これは足の負担も軽減されそうですわね。
車は空港から1時間程掛けて、都会な街中に突入していく。
「おー、すげー!なんかよく分かんないけど、アメリカの街っすねー!スタジアムはまだ見えませんの?」
車の1番後ろのシート。黒崎通訳も一緒に窓から景色を眺める。
「あと10分くらいですかね。新井さん、あそこ!俺、あの大学に行ってたんすよ!」
「おー!なんか東大前みたいな感じだ!!」
シャーロットの街には、有名な大学や美術館がたくさんある。
超高層ビルディングと言えるものもあるし、1つブロックが変わると緑豊かな公園があったり、お洒落なカラフルな外壁のカフェやレストランが立ち並んでいたりと、車の中から眺めているだけでも、色んな街の顔があることがよく分かった。
「新井さん、あれですよ!あのスタジアム!!」
「うおー!あれかー!!」
桜井トレーナーが前を指さす。
街中と思えないくらいの広い敷地の中に、茶色くて四角い大きな建物。野球場なのに、丸くなく、限りなく横長の長方形。
建物の正面には、グリーンの古めかしい飛行機に、白く大きな翼が生えている球団ロゴがデカデカと。
正式名称は、グリーンオブシャーロットインノースカロライナ。
メジャーリーグ球団。シャーロットウイングスの本拠地。全面天然芝のスタジアムだ。
「ヘーイ、トキヒトー!シャーロットへようこそ!!」
車をスタジアムの正面出入口に横付けしてもらうと、待ち構えたように、ゼネラルマネージャーと俺の代理人が現れる。
背中をバシバシと叩かれながら、ウイングスを救ってくれよと託されつつ、そのままスタジアムに入る。
まるで高級ホテルのロビーのような。鏡のように磨かれた床をテクテク歩き、1塁側の通路を案内された。
ロッカールームには既に……。
No.4、Toki Araiとあり、どうぞご自由にお使い下さいと、広さや素材の高級さは、ビクトリーズスタジアムとはまた段違いだ。デカイモニターを置いて、みんなでゲームをして遊べそう。
メジャーリーグの場合、ロッカールームにメディア関係者が入って試合直後の選手にインタビューしている映像があるけど、結構そういうところは、選手の温度差が激しいところ。
わざわざ場所を移してインタビューしてくれる選手もいれば、グラウンドやロッカーを出たら何も喋らない選手も結構いる。
日本人選手だし、君はエンターテイナーマンだから、こうしろとは言わないが、くれぐれも他の選手やチームのことを口にしない方がいい。
どんな風に脚色されて報じられるか分からないからねと、契約する時から何度も耳にタコが出来るくらいに言われたことだ。
ベンチ裏の作りというのは、多少広々としている以外はだいたい一緒であり、軽くティーバッティングが出来る場所やサロンやシャワールームがあり、それらを見て回っていよいよベンチへ。
ビクトリーズスタジアムもどちらかといえばメジャー式のベンチ。横に長く、前と後ろに2列ズラッとベンチが伸びていて、最前列は柵部分にもたれ掛かるようにしながらグラウンドを見渡せる。
そこから広がるフィールドの景色はまさにメジャーリーグだね。鮮やかな緑色に、まるで絨毯を敷き詰めたようにならされた固いアンツーカー。
グラウンドを飲み込むかのようにそびえ立つ、カラフルで高いスタンド。
早速地面をあまり荒らさぬようにグラウンドに出てみる。
そして1回、2回と深呼吸。
空気がやはり違いますわね。サングラスを取ったり外したり。スタンドをぐるっと見渡したりしながら、ここが新しい自分の仕事場かと、胸を踊らせつつも、緊張感が高まってきた。
「せっかくだから、外野の方に行ってみるかい?」
「ええ、ぜひ!」
GMにそう進められて、フェンス沿いにゆっくりと外野の方を目指して歩いていく。
右翼、左翼共に330フィート、右中間のフェンスは3、5メートル程の高さになっており、センターに向かって直線的なフェンスの形状になっている。
センターの最深部は、ちょうど400フィート。約121メートル。左中間は右中間に比べると若干膨らみ気味の形になっているので、クッションボールを処理する際は要注意だ。
さらに右中間の深いところは、370フィート程なのに対し、左中間は若干フェンスが低くなっているとはいえ、388フィート。6メートル程深くなっている。
そして何より、左中間スタンドの中には120年以上前に作られたというランドマーク。
このシャーロットウイングスの親会社が初めて製作したタイプの古めかしい真緑である本物の飛行機が存在感たっぷりに鎮座しているのだ。
紅のなんとかが乗りそうな、そんな飛行機。
「あれはウイングスコックピットと呼ばれていて、シャーロットの選手がホームランを打ったり、ファインプレーをしたり、三振でチェンジになったりすると、旋回するように音を鳴らしながら動くんだよ。ブオーン、ブオーンってね。このスタジアムイチのお調子者さ」
「へー!カッコいい!早く動くところを見てみたいなあ!」
「君がホームランを打てばすぐに見られるよ!」
「そりゃ、きついわー!他の誰かに打ってもらおうっと。中軸のバーンズとかクリスタンテ辺りにね」
なんてジョークが早速とばしたりして、早くもアメリカという場所に慣れてきた感覚だ。
せっかくだから、3人で天然芝の上で寝転び、その後はクラブハウスの方にも案内してもらい、苦手なコーヒーをご馳走になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます