試合より輝いていますわぁ。

そんなおチビちゃん達を従えて、さらにかずちゃんの乗るベビーカーを押しながら、俺は小学校の修学旅行以来となるランドを少し懐かしみながら堪能していく。



パンフレットを開き、おチビちゃん達でも乗れるアトラクションを吟味しながら、かずちゃんのお守りをみのりんと交代交代しながら、楽しい時間を過ごしていく。



たまに柴ちゃんや桃ちゃん達に出くわしてゲラゲラ笑ったり、身バレして写真やサインをねだられたり、チュロスにかじりついたり。


翌日はシーに行って、そちらも満喫して、最終日の午後にはみのりんが死ぬまでに1度はと、行きたがっていたラーメン屋さんを1時間貸しきって、名店の味に舌鼓を打つ。


そして、帰りたくないと泣き叫ぶおチビちゃん達をなだめながら、また豪華な長いリムジンに乗って宇都宮へと戻っていった。




預けていたきゃらめるとにゃーちゃんを回収しながら、みのりん実家にお土産を持っていった翌日は、スタジアムに隣接するショッピングモールのイベント会場で、単独トークライブがあった。



午前10時からのスタートなのだが、もう入場ゲートにはモールが開くよりも早く、俺が現場入りするよりも早く、いがぐり頭の高校生集団を先頭にして列が出来ていたのだ。





ステージの横の、食料品エリアのアナウンスがガンガン入って来る、臨時的な楽屋に入り、ユニフォームに着替え、軽くドーランを塗り、イベントの企画の会社の方と、ビクトリーズの広報ガールである島娘ちゃんと軽く打ち合わせ。



「お客さんの入り凄いですね!さすが新井さんパワーですよ」



「はっはっはっ!俺としては、どこかの武道館でやった方がいいんじゃないかと思っていたけどね」



「調子に乗らないで下さい。余計なことをしてスベったりしないで下さいよ」



かすみちゃんの言い種が、初代広報ガールのあの子に似てきている。あそこまで食いしん坊ではないが。



「新井さん。これが今回のざっとした流れになってまして」



渡された用紙を確認する。



予定では1時間。



最初に軽く肩慣らしのトークをして、次に司会の方とのやり取りで今シーズンの総括的なことをして、後半は観客の皆様からの質問タイムの後に、最後に景品を賭けた大じゃんけん大会があるというそんな感じ。




そういうわけで時間になりましたので、腕におもちゃの注射器をぶっ刺しまして、それをテープで固定しまして、試合で使用しているのと同じ登場曲で俺は舞台へと出ていったのであった。



「日本が誇る、スーパーヒットメーカー、新井時人選手です!!」




「ぎゃー!新井さーん!!」



「アライ!アライ!」



「こっち向いてー!!」



「優勝おめでとー!!」



会場は300、400人くらいの人でぎっしり入っており、入りきれなかった方々が、ロープの後ろや2階、3階のロータリーテラスから覗いているようなそんな感じ。



みんな俺のユニフォームを着たり、応援タオルを振ったりと、なかなかの盛り上がりである。



「どうもー!みんなの新井時人でーす!凄いですねー。まるで、イケメンアイドルが出て来たみたいな盛り上がりで。…………って言ったら、皆さんちょっと静まるんですねえ!ヤキューマンをなめんじゃねえ!」




「「ギャハハハハ!!」」



「「ええぞー!!」」



というツカミが上手くハマリましてね。いきなりどっと笑いが生まれた。今のでウケなかったら、注射器にゼリー菓子を足してという2段構えでしたので、これをまだ後に取っておけるという安心感が俺を包む。




「それでは早速、今シーズンの振り返りということでお話を聞いていきたいんですが、予め3つのポイントに絞ってお訊ねしていきたいと思います」



背の高い椅子に腰を下ろし、マイクを片手に、司会のお姉さんの段取りで、自分の成績やチームが優勝出来た要因なんかを、裏話なんかを交えながら語っていく。



自分の成績に関しては、打率4割を打てたのは素直に嬉しいし、自分でも素晴らしい記録であるとしながらも、いつかはまた違う誰かが破っていくのを期待したいと話した。



記録とはやはり破るためにあるものであり、例え前人未到と言われても、誰かがそれを目指し、追い付き、追い抜くことが競技としてのレベルがまた1つ上がる要因になるのだと、関心するような拍手に包まれながらちょっと照れた感じになってしまった。



チームが優勝出来た要因は、主に2つあり、1つはチームの戦力が最後まで伸びていったことにある。



プロ野球は、ほんの数試合で優勝が決まるわけではありません。143試合のトータルで優劣を決する長丁場なわけですから、いかに1年間チームの戦力を維持出来るかが大切。



そういったところでは、今年のビクトリーズは深刻な不調や故障に悩まされた選手が少なく、計算出来る戦力が常に整っていた。



逆に他の5球団は、抜けたら非常に困る選手が度々ファーム落ちしたり、高額な助っ人マンの調子がなかなか上がって来ないという状況が目立っていた。



それを尻目に、ビクトリーズは開幕こそちょっと躓いたが、5月に俺が復帰すると、交流戦は東日本リーグで唯一の貯金持ちとして優勝出来た。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る