そら、馬単とワイドに1万ずつ入れてましたわよ。
案内に来たスタッフさんに恥ずかしいところを見られたりしながら、スタジオの中に案内され、早速台本を持って打ち合わせ。
とは言っても、2人合わせて但し書きのようなものを含めて2ページ分くらいしかないので、すぐに衣裳合わせに入る。
昭和40年代という時代背景ですから、その頃の郵便局員さんの制服は、ガッシガシな小豆色の濃い上着とズボン。
何着もある中から、サイズが合うものを選び、鏡の前に並んでメイクをしてもらって、リハ前のリハに臨んだ。
収録現場に入ると、そこはまるでタイムスリップしたかのような空間。
土と砂を固めたような地面に、電信柱が刺さっていて、古めかしいトタン屋根の平屋が生け垣の向こうに見える。
道端の角にある郵便局には、東京タワー観光や軽井沢などの避暑地の広告、古いコーラや手土産菓子の広告ポスターがあり、偽切手にチュウイ!!というその時代っぽい注意案内も。
懐かしい黒電話が壁際にあり、待ち合い室には無機質な濃い青色のベンチが3列並んでいる。
そんな郵便局のセットの中に入り、カウンターの中へ。
まずは手元に台本を置いて、横でディレクターさんに居てもらいながら一通り台詞をこなす。
実際にカメラも回して、本番さながら。
時刻は11時50分。
まずは奥側のカウンターの平柳君が対応している年配の女性が持って来た封筒に切手を貼り付けているところ。
その手前側に俺が座ってすぐに、主人公であるミユキちゃんが大荷物を抱えてやって来るという始まり。
それを落ち着かせるようにしながら、俺は大きめの茶封筒を受け取り、量りに乗せる。
そして代金を貰おうとしているところで、主人公の隣の家に住む染め物屋の夫人が………。あんた、こんなところで何しとるね!列車の時間違うんか!?話しかけてきてさらに大慌て。
俺にお釣りなしの代金を支払ったら、急いで郵便局から飛び出していってしまう。
それを追いかけるようにして、俺と平柳君がミユキちゃんの荷物を手にしながら外に出てきて、ちょっと!お姉さん!忘れ物、忘れ物!と、呼び止めるのであった。
という、出演時間2分程のチョイ役である。
ですから、すぐに撮影は終わるだろうと考えていたのだけれど、ドラマってカメラとセットの位置を変えて同じシーンを何回も撮ったりしますのね。
俺と平柳君が慣れていないということもあって、結局は実質2時間以上の時間、昼休みのキャッチボールを楽しみにする郵便局員としての職務を全うするのであった。
それが終わると、前からやらせてもらっているいくつかのCMの撮り直しをして、お正月番組の収録もいくつかあり、12月の中旬には、有馬記念の枠順抽選会にスペシャルゲストとして呼ばれたのだ。
そして隣には当たり前のように平柳君の姿。
競馬番組で目にする元ジョッキーのレジェンドや大物競馬解説者、競馬好きで有名なお笑い芸人や今年中央競馬のメインプロモーションタレントとして活躍していた若手の俳優さんなど豪華なメンバー。
そこにスペシャルゲストですと呼ばれた俺が、そんな有名人を目の前にして、舞台の真ん中に上がる間に、いちいち腰を抜かすという小ボケで盛り上げながらデッケー透明の器の前に立つ。
俺が出走する馬のお名前が入ったカプセルを引き、平柳君が枠順の書かれたカプセルを引く。
なんてそんなやつもやりつつ、対して何の動画も上げていなかった自分のユアチャンネルで、ちょうどメジャータクティクスという逃げタイプのお馬が俺の背番号と同じ2枠4番に入りましたから、そいつを軸にした競馬予想の動画を上げまして。
前日オッズからしてG1おろか、G2勝ちもないですから13番人気もやむなしといった感じ。
逆噴射する予定だったのが、好スタートからマイペースに内ラチ沿いで逃げ粘り、勝ち馬から4分の3馬身差の2着にまさかの大激走。
しかも1着は平柳君の背番号と同じゼッケン7番のお馬さんが入りまして、メジャーリーグ挑戦馬券としてちょっと話題になったりもしました。
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