と、内外野全て守れる俊足ユーティリティ選手であるマクドナルド。


4人が静かに火花を散らすようにして、特守をやっていたのだ。


まあ、ここにウルトラC。5人目のショートストップ候補が居ますけどね。



右打ちノッカーと左打ちノッカーをそれぞれ用意してもうそれはひたすらに。その守備練習をボスとヘッドコーチが睨むようにして観察している形だ。



特に1塁ベースから遠くなるエリアと2塁ベース付近での連携を重点的に行っている様子。



4人は、胸や膝を土で汚し、肩で息をしながらも、無我夢中で打球を追いかけていた。



俺がジャパニーズスタイルで挨拶しながらグラウンドに入った時、ちょうどノックはお開きとなったようで選手達が上がってきた。



平柳君が1番余裕がありそうな感じだった。





「おつー。いつからやってたん?」



「まあ、40分くらいですかねー。いやー、これは給料を上げてもらわないと」



なんて口が利ける平柳とは対照的に、ザム君はだいぶへばっている様子。開幕カードでエラー3つですからね。



去年レギュラーを掴んだ地元選手とはいえ、かなり責任を感じているようだ。俺はそんな彼の背中を優しく叩きながら、ウォーミングアップのために元気よくランニングを始めたのだった。








「ようこそメジャーリーグへ!!グリーンオブシャーロット、今シーズンのファーストゲームです!!ミルウォーキーとの3連戦は負け越しましたが、今日は新しく加入した、リキ・マエムラがシャーロットでのデビュー戦です!」



「日本からやってきて4年目。常に2ケタ勝利をマークしているピッチャーですからね。地元ファンの期待は大きいですよ」



「対するは、開幕で王者アトランタに勝ち越したマイアミが相手。本拠地の広いフィールドを生かした戦い方。足の速い左バッターがたくさんいる打線です」




サウスポーの前村君に対して、マイアミは開幕の勢いそのままに、打順を弄らず、スピードのある多数の左バッターをずらりと並べてきた。



移籍初戦の日本人投手。不安のある内野守備。いやらしベースボールをしてくるのは目に見えていた。




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