これはファミリー型のストーカーですわ!

コンシェルジュさんにも手土産を渡しながら挨拶をして、マンションのロビーへ。エレベーターへ続く大きなドア。


横の端末にカードを当て、部屋番とパッパの昔と今の背番号の組み合わせである番号を入力するとドアが開く。



使うエレベーターは専用なのでそこでも暗証番号を入力し、ようやく使える。はしゃごうとするかえでに釘を刺しながら乗り込み15階へ。



エレベーターがぐんぐん上っていき、到着してドアが開くと………。



「新井さんファミリー!!」



平柳ファミリーの姿がここにあったのだ。





サングラスをして、テッカテカのダウンを着こんだ平柳君と、いかにもお高そうなグレーのコートを羽織った水嵩アナ。


そしてママさんとお揃いのものを羽織った、双子ちゃんと同い年の陸君と3歳になったばかりという空ちゃん。



とりあえず、赤ちゃんを含めて、互いに顔を見合わせながらしばらく笑うしかなかった。



「まさか同じマンションの同じフロアだとは思いませんでしたねえ。やっぱり俺と新井さんの間には、ただならぬ運命を感じますよ」



平柳君は、子供達の前でそうはっきりと言い放ち高笑いをする。



「奥様。あなたの旦那様、なんとかなりませんの?」



「すみません。新井さんという存在をモチベーションにしてずっとやって来た人ですから。この人も、私も……」




水嵩アナもそう言って謝りながらも、うふふと笑う。



いやんなお隣さんになってしまいましたわ。冷や汗が止まりませんわ!



「新井さんは、今到着したところですか?」



「ああ、ついさっき空港から来たとこ」



「へー。かえでちゃんも、もみじちゃんも大きくなったね。新井さんの病室で会った時はまだ3歳くらいだったのに……」



「そーかな」



「どーもです」



俺が謎の休眠状態にいた時、平柳君と水嵩アナは結婚したタイミングで、シーズンオフなどは、ちょいちょい様子見に来てくれていたらしい。



俺の知らないところで、子供達の相手をしてくれたりとお世話になっていたので、色々と断れないような雰囲気に。



しかし、お隣さんが同じ境遇のベースボールマンなら、それはそれで楽かとも考えたりする。



「それじゃあ、俺たちはちょっと用足しがありますので、また明日の夜に。いいレストラン予約しましたので、楽しみにして下さいね」



「おう、またな。平柳君」



「みのりんさん。かえでちゃん、もみじちゃん。かずくんもまたね」



「うん!バイバイ!」



「またねー。ひらやなぎくん」



平柳君と水嵩アナ、そして陸君達は俺達に手を振りながらエレベーターに乗り込んでいった。



俺は、はぁ……。と、1つため息を吐きながら、玄関のドアをオープンする。





「すごーい!お部屋ひろーい!」



「パパー!お外をみたーい!!」



「はいはい。でも、ベランダで椅子とか使ったらあかんよ。落ちたら死ぬからね。ネットで囲ってはあるけれど」



「わかったー!」



「時くん!キッチンもいい感じ!よっしゃいぃっ!!」



「よかった、よかった。ここにして正解だったな」



かえでは、ソファーの上によじ登って遊び始め、もみじは物珍しそうに、窓越しからシャーロットの街並みを眺める。



みのりんは広いお風呂場を見てさらにテンションが上がり、かずちゃんも泣いたりせずにご機嫌麗しゅうといった感じだ。



「パパー!ゲームしたーい!」



「早いな。今、セッティングするから待ってくれ」



「おとう、お腹すいたー!」



「もうちょっとしたら、ピザでも頼もうな」





家族5人で、初めてのアメリカマンション暮らし。とりあえずは気に入ってくれたようでとりあえず一安心だ。



そしてそのまま、ゲーム大会が始まり、持ち込んだパソコンの設置をする。


ベッドもセッティングして、トムベースキッチンというお店のデリバリーピザを食べて、午後はすぐ近くにあるスーパーへお買い物に出掛けた。





スーパーヨツワ。



fresh、discount、YOTSUWA。と看板にはデカデカと書かれており、アメリカで日本の食品を購入するならココ!という在米大和人間にとってはお馴染みのスーパーらしい。



そしてやはりアメリカのスーパーですから、街中とはいえデカイ。全てがデカイ。



天井も高いし、通路も広いし、棚も大きい。そして、お買い物カートもデカイのよ。かごとかを入れるやり方ではなくて、カートに直接商品をぶち込んでいくスタイル。



野球選手も思わず、乗っかって押してもらいたくなるくらいに、デカくて丈夫なカート。俺なんかも足を外に出しながら余裕で入れそうなくらい。



出入口から1発目にあるのは、青果コーナーでして、オレンジやグレープフルーツなんていくつもの場所で山積みになっていて、買い物客もガンガンカートにオレンジを放り込んでいく。



今日はオレンジの特売品なのかなと勘違いしたが、それはいつもの光景らしいのだ。




このヨツワというスーパーは、会長と社長さんが日系人らしく、調味料やだし関係とか、レトルト、インスタント食品とか、納豆とか豆腐とかお菓子や飲み物もなど、日本産の商品がたくさん並んでいる。



もちろん日本で購入するよりも、2割から3割くらいは割高なのだが……



「いつも使っているものがすぐ近所のスーパーで手に入るのは本当にありがたいですね」



生ラーメンを手にして、俺がプロポーズした時よりも幸せそうな表情をするみのりんが声高に語ってくれた。






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