もうちっとゆっくりしていたかったですわねぇ。
新井があんなことになっているのに、ビクトリーズは何も出さないなんて……。などと言われてしまったらイメージがマイナスでしょうし。
それでも逆にそんなことになってしまったから、グッズの売上が爆上がりで普通に年俸を支払える以上の利益が出ていたとも言っていましたけど。
何にせよ、わたくし本人としましては、どんな事情があるにしろ、選手として稼働していなければ、お金を貰うなんてあり得ないと思っていましたんで。
ポニテちゃんの豊満な胸元を思い出して、はっと目を覚ました後、お返ししますと何度も申したんですが、その度に断られてしまいまして。
それならプレーで返してくれとそんな風にも言われたんで頑張っていたわけですが。
今の時代は野球選手にも、市場価値やら移籍金やらと付加が付く時代になりましたしねえ。
今回、ポスティング制度でシャーロットに移籍となれば、ビクトリーズに借り分よりもだいぶお色が付いたお金が入るという話だったから、メジャー挑戦に踏み切ったという塩梅なんですよ。
そして双子ちゃんは、来年度で小学1年生ですから、学校はどうしようかと、みのりんと色々調べていました。
シャーロットには、ノースカロライナ日本人学校というのがあるので、そこに通わせることになった。
シャーロットという街は、ノースカロライナ州で1番大きな都市ということもあり、日本人が結構いる。
そのノースカロライナ日本人学校も6学年で100人程の生徒がいて、同じ敷地に幼稚園や託児所、クラブ活動が出来る施設も備わっている形になっているらしい。
早速家族で見学に行った。
まるでどこかの大企業のオフィスのような近代的できれいな建物。
人工芝のグラウンドと立派な体育館もあり、2学年毎に1クラスという方式。
低学年は、日本国語に算数、図工、音楽、体育に加えて英語の時間も週に8時間あるらしい。
日本の小学校とほぼ同レベルの授業に加えて、進んだ実践英語が存分に学べるということで、日本に帰国してからの学力にブーストを掛けられるとそんな説明。
それに加え、学校のすぐ近くにはシャーロットウイングスのベースボールキッズアカデミーもあるので、かえではテンションは爆上がりとなった。
しかし、ご存知の通りアメリカの新学期は8月~9月スタートでして、今は1月。
その間は一旦小学校の準クラス入る。
そこでら、小学1年に向けての予習授業があるということで、双子ちゃん達のアメリカチャレンジは一足先に開幕することになりそうだ。
後は通訳さんを連れて市役所に行ったり、小児科がある病院に行ったり、野球以外にやらなければならないことはたくさんあったのだが、時間の取れるうちに、平柳家の2人と相談しながら、なんとか1つずつ片付けていくことが出来た。
アメリカに来て1週間。家電も全て届き、食器、日用品なども一通り買え揃えたし、ようやくちょっとずつアメリカにいるという実感が湧いてきた頃。
俺は自分がメジャーリーガーであることを思い出した。俺はシャーロットのグラウンドや傘下の3Aのスタジアムなどでボチボチトレーニングを始めるかというつもりでいたのだが………。
「新井さん、何言ってんすか。日本とは訳が違うんですよ!?」
と、平柳君に怖い顔で叱られた俺は、彼に引きずられるようにしてシャーロットの街を離れていったのだった。
シャーロットダグラス空港から飛行機に乗って2時間ちょっと、向かったのはフロリダ州のマイアミ。
ここがわたくし達の自主トレ現場になるらしい。
さらにそこからタクシーで向かったのは、郊外にある山の中にあるような屋外球場。地元のアマチュアチームが週末に試合をやりそうな地方の小さめスタジアム。
そこを拠点として、俺と平柳君のトレーニングが始まってしまった。
まずは食事会以来となる互いのトレーナーと通訳さんに挨拶をし、みんなでゆっくりと1時間のランニング。
そして十分なストレッチを行って、サーキットダッシュ。
10メートル感覚くらいにボールを置いて、もも上げしたり、腕を振りながらサイドステップしたり、サッカーのドリブルをするような足捌きをしてから走り出したりと、ちょっと走るだけで色々な種類。
それが終わったら今度はライトからレフトへ、レフトからライトへとポール間走。
分かっていたがマイアミは1月でも暑い。真冬なのに、余裕で25度近くまでいく。もうポール間走なんて始まったら、半袖ハーパンになって、あえてNEW YORKと書かれたキャップを後ろ向きに被り、サングラスを掛けながらダッシュ。
汗でシャツがびしょびしょになるまで。
ちくビームッ!!
と叫びながら走るわけですよ。
それが終わったら、水道でシャツをゆすいで絞って、干しといて、歩いて昼飯に向かう。
チキンと山盛り野菜とサンドイッチのランチが終わったら、やっとキャッチボールが始まる。
まだ30メートルくらいで。滑りやすいメジャーの硬式球の感触を確かめながら平柳君に向かってボールを投げ続けた。
ようやく日差しが弱まり始めて、風も少し吹いてきた頃に、キャスター付きのネットを出して、ティーバッティングを始める。
平柳君と向かい合うようにして、彼のバットを振る様子を見ながら俺も桜井さんの上げてくれるボールを打つ。
今年も継続してアドバイザー契約を結んだアンダー社が作ってくれたマスコットバット。
ピンクと白のストライプ状のデザインになっており、派手で可愛くてなかなかお気に入りだ。
「新井さんはこの時期からバットは振ってました?」
「去年はお目覚めした年だったからね。ずっと体作りしてたよ。やっぱりかなり体重と筋肉量が落ちていたからさー。2年目の頃からそうだったけど、バットを持つのはキャンプに入ってからと決めていたんだよね」
「えっ!?あっ、そうだったんすか!?それならそうと言って下さいよ!」
「まあでも確かに今年は勝手が全く違うから、早めに調整しておくに越したことはないな。こうやって、君のことを見ながら練習出来るわけだしね」
そう言うと、平柳君は何故か手で股間を隠した。
「ちょっと!どこ見てんすか!?止めて下さいよ!新井さんって結構そういうところあるんですよねぇ」
「何勘違いしてんだよ。ちんちんじゃなくて、股間節の使い方だよ。足を踏み込んだ時の……」
「ああ、これは……。まだティーバッティングですから、アレですけど、去年ぐらいから………」
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