言うだけではダメですものね。

俺はこれ見よがしに、自分がプロデュースしたスポーツドリンクをゴクゴクと飲み干しながら、言葉を続ける。



「それじゃあ、普通の県立高校が強豪私立との差を埋めるためには、何を変えるのか。分かる方いますか?正解した方には、こちらの。サイン入りグッズを差し上げちゃいますよ!」



舞台袖に置いていたそれを広げてちらつかせると、会場のあちらこちらから、あれやそれやと声が飛ぶ。



すると、前の方から………。




「やりかたー!」



と、正解にたどり着いた者が現れた。



よく見たら、うちの双子ちゃんの片割れだった。




身内が正解してどないすんねん!!




「はい、おめでとう。よく見なくても、わたくしの娘でしたねー。それじゃあ、今日の晩御飯は、あなたの大好きなお刺身にしますから、このグッズちゃん達は隣の男の子にあげて下さいねー」



「わかったよ、パパー」



もみじちゃんがそう答えると、会場がまたどっと沸いたのだった。



「でも、まさしくその通りなんです。やり方を変えるんです。資金力も選手の能力も部員数もグラウンドの広さも勝っている相手に勝つにはやり方と意識を変えるんです。


常に意識を持って物事に取り組んでいると、今みたたいに来年小学校の女の子にも、プロ野球選手も思考が伝わるんです。………仕込んでいたわけではありませんからね。考えるとはそういうことなんです」




「それでは新井選手。やり方を変える、意識を変えるというのは、高校野球において、具体的にはどうすれば良いのでしょうか」



司会のお姉さんから、ナイスな質問が飛ぶ。



「やっぱり1番は練習のやり方ですよ。高校球児にとって、1番限られているのは何だか分かりますか?はいまた、正解者にはグッズがありますよ!どんどん答えて下さい!」




またあれやこれやと声が飛ぶ。




しかし、なかなか正解が出ない。そろそろタイムアップ!と、なりそうなところで……。



「じかんー!」



と、また聞き慣れた声が聞こえてきた。



「今度は双子のお姉ちゃんの方でしたねー。明日はみのりんにハンバーグを作ってもらおねー。グッズは後ろの子に渡してあげてくださーい」



「わかったー」




「でも、将来はパパみたいな野球選手になりたいと話す娘が言った通り、時間というものが限られているんですよ。ですから、練習の密度を変えるんですね。


例えば、練習の始まりはランニングと体操、ストレッチとかでしょ?あれをね、全員でいちいち集まってやる必要は全然ないです。だって、集まるのを待ってたりする時間がもったいないじゃん。


俺も高校野球時代に、ずっと思ってたもん。ポジションも体格も、長所も短所も違う選手達が同じ練習していても、効果は薄いんですよ。その選手1人1人が1番のパフォーマンスを発揮するためのトレーニングをしなきゃいけないんです。



それを訴え続けていたら、当時の監督さんから嫌われましたけどね」



そんな風に自虐的な表現を持ち入りながら、高校野球の練習方法について話した。


それは俺がプロに入ってから、教わったことや学んだこと。実際に自分がやって実感したトレーニングのやり方や考え方だから、妙な説得力があるはずである。



その結果………。




「それじゃあ、明日。君たち岩橋高校のグラウンドにお邪魔しますよ。明日は練習、何時から?」




そんな流れになってしまったのだ。



来場者からも、おおーっ!と、驚いた声が上がる。



「それでは最後に、新井さんに関します景品がございますので、大じゃんけん大会を開催したいと思います!!」




「「ワアアァーッ!!」」




俺のボブルヘッドだったり、ストラップだったり、折れたバットから作られた箸。


うちの一族がみんな愛用している、いわゆるかっとばし等々に加え、サイン入りユニフォームに、実際に今シーズンの最後の試合に使ったモノホンバットも持ってきちゃったりしたおかげで会場は最後まで大盛り上がりとなった。




そして翌日の午後。




俺は宣言通り、岩橋高校へとやって来た。




「昨日は熱心にありがとうございました。監督の関口と申します」



「どうも、どうも。同い年なんですよね。お互い頑張りましょう」



俺と監督の関口さんはにこやかに、両手でガッチリと握手を交わした。






「あっ、いいッスねー!そのままこちらのカメラに向かって……」



「はいー!って、なんでめぐみんがいるんだよ」



「そりゃあ、あたしはビクトリーズの番記者ッスから。こんな面白い所に来ないわけがないじゃないッスか」



薄手のマフラーを巻いたグリグリ眼鏡さんは、5歳になる子供とのプリントシールが貼られたカメラを構えて、俺と関口さんの2ショット写真をバシャバシャと撮っていく。



「よーし、全員集まれー!」



キャプテンの一声で、野球部員がズラリと俺の前に並ぶ。




「どうも。普通の野球選手です。みんな変に緊張しなくていいから。普段通りに頑張ってな」



「「はいっ!!」」



一応そう言っておかないと、というやつ。



部員達は、既に各自ウォーミングアップを済ませていたようで、ピッチャーマウンドの横に、2台のマシンを設置して早速バッティング練習が始まる。



マシンのボール入れ係の子が、いきまーす!と、声を出し、マシンからボールが放たれる。



ストレートマシンとカーブマシン。



カキン、カキンとリズミカルに打球音が響き各ポジションに散った選手が打球を追っていく。



まだバッティング練習の最初を見ただけだが、思っていたよりも結構いいスイングをしている選手が多い。



柵越えになりそうな打球もチラホラ。



「今日は新井さんがいらっしゃるからですかね。みんな気合い入っていますよ」



と、関口さんも呟くくらいだった


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