双子ちゃんが霞みますわぁ。
「パピー、パピー!」
へえ。若いのに、家族サービスとは関心、関心と頷いていると、3歳くらいの女の子でしょうか。
なんとも透き通るようなくらい可愛らしい女の子が、ベンチ橫の出入口にテコテコと歩いてやって来たのだ。
「パピー、パピー」
しかし、かんぬき式の引っかけを上手く外せず、その前で立ち往生。
羽が付いていないだけのただの天使ですわ。
パピーの姿は見えるのにグラウンドに入れなくてペタンと地面にお尻を着けてしまいそうになった瞬間に、これまた別の意味で天使のようなマミーが現れた。
バーンズの奥様。泣きかけた娘を抱っこして、なだめるように何回もキスをした。
そして俺はバーンズにピンクバットを差し出した。
「家族サービスついでに1発どうだね。景気付けにバックスクリーンまで」
「いいね。その可愛いバット、気になっていたんだ」
バーンズは俺のバットを受け取ると、全体を眺めた後に感触を確かめるように強く握り込んだ。
そして、右打席に入り、平柳君の投げたボールをかち上げる。
グワシャッ!!
え!?わたくしのバットからとは思えない打球音が響き渡った。
打球はマイアミの澄みきった青空にギューン!と上がっていき、そのままぐんぐん伸びて、センター後方。真緑のバックスクリーンの向こう側に消えていったのだった。
「バァイ!!」
バラのようなローズのような。そんなエレガントな香水の香りを残して、年俸20億円のチームメイトは天使を抱っこしながら球場を去っていった。
ひと振り。ひと振りで分かる凄み。
こっちは1週間みっちりとバットを振ってようやく外野の間を割るような打球ですのに、あちらさんは遊園地に向かう前に、ノンステップで打ち返して場外ホームラン。
これがメジャーリーガーである。これが俺の挑戦しようとしている世界の住人であると改めて実感。
バーンズが出ていった直後に通りかかったボンドというお店の、ラムレーズン入りのチョコミントアイスを食べながら痛感するのである。
もしかしたら、これがメジャーの世界かと、自信を失ったり、もっと練習しなきゃと張り切り過ぎてどこか痛めてしまったりという展開になるんじゃないかと、桜井さんと黒崎さんは心配していましたけどね。
そんなことより、木々の間に見えたビーチに向かうアイス屋さんを呼び止める視野の広さと楽天ぶりが持ち味のノンアーチマンですから、2人も安心してオレンジシャーベットとストロベリーバニラのアイスを食べていますわよ。
そうやって、一緒にこれから苦楽を共にする相棒達を心配させないのめ、雇い主としての大切な役割ですわね。
メジャーリーグのスプリングトレーニングは2月の中旬から始まる。
日本だと、2月1日とか1月30日とかだったりしますから、それに比べるとだいぶ遅い。
だからというわけなのかは分からないが………。
「ちょっと、ちょっと!!お金払って下さいよ!ツケだって溜まってるんでしょ!!」
「だから俺はピザなんて頼んでないんだってば!これから仕事なんだから、そこをどけ!」
「お金貰うまで絶対に帰りませんからね!」
俺はピザが入ったデカイ箱を抱えながら、真っ黄色なオンボロ車の助手席に乗り込んだ。
「カーット!!アライサーン!イイデスネー!」
地元のテレビ局のローカルドラマ「ヘッポコタロー」というコミカルな探偵ものに出演オファーが来たりなんかした。
日系人の俳優さんが主演を務めている30分番組。
アメリカ生まれの日本人で、シャーロットの街で私立探偵をするタロー・マイケルズが繰り広げるドタバタコメディ。
時間とお金にルーズでちょっと頼りないが、いざとなると、大和拳法という格闘術を繰り出すそんな一面もある愛されキャラ。
もう8年続くそんなドラマに、近所のピザ屋の新人という設定で、俺も彼のオンボロ車に乗って、紙幣偽造の疑いがある悪党の根城へと乗り込むのだ。
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