もっと可愛い子ちゃんで埋まると思っていましたのに。

開幕から独走態勢に入ったかに見えた埼玉さんをホーム&ビジターできっちり叩くなど、気付いたらAクラスを伺える位置で後半戦へ。



そして、優勝を目指すためにはあとワンパンチというところで加入したアンデルセンが9戦9勝という奇跡の3冠馬並みの活躍に加えて、マテルも後半戦だけで24本のホームランをかっ飛ばす暴れっぷり。



結果的な9月の月間MVPに選ばれた助っ人マン2人様々。


唯一疲れが見えてバタバタした投手陣を、日本シリーズでも勝ち投手になったベテランの野中さんと、酒屋君、ブライアン君の台頭、10連勝フィニッシュというミラクルで巻き返したのだ。



チーム力ではリーグの真ん中と見られていた我々が優勝出来たのは、貯金6つでギリ1位になれる史上空前の大混戦となったことが大きな要因であった。



埼玉さんが独走したままだったら、捲るのは相当厳しかったからね。



そんな未曾有の大混戦を作り出したのは、最下位の横浜さんであった。


ビクトリーズに3タテを食らった後は、首位埼玉を3タテ、代わりに首位に立った東京も3タテ。ついでにまだ希望のあった北海道にビジターで連勝。そして東北さんには1勝1敗の痛み分け。



10連勝したビクトリーズの陰で、ラスト10試合を9勝1敗。



最下位争いのお兄ちゃん的存在だったチームのナイスアシストであった。



そんな感じで偉そうに今シーズンの戦いというものを振り返ったところで、来場者からの質問タイムとなった。



挙手をして、司会のお姉さんに指名された人が回ってきたマイクを受け取り質問を述べる。



仲のいい選手はいますかとか、これから伸びてきそうな若手はいますかとか、普段どんな食事を摂っていますかとか。1日のスケジュールを教えて下さいとか。



そんな質問に対して、にこやかに答えながら、ようやく目の前のいがぐり集団の順番が回ってきた。



その中1人が立ち上がる。



「自分は岩橋高校野球部キャプテンの今川です。自分達は去年の春、夏と私立高校に負けてしまいました。チームとして強くなるためには、どうすればいいでしょうか」



という内容であった。



岩橋高校は、前に住んでいた4万円マンションの近くにあった高校で、今でもラーメンなどを食べに行くとなれば、その高校の側を通るのでまあまあ愛着があった。



見たところ、監督さんの指示で、部員全員で新井さんのお話を聞きに行きなさいと言われた様子で、マネージャーの女の子2人も引き連れて朝から25人ほどで並んでいた様子だ。



監督さんと思われる同じとしてのくらいの男性が後ろで腕組みをしている。



学ランの1番上のホックまで閉めて、みんな目をギンギンにして俺を見つめている。





一体何を言ってくれるんだろうと、半ばワクワクした様子が他の来場者にも伝わっていくのが分かる。天下の4割打者様なら、いいご助言をしてくれるに違いない。



そんな期待が徐々に膨らんでいく中、俺は冷たく言い放った。



「君たちが強豪私立に勝つなんて到底無理だね」



それまでは所々で笑いどころがあったりして、和やかなお祝いムードでしたから、シンと静まり返った瞬間、空気感は半端ありませんわね。



だが、事実だ。



どうすればいいかなんて、何の付き合いもない野球選手に聞いてくるような思考と発想では、格上の相手に勝利するなんて不可能である。



「野球とかスポーツだけの話ではなく、お金をかけた方がより良い結果になりやすいのは当たり前ですよね。食べ物も、着る服も、野球観戦の座席も、安い物より高い物の方が当然クオリティは高いわけで。


プロ野球も、何処とは言いませんけど、東京スカイスターズとか福岡ハードバンクスとか。選手の年俸も高いし、お金を使って実績のある助っ人マンを連れてくるわけですから。


それと同じように、強豪の私立もお金を使っていい練習器材を揃えたり、プロ経験のあるコーチを雇ったり、科学的なトレーニングを取り入れているところもありますよ」


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