ルールは破るためにある精神で教えていきますわ。

「君、チェンジアップは投げれる?」



「いえ。やったことないです」



エース格であるピッチャーが投球練習をやるというので、俺はブルペンへ。



そしてレクチャーしたのはチェンジアップの性質と有効性である。チェンジアップという球種は、変化球の中唯一ストライクゾーン内で勝負出来るものだと勝手に思っていますから。


横や縦の変化だけでなく、奥行きが使えるようになるとピッチングに幅が出ますからね。


しかし、握りがどうとか腕の振り方がどうという教え方はしない。バレると相当面倒なことになる決まりがありますから。


ですから、技術的な指導はしていないという逃げ道だけは残しておきますの。




エース格の彼だけではなく、センターを守る2番手のサイドスローの子と、1年生のサウスポーにも、とりあえずチェンジアップしか勝たん!ということは力説しておいた。




その後は、野球部が使える場所や施設なんかも案内してもらう。



グラウンドは常に外野フェンスで囲えるくらいにまずまず広いし、並んでTバッティングが出来るトタン屋根ゾーンもあるし、体育館にいけば基礎的なウエートトレーニングも出来る。



これなら、俺が考えたいくつかのグループに分かれてのトレーニングを実施することが可能だ。




そんなプランを関口さんに対して熱心に説明する間に、あっという間に辺りは暗くなり始めていた。




俺が考えたグループでのトレーニングというのは、岩橋高校は部員が今20名ということですから、それをとりあえず2つに分けまして、練習開始の時間だけを決める。



例えば、いつもの放課後なら15時に練習が始められるなら、15時30分をスタート時間にする。



グラウンドでノックを受けるところからスタートする組とティーバッティング、ウエートトレーニングからスタートする組に別れる。



その時間までにウォーミングアップとキャッチボールを各個人のペースと両で済ませておく手筈だ。



グループを分ける理由は単純明快で、待ち時間を極力無くすためである。



ノックするにしても、同じポジションに2人とか3人とかいるのがもったいないねん!という俺の考え。



他の人が打球を捌いている間は、極論声を出しながら見てるしかないわけだからさ。見てるのも練習とも言いますけれど、やっぱりたくさんボールに触ってないと上手くならないですからね。



1ポジションに1人。とにかく数をこなしていく。監督も、周りの選手も、気付いたことがあったらどんどん伝える。



時間をかけてしっかり伝える。言われた側もうわべだけの返事とかをしない。分からなかったらはっきりと言う。こっちが理解出来るまでしっかりとアドバイスをもらう。



そういう細やかな時間も確保するために、小人数でトレーニングするわけですから。





ウエートトレーニングも同じ。みんなでやり始めたら、場所や器具が空くのを待つだけの時間が出来ちゃうから。高校生ってアホだから、エネルギーをもて余してると遊んじゃうからね。



そういう意味でも、監督が見ていない場所でトレーニングしていても、サボッている暇などない状況を作り上げて、集中して取り組ませる狙いもある。





毎日、ウエートで腕をパンパンにして、ティーバッティングで振り込みまくり、ノックで集中砲火を浴びる。



普段、放課後は4時間くらいの練習をやっているとのことですが、長いね。3時間でも長い。出来れば2時間半くらいには全体の練習を終わらせるべき。



毎日が行き詰まるような練習時間はいらないと思いますねん。



15時に練習を始めた、5時半には終わらせる。その後で、自分に足りないトレーニングを30分とか1時間くらいの間でやる。



そして、ただただ坊主にするもあかん。



自分に似合う髪型を考えなさいという話もした。



それも考えるという1つのトレーニング。



高校野球なんて普通の選手は、2年4ヶ月しかありませんから。常に思考して、自分に足りないものを追及しつつ、自分の長所をどんどん伸ばしていく。



そうすればおのずと自信が付いてきますから、さらに野球を楽しめて好きになると。



そういう行動で成長出来れば、野球をやらなくなった後にも生きてきますから、とても大事なことだと思いますよ。



という話をして岩橋高校初訪問は終わりとなった。





「東日本リーグ年間MVPは、北関東ビクトリーズ、新井時人選手です!!」



「U・S・A!U・S・A!」


高級なチームスーツに、みのりんに締めてもらった真っピンクのネクタイを輝かせまして、俺はたくさんのフラッシュに炊かれながら檀上へ。



打率4割0分4厘で首位打者、さらにはベストナイン。



それを獲得した喜びを、他に集まった選手達。特に同じ栃木県出身で、0勝10敗という成績で西日本リーグの最優秀防御率賞のタイトルを獲得した大阪ジャガースのショー君をイジッたりしながら、時々笑いを交えつつ、なかなか立派なスピーチを披露した。





というそんなイベントは今日の前座である。





メインイベントは、午後7時から。



動画配信サービスで、発売が間近となった、コールオブフィールド ザ・アルティメットというFPSゲームの新作お試しプレイの案件が舞い込んで来たのである。



ゲームの日本版を製作してある、日本エクレアソフトという会社のビルにある一室にお邪魔するというちゃんとしたお仕事である。



「今回は、このゲームのファンでいらっしゃるというプロ野球選手、北関東ビクトリーズの新井選手と北野選手にもお越し頂いております!よろしくお願いします!!」



「どーもー!イーサンです!!」



「ノッチです!よろしくお願いしまーすっ!!」



「おふたりとも、元気いっぱいですね!!」



「「いやー、このゲームの大ファンですからねー!」」



「おっ、めっちゃ声が揃いましたねー!」





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