いきなりのジョークをかまされましたわ!
「ああ。確かに昨年、シャーロットは4年ぶりのポストシーズンが目の前まで来ていたが、あと1歩届かなかった。
バーンズとクリスタンテは2人で78本のホームランを打ちながら、どちらも100打点に届かなかった。これは1、2番の出塁率が芳しくなかったという現れだね」
「そういう意味でも、平柳、新井の日本人2人はまさにピンポイントな補強でしたね」
「シャーロットは長年、ショートにミスケリという地元選手が君臨してきた。オールスターに出るような派手さはないが、打率3割近くをマーク出来る、クレバーで安定感のあるディフェンス力が売り。チームのまとめ役さ。
しかし、怪我や不調で十分な働きが出来ず、代わりに出てきた同じノースカロライナ出身。地元シャーロット育ちの20歳ザム。彼も最初はよかったが低めの変化球に苦しみ、自信のあったショートの守備でも凡ミスが多かった。まだまだこれからの選手だけどね」
「なるほど。シャーロットにとって実績のあるショートは1番の補強ポイントだったわけですね」
「それに加え、センターのバーンズ、ライトのクリスタンテはオールスター級だが、レフトのポジションは最後まで固定出来なかった。3年前に、韓国代表のパクをトレードしてしまったのが悔やまれるよ。
デトロイトに移籍して、2年で50本のホームランを打っていたからね。もう1年辛抱が必要だったのかもしれない。
シャーロットのレフト打率2割0分3厘というのは、30球団で最低の数字だったからね。外野に打撃の穴があるのは無視出来ないよ」
「なるほど。それでは、新井、平柳両選手の加入というのは、シャーロットにとってすごく有意義なことなのでは?」
「ファン心理とは難しいものさ。期待していればしているほど、ダメだった時のショックは大きい。近年のシャーロットの補強で成功と言えるのは正捕手のロンギー(ロングフォレスト)くらいさ。
もちろん、アライとヒラには期待しているが、それと同じくらいシャーロットのファンは傷付くことを恐れているのさ。もちろん、誰よりも優勝を願っているのは間違いないけどね」
「地元メディアの見解では、新井選手の活躍は難しいのではという見方もあるようですね」
「それはやはり、メジャーの外野手としてプレーするにはパワーが足りていないと思われているからでしょう。日本では1本のホームランも打っていませんし、4割打者とはいえ、日本での通算安打が600本にも至っていません。
選手としてのキャリアも、実質3年半であり、1シーズンフルで戦った経験がないですからね。
それに加えて、37歳になるシーズンですから、衰えがいつ来ても不思議ではない。
獲得に疑問を抱くファンが一定数いてもおかしくはありませんよ。もちろん多くのファンがリスペクトしていますが、日本とメジャーでは畑が違うということです。最初の2ヶ月が勝負でしょう。
一方平柳は、日本で10年以上プレーして、通算打率が3割1分ありながら、ホームランを200本以上放っている。G・G賞の常連だし、去年のパフォーマンスはメジャーでもかなりの評判だった。シャーロットが獲得出来たのはラッキーだったよ」
という記事がネットにも出ていることをもみじちゃんに教えてもらって、なるほどなぁと考えさせられた。
確かに考えなくても、全試合出場とかやったことがありませんものね。お世辞にもフィジカルに優れていたり、体力がある方なタイプではありませんから。不安になるのも分かる。
ちょっと顔がいいだけでやってますからね。
さすがは大本さん。地元のメディアからいい話を引き出してきやがる。普通にチェックするだけだと、上っ面の記事しか見かけないから。
こういう芯を食った情報を持っていると、逆に心が楽になったりするからね。
俺も平柳君も、日本でプレーしていた時よりも倍のお給料を貰うわけですから、それに見合った働きはしていかないとね。
1週間経った今日も、わりと多くのメディアに囲まれながら精力的にバッティング練習に励んでいたのだが………。
そのメディア達が何かに気付いたかと思うと、まるで側の道路にライオンでも出没したかのように、グラウンドの外に興味を持っていかれていた。
ある者は驚き、ある者は喜び。ある者はカメラのシャッターを切りまくる。
その視線の先には、真っ白なシャツに柄物のジーパン。高そうなサングラスと腕時計を身につけた、ものすごい肉厚な体格をした白人青年がいたのだ。
隣で桜井トレーナーも興奮しているご様子。
「新井さん。バーンズですよ。ジェイクバーンズ!」
「ジェ、ジェイクバーンズですって~!………それって誰ですの?」
マジでちょっと誰だかピンと来なかったけど、周りの騒ぎ方が尋常ではなかったので、そんな風になってしまったのだが、平柳君は何故か呆れた様子だった。
「新井さん、何を言ってるんすか。ジェイクバーンズ。シャーロットのスーパースターでしょうが。去年、22歳で41本のホームランを打った」
ああ、なる、なる。
そのバーンズという男はベンチ橫の出入口までやって来ると、律儀に通訳を介して、俺と平柳君に、グラウンド入っていいかという確認を取ってきた。
もちろんと答えると、バーンズはサングラスをキャップのつばに乗せながら軽やかに近寄って来て、俺と平柳君それぞれに握手を求めながら、軽くハグをした。
「会いたかったよ、ジャパンのベテランスター。今は………バントの練習かい?」
「し、失礼ですわね!普通にフリーバッティングの最中ですわ!!」
俺が1歩踏み出すようにしながらちょっと大袈裟にそう答えると、バーンズは何回も手を叩きながら、ゲラゲラと笑った。
その瞬間に仲良くなった気がした。
「シャーロットのスーパースターさんこそ、今はバカンス中かね」
「ああ。家族サービス中さ。今からマイアミの遊園地に行ってくるところでね。ここのグラウンドで新加入の2人がトレーニングしていると聞いたから、来て見たのさ」
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